第2話

 今回王都を出てラウダーまでずっと街道を歩いていき、ラウダーの街に着いた2人。そのままギルドに顔を出してギルマスに挨拶をする。どこの街でもギルドに顔を出してくれと言われている2人。当人達も普通ランクAとしてのすべきギルド指導でのクエストを免除されているのでその代わりに顔をだすのは全く問題がないと考えていた。昼過ぎの中途半端な時間だったこともあり、ギルドの中は閑散としていた。


「久しぶりだな。今回はどこに行くんだ?」


「街道沿いじゃなくてこことアルフォードの間にある山間部の探索を考えてるの」


 ギルマスのフランツの問いかけにアイリーンが答える。


「なるほど。人が入っていない場所の探索か」


 フランツの言葉にその通りと答える2人。


「お前さん達が国王陛下の全権大使として国中を探索しては次々と新しい発見をしてこの国に貢献していることはギルドの中じゃあすっかり有名だ。その結果間接的に冒険者ギルドも恩恵を受けている」


 フランツの言う通りで新しい農地ができれば街道を歩く人が増え、その護衛クエストが増えるし場合によっては街道の魔獣退治もある。また農地ができれば人が増え村ができるとそこの村からもクエストが来る。目の前の2人の今までの行動の結果国内のあちこちにあるギルドは全てその恩恵を受けていた。冒険者になる人の数も増えている。


 大したもんだと思いながら目の前に座っている2人を見ているフランツ。風水術士のレスリーはもちろんだがアイリーンの実力も非常に高いというのがギルドでの共通の認識だ。冒険者ランクはAまでしかないが実際には2人ともそれより2段か3段は実力が上だというのがギルド内で回っている報告書に記載されている2人の評価だ。


「それでまたラウダーに戻ってくるのかい?」


「そこは分からなくてね。そのまま山間部を抜けてアルフォードまで行くかもしれないし、ここに戻ってくるかもしれない」


「どっちにしても街に出たらそこのギルドに顔を出してくれ」


 そうしてギルマスの部屋を出た2人は、冒険者がいない受付を抜けるとその日は早々に宿に部屋をとって疲れを取る。


 

 翌日2人は朝宿を出るとギルドには寄らずにそのまま城門から外に出てホロに繋がっている街道を3時間ほど歩いたところで南の草原に足を踏み入れていった。草原の先にはリムリック王国の中部にある山々が連なっているのが見える。草原に入って立ち止まると、


「あの山々ね」


「そう。山はもちろん、谷間や川も見て行くつもりだよ」


「レスリーの見たいところ、行きたいところに行ってくれて構わないから」


 ありがとうとアイリーンの肩を叩くと行こうかと草原の中を歩きだした。


 草原では見なかった魔獣が山に入ると2人の気配感知に反応していくる。ランクBの魔獣はアイリーンが片手剣でサクサクと倒していき、レスリーは山の状態、木の生え具合や枝の伸び具合、そして山の土を手に取っては状態を観察する。


 魔素の少ない場所で野営をしながらいくつかの山を越えて奥に進んでいくと魔獣のランクがAにあがってきたが2人の敵ではない。複数体いても弓と剣でアイリーンが対応して問題なく奥に進んでいく2人。


「やっぱりそうだ。この中部の山々が王国の中部から南部に流れている川の水源になっている。養分をたっぷりと含んでいる水が流れていってるからここは手をつけてはダメだな」


「美味しい空気もこの山々から出ているんでしょ?」


「その通り。森の木々もしっかりと成長して大きく伸びて枝には沢山の葉がついている。それらがしっかりと仕事をしてくれているよ」


 そうして更に山の中を奥に進んでいく。王国中部にそびえている山々をゆっくりと進みながら時に立ち止まっては探索していった。


 山は奥に行くほど高くなっていき、途中で急な斜面も出てくるがその時は迂回ルートを探して進んでいく2人。途中で出会う魔獣もランクAがメインになってきた。


「いい鍛錬になるわね」


 2体のランクAの狼の魔獣を片手剣で1人で倒したアイリーンが魔石を取り出しながら言う。彼女は時には弓で倒し時には剣で倒していた。


「動きの素早い狼の魔獣を何の苦もなく倒すのはアイリーンくらいだろ?」


「レスリーだってできるじゃない」


「まぁ、俺は遠隔で倒しているだけだしな。攻撃を避けながら剣を一閃して倒すなんてアイリーン以外無理だよ」


 山の中の魔素が少ない場所で野営をして夜を過ごし翌日はさらに山の奥に入っていく。木々は深く日中でも陽が差しこまない程の山の中を魔獣を倒しながら進んでいく二人。


 途中で止まっては地面の様子を見ているレスリーは周囲に風を飛ばして警戒する。ここはランクSのエリアだ。アイリーンの戦闘能力が高いとは言え無理に緊張させることもない。そうして風の感知にかかるとレスリーが足止めをしてアイリーンが倒すと言ういつものパターンで魔獣を討伐していく。


 山に入って4週間も経った頃、深い山の中を歩いていると2人が進んでいく方向の先の山の中腹から上の辺りにぽっかりと空いている洞窟の様な大きな穴が見えてきた。この辺りは王国中部の山岳地帯の中でも最深部になる。秘境中の秘境エリアだ。


 それは山自体が周囲とは異なっていた。周囲の山と違ってそれだけ岩山なのだ。地面から見るとほぼ垂直に立っている様な岩山、岩と岩との継ぎ目にある土から斜め上に木が伸びているのが見える。そしてその垂直の岩場の途中にぽっかりと大きな穴が空いているのだ。遠目にもその場所は異様に見える。


「何だろう、あれ」


 山の中腹にある穴の空いている場所を指先ながらアイリーンが言う。


「鉱山とかじゃないみたいだな。この山を越えた次の山の中腹だ」


 そうして出会う魔獣を倒しながら山の中を進んでいくこと半日。2人は山を越えて目的の洞窟が見えている岩山の裾までたどり着いた。


 下から見上げるとほぼ垂直になっている岩山。


「風を飛ばして探れる?」


「流石にここからだと距離がありすぎて無理だよ。今日はここらで野営をして明日あの山に登ってみよう」


「どうやって登るの?」


「それは大丈夫だ。風水術士だからな」


 そうして魔素の少ない場所を見つけると周囲を警戒しながら夜食を取る。


「何かいそうだよね」


「おそらくそうだろう。明日は気合を入れていかないとな」


「そうね」

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