第5話

 ちょっといいかと食事の後でマイヤーが2人のテントの中に入ってきた。

 アイリーンがコップにお茶を入れて渡すと一口飲んで美味いと言い。


「辺境領のお茶か?」


「そう。美味しいでしょ?」


「確かにな。特産品になるだけはある」


 そうしてお茶を飲み干すとコップをアイリーンに返してから2人を見て


「今日の調査の感じだと相当の鉄が埋蔵されている様だ。となると今後は国としてこの一帯を開発することになるだろう」


 その言葉に頷く2人。


「ここだけの話だが鉄は王国内の他の鉱山で採掘しているが年々採掘量が減ってきている。その内と言っても遠くない将来には枯渇するだろうというのが地質学院、今日きているメンバー達の意見だ。そんな中で新しい鉱山がこうして見つかったのは国としては計り知れないメリットがある。現有の鉱山の産出量がこれ以上減れば、早晩隣国から購入せざるを得なくなるというのが地質学院の見立てだったからな」


 隣国のフォレス王国とは友好関係にあるとは言え未来永劫その友好関係が続く保証はない。食料のみならず鉄やミスリルについても万が一の有事の際に備えて自給自足の体制を作っておくのは国家として当然のことだ。


「それでこの鉱山だが、地質学院の正式な報告書が出た時点で速やかに開発に手をつけたい。それでだ。この地区の開発について注意すべき点。つまりやっていいことと悪いことをレスリーとアイリーンから聞いておきたい」


 2人はマイヤーがこのテントに来た時からその目的がこれだろうと予想していたのでマイヤーの発言を聞いても驚かず、レスリーがマイヤーの顔を見て答えていく。


「まずこの川には手をつけない事だな。鉱山の開発に邪魔だからと埋めたり川幅を狭めたりしてはダメだ。この川はこの辺りは薄茶色だが西に行くと透明になって綺麗な川になっている。鉄分が川底に沈殿してるからだろう。西方面には野生動物や草原が広がっている。それらの栄養分がこの川の水になっているからな」


 レスリーの話を聞きながらポイントをメモに書いていくレスリー。


「露天掘りもやめた方がいい。山を削るのは良くない。坑道堀りで開発して欲しい」


「もとより露天掘りは考えていないよ、安心してくれ」


 その言葉にホッとするレスリー。


「中の鉱脈がどうなっているのかは俺はわからないが、できれば坑道の入り口は左右の山につき1箇所、多くても2箇所にして欲しい。東西にあるから最大でも4箇所だな。それ以上作ると良くないことが起こる未来が見えている。具体的にはわからないんだが」


「いや、そこまで見えているのなら問題ない。最大でも2箇所ずつの4箇所。これ以上は入口を作らない様にしよう」


「助かる。それから掘って出てくる土は川に流さずにこの草原に巻くのは問題ないだろう。さっきも言ったけど川が薄茶色で鉄分を含んでいる。ここらの草原はその水で育っている。鉄分の入ってる土を巻いても問題ないな」


「それはいい情報だ。掘った後の土の処理はどこの鉱山でも処理に悩んでいるからな。この広大な草原地帯に捨てられるのであればずっと楽になる」


 レスリーと話をしながらポイントをメモしていたマイアー。ペンを持ったまま顔を上げてアイリーンを見ると、


「アイリーンから何かあるかい?」


「そうね。最北端の村の活性化?おそらく人も物も動く様になるだろうから賑やかになるだろうけど村の人の暮らしが豊かになる様にして欲しいわね」


 なるほどと再びメモをしてから


「王国の資金を使って村を広げよう。宿を増やしたり馬車を留める広場もいるだろうしな。人の行き来が増えれば村も栄えるだろう」


「お願いね」


 そうして仕事の話が終わるとそのまま雑談になった。マイヤーも宰相の顔から友人の顔になる。表情から硬さが取れている。


 アイリーンが淹れたお茶を3人で飲みながら、


「リックがあのダンジョンを2人でクリアしたと聞いて、2人が帰った後で悔しがっていてな。俺も行きたかったんだよと暫く言ってたよ。時期国王陛下だっていうのに子供みたいに駄々をこねてな。最後はマリアも切れていい加減にしなさいよって怒鳴ってたよ」


 それを聞いてあのマリアがねぇと声を出して笑う2人。


「正直当時よりもアイリーンも俺も装備とスキルで腕が上がってたからクリアできたとも言える。あの時ならクリアできたかどうかはわからないな」


 その言葉にじゃあ2人とも相当強くなっているんだなと言って、


「それにしても流石に隠し部屋だな。凄い装備が隠れているもんだ」


 マイヤーとリックは2人から貰った精霊の腕輪と盾を使ってみようと王城内にある騎士の訓練場で試してみたらしい。盾はオズの見立て通りの性能で使ったリックもびっくりしたと言い、


「そして俺のこの腕輪だ。以前よりも精霊魔法の通りがずっと良くなっている」


 と左手首にはめている腕輪を見せていう。そうしてから


「俺達の装備はもちろんありがたいが、それよりもアイテムボックスの腕輪とかエルフの弓より凄い弓に無限に矢が出る指輪とか、流石に辺境のダンジョンだな。これでまた探索がずっと楽になったんだろう?」


「もちろん。遠隔攻撃の手段が増えて、素早さも上がってる。剣は元々凄い剣だしね。レスリーと2人でウロウロしても身の危険はまず感じないわね」


 あっさりというアイリーン。マイヤーは目の前に座っている2人を見てまた一段とレベルアップしたなと感じていた。アイリーンは以前から抜群の身体能力を誇っていた。それが装備でさらにアップしているだろう。


 そしてレスリーだ。この男は戦闘じゃなくて自然と対話することでどんどんスキルを上げている。この鉄鉱山だって普通ならまず見つけられない場所にあるし、見つけて独り占めしたらそれだけで膨大だ利益を得ることができるだろうが全くその気がないのがわかる。友人の国王陛下の為にと淡々と仕事をしている。


 改めてレスリーと知り合ってよかったと再確認しているマイヤーだった。


 結局調査隊は鉱山で2週間ほどじっくりと調査をし、あちこちから大量のサンプルを採り王都に持ち帰ってきた。

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