第4話

 王城で鉄鉱石の話をしてから2週間後、騎士の呼び出しを受けた2人は再び王都に出向いて登城した。


 いつもの部屋に入ると今日は3人が先に部屋に入っていて2人を出迎える。そうしてソファに座ると早速マイヤーが口を開いた。


「先日2人が持ち帰ってくれた鉄鉱石を王家の専門家に分析させた。結果は鉄鉱石だった。しかも今採掘している鉱山のよりも純度が高いという話だ」


「よかったじゃない」


 アイリーンの言葉に頷くと、


「それで早速調査隊を現地に派遣することにした。それでだ、お二人には調査隊に同行して現地に出向いてもらいたい。現地が地図のない場所なので道案内。それと開発するにあたっての注意点を現地で調査隊に直接説明をしてもらいたいんだ」


 レスリーとアイリーンはその話を聞いてお互いに顔を見合わせると


「構わない。2人で同行しよう」


 そう言うと黙っていたリックが


「調査隊にはマイヤーも同行してもらうつもりだ」


「宰相自らが出向くの?」


 びっくりするアイリーン。マイヤーはにやりとすると、


「この前も言ったけど鉄関連は国家機密扱いなんでね。俺が現地を見ておいた方が良いと思ってさ」


 そう言ってからリックも行きたがってたんだけど俺が止めたというと、それは流石にダメだろうと言うレスリー。


「そうでしょ?私も行きたいんだけど流石にねと言ったのよ。リックは最初は俺も行くって暫く駄々をこねてたんだけどマイヤーが国王陛下は城でじっとしてどんと構えているべきだ。と強く言って納得させたのよ」


「久しぶりに外に出てみたかったんだけどさ。マリアとマイヤーからボロクソに言われてさ。マイヤーだけを現地に派遣することにしたんだよ」


「当たり前だろう?リックは今や国王陛下だ。以前の様にじゃあ明日朝ギルド前集合なという感じで軽く外に出られるわけがないじゃないか」


 そう言うと横からアイリーンも


「リックとマリアはお留守番ね。3人でしっかりと見てくるから安心して」


 


 そうして2人が登城した5日後の朝、2人が王都に入って王城に出向くとそこには数名の人が集まっていた。そうしてすぐにマイヤーがやってきた。


 調査隊員8名とマイヤーに挨拶をすると、


「北の村までは馬車で行く。そこからは徒歩の移動になる。今回はあえて護衛の騎士をつけていない。レスリーとアイリーンで十分に対応が可能だろうからな。派手にしたくないってのもあるが」


「いいんじゃない。精霊士のマイヤーもいるしね」


 とアイリーン。現地に行く調査隊員は王都の地質学院の分析室のメンバーだ。今回の鉄鉱石の分析も彼らに頼んだんだとマイヤーが言う。


「今採掘している鉄鉱石よりも純度が高いので楽しみにしているんですよ」


 1人の調査員がレスリーとアイリーンに話かけてくる。


「埋蔵量とかは俺達はわからないからな。しっかりと調査してくれ」


「そうそう。調査はプロにお任せするわ。私たちは周辺を警戒するから気にせずに納得するまで調査して」



 そうして馬車2台に分かれた一行は王都を出て北の村に向かって馬車を走らせていく。  


 最北の村で一泊した翌日、調査隊員8名にレスリー、アイリーン、そしてマイヤーを加えた11名は徒歩で北西の方角に歩き出した。


 村を出た初日は草原で野営をするが、レスリーが杖を前に突き出すと地面が盛り上がり、幅50センチ、、高さ2メートル、長さ20メートル四方の正方形の土の壁があっという間に出来上がる。


 それを見て驚愕の表情になりそして感嘆の声を上げる調査隊員。


「これで夜も安心だろう?」


「噂には聞いていましたが実際に見ると想像以上でした」


 と感心しきりだ。マイヤーは黙っていたが相変わらず凄いなと四方を囲む土の壁を見ながら思っていた。手で押してもビクともしない硬さで。


「また風水術のスキルが上がったんじゃないのかい?」


「そう。少しづつだけど上がってる様なんだよ」


 安全な土の壁の内側に各自テントを貼って夜を過ごした翌日は森の中を歩いていく、アイリーンとレスリーが先頭を歩き魔獣の気配があるとアイリーンの片手剣でさっくりと倒してほぼノンストップで進んでいった。


 そうして草原と森の中を進むこと約2週間、前を歩いていたレスリーとアイリーンが立ち止まって後ろを振り返り、


「この川の水を見てくれるかい?薄茶色だろう?鉄分を含んでいるんだ」


 後から川に近づいてきた調査隊の隊員が川を見ると確かに薄茶色になっている。隊員の1人がサンプルとして少量の川の水を採って瓶に入れた。


「この川がほらっあの山と山の間から流れてきているだろ?鉄鉱石のサンプルはあの両方の山から採ったものだよ」


 レスリーが指差す方を見ると正面に2つの山があり、川はその合間から流れて来ているのが見えた。


「ようやく着いたな」


 マイヤーが言う。あの山が目的地だと一行はそれから1時間ちょっと歩いて山裾に着いた。そこで野営をし翌日から本格的な調査に入る。


 一行はまず東の山に入っていって調査を開始した。レスリーとアイリーンは調査隊の周りで周辺を警戒し、マイヤーは調査隊と話をしたと思えば2人の方にやってきて同じ様に周辺を警戒する。


「確かに魔獣の影が無いな。これなら開発するにしても安心だな」


「魔素が薄い。せいぜいランクBクラスだろう。この辺りに生えている木と話をしたが、魔獣はこれより北の万年雪をかぶっている国境地帯の山々に生息しているらしい」


 そうやって3人で周囲と調査隊を見ていると調査隊のメンバー達が話しをする声が時折聞こえてきた。


「これは凄い」


「地表にここまで出てるとなると中は相当あるぞ」


 などと言いながら持参してきている器具で土を掘っては中の様子を見たり剥き出しになっている岩を削ったりしている。


 丸一日かけて探索をすると一旦下山をして山裾で野営の準備をする。例によって周囲を土の壁でしっかりと囲ったその内側で全員で夕食をとりながら


「想像以上です。まだちらっと調べただけですがかなりの埋蔵量が期待できます」


 と興奮冷めやらぬ口調で話す調査隊のメンバー達。


「この調査結果が今後の国家の開発の際の基礎データになる。時間はかかっても良いからしっかりと調査を頼む」


 マイヤーの言葉に頷くメンバー一同。

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