第3話

 弓を収納した魔法袋から今度は片手剣の木刀を取り出したアイリーンはその場で軽く素振りをする。一方レスリーはアイテムボックからいつもの5-60センチほどの木片を普段より多く地面に置いた。


「これくらいかな?」


「そうね。スピード上げてもいいわよ。いけそうなきがするの」


 アイリーンの言葉に頷くと杖を前に突き出す。すると鍛錬場で2人を見ていた冒険者達の表情が一変した。


 地面に置いていた多数の木片が宙に浮いてレスリーの周囲をゆっくりと周りだしたのだ。


「なんだあれは?」


 思わず声を出す冒険者、その次の瞬間見ている冒険者達がさらに驚愕することになる。レスリーがもう一度杖を前に差し出すと浮いていた木片が一斉にもの凄いスピードでアイリーンに襲いかかっていったのだ。


 目にも止まらない程のスピードで木片がアイリーンに向かってくる。それを体を交わしながら次々と木刀で叩き落としていくアイリーン。地面に落ちた木片は一旦レスリーのところまで戻ると再び浮いてそしてアイリーンに向かって飛んでいく。


 今や鍛錬場にいる全ての冒険者達がレスリーとアイリーンを見ていた。レスリーが杖を突き出すたびに木片が浮いては飛んでいきそれを信じられない身体能力で無傷で叩き落とし、体を動かして交わしていくアイリーン。


 途中から木片のスピードを上げたがそれでも同じ様な対応で飛んでくる木片を次々と叩き落としていく。


 しばらくしてようやく鍛錬を終えた2人。アイリーンが近くのベンチに座るとレスリーが1人で杖を突き出すと鍛錬場にあったミスリルの人形の足元から多数の土の槍が真上に飛び出してミスリル人形に突き刺さる。


 またもや驚愕の表情になる他の冒険者達。そうして杖を振って土の槍を消すとそこは何もなかった様に普通の地面に戻っていた。


 レスリーはベンチのアイリーンの隣に腰掛けると、水筒を取り出して中の水に癒しの水と詠唱して霧の様になった水を2人に振りかける。ありがとうというアイリーンに


「想像以上だな。数が増えてスピードも増した木片を全て交わしたり、叩き落としてたじゃないの」


 言われたアイリーンも満更じゃない表情で


「装備のせいね。また一段と身体の動きがよくなったのが自分でもわかるもの」


「装備プラスアイリーンの鍛錬の賜物だな」




(こりゃ俺の想像以上の実力だ。レスリーはともかくアイリーンのあの身体能力の高さも半端ない。レスリーが目立つがアイリーンも超一流の戦士だ)


 ギルド職員から2人が鍛錬場にいると聞いてギルマスのアレンが鍛錬場の隅から2人の鍛錬を見に来ていたのだ。アレンが見ている前のベンチに座っていた王都所属の冒険者達はしばらく声も出なかったが、ようやく1人の冒険者が


「レスリーとアイリーンだ」


 と言う。その声を出した男に顔を向ける周囲の冒険者達。そして再び前を向いて、


「あの2人がレスリーとアイリーンか。名前だけは通っていたが実際に見るのは初めてだが、2人ともなんと言う戦闘能力なんだよ」


「恐ろしいほどの身体能力の高さと片手剣の技術を持っているアイリーンと風水術士で強烈な術を持っていると言われているレスリー。噂は聞いていたがこうして実際に見てみると俺の想像以上だ。2人とも桁違いの強さだ」


「そうだ。彼らがレスリーとアイリーンだ」


 座って話をしているとその背後から声がして振り返るとそこにはギルマスのアレンが立っていた。アレンはベンチに座っている王都所属の冒険者に顔を向けて、


「俺も2人の技を実際に見るのは初めてだ。お前達の言う通りあの2人は俺も想像以上だった。ランクAのレベルじゃない。あの2人はそれよりも数段上の実力がある。アイリーンの剣の動きは早すぎて俺でも全ては目で追えない。身体能力もとてつもなく高い。そしてレスリーのあの風水術だ。ドーソンからホロまで、そこにいる魔獣が強すぎて誰も奥まで入って行くことができないと言われていた森を2人だけで3ヶ月かけて踏破したというだけある。おそらくこの国でもトップクラスの実力だな、いやあいつらより上はいないだろう。実質この国のトップだ」


 ギルマスの言葉を聞いてまたびっくりすると同時にトップの2人と言っているギルマスの言葉に納得する冒険者達。


「俺達が束になってかかっても勝てないな」


「当然だろう?あっという間に全員ぶちのめされるぞ」


「近づく前に地面から突然無数の槍が飛び出してくるんだ。勝てるわけがねえよ」


 目の前のやりとりを聞きながらギルマスのアレンも全くその通りだ。まず普通なら近づくことすら出来ないだろう。あそこまで強くなってると気配感知の能力も相当高いだろうし。アルフォードで最高難易度のダンジョンを2人でクリアしたという報告が来ているがフィールドのみならずダンジョン等でも場所に関わらずあの2人ならどこで戦っても負けないだろうと確信する。


 しばらく休んで立ち上がった2人、鍛錬場から出ようとしてそこにギルマスがいるのを見つけると近づいてきて声を掛ける。


「いい鍛錬になったわ。またちょくちょく鍛錬にくるのでよろしくね」


 アイリーンの言葉に頷くと、


「使いたい時は遠慮なくいつでも使ってくれよ。2人の鍛錬を見るだけでも周りの冒険者にとってはいい勉強になるからな」


「アイリーンのは見る価値があると俺も思うけど、俺のは見ても参考にならないけどな」


「まぁな。風水術士なんてレスリーくらいだからな」


 そうしてギルマスと軽口を叩きあい、お礼を言ってそのまま鍛錬場からギルドの扉を開けて外に出た2人。


「どうする?」


「今日はいいだろう」


「そうね。準備で忙しいだろうしね」


「そういうことだ」


 その後は市内をぶらぶらとしてアイリーンの買い物に付き合ったり、食料品や日用品を買ってアイテムボックスに放り込むと2人はそのまま王都を出て自宅に戻っていった。

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