第2話
国王が交代するということが正式に王国から発表された。リムリック2世王子が新しい国王となる国王交代の儀は今から半年後に王都で取り行われることとなった。
「いよいよリックが国王になるのね」
「そしてマリアは国王妃だ」
その発表があった数日後、王都守備隊の兵士に付き添われて王城で勤務している政務官が2人の自宅を訪ねて招待状を手渡した。
その際に今より国王交代の儀が終わるまではできれば王都から離れないで貰いたいと言われわかったと返事をする2人。
2人は普段郊外の森の家におりめったに王都には顔を出さないが、王都では発表があってから街中で儀式の準備に取り掛かる。半年先とはいえ国王の交代は国最大の儀式となるので早め早めに準備に取り掛かっていた。
招待状をもらってしばらくして久しぶりに王都に顔を出した2人。そこには城門から王城に続く石畳の道を修理したり、通り沿いにある家の壁を塗り替えたりと皆忙しそうに動き回っている。それを見てびっくりしながらギルドの扉を開けて中に入ると昼前だということもありギルドの中は朝夕ほどの混雑ではなかった。とは言うものの打ち合わせをしているのか酒場には数組の冒険者達がテーブルに座って話をしたりジュースを飲んでいたりしている。
レスリーとアイリーンの名前は王都ギルドでも有名になっていた。レスリー街道とアイリーン村の話はこの王都までその話が届いている。ただ2人は王都のギルドにはほとんど顔を出していないので名前は知っているものの実際に2人の顔を知っている冒険者はそう多くはいない。従い2人が入ってきたのを誰だ?という目で見ている酒場の冒険者達。
空いている受付でギルマスとの面会を求める2人。すぐに奥に案内されギルマスの執務室に入ると王都のギルドマスターのアレンが2人を出迎える。
「久しぶりじゃないか。辺境領やアイマスでの活躍はこちらにも報告が来てるぞ」
ソファに座るとギルマスの方から話かけてくる。ギルドではこの2人の扱いについては王家の通達もあり全ての街のギルドマスターがその事を理解している。そして2人があちこちでやってきた事についてもその土地土地のギルマスから報告書が上がりそれは全ギルドで共有化されていた。
「新国王の即位の儀の列席に招待されたのでしばらく王都から動けないのよ。なのでしばらく王都にいることになったんで挨拶に来たの」
「そりゃそうだろう。お前さん達は一緒に行動した仲間だ。招待されるのは当然だろうしな。まぁたまには王都でのんびりしてたらいいんじゃないのか?」
ギルマスの言葉にそうするしかないよなと答えてから
「それにしても半年先なのに街の中はもう交代の儀の準備を始めていたんだな」
びっくりしたよとレスリーが言う。
「即位の儀は国家最大のセレモニーだ。全国の貴族、そして隣のフォレス王国からも賓客が大勢やってくる。王城から街の中を綺麗にしておけってお達しが出てるんだよ」
「そうなんだ。でも冒険者は関係ないんでしょ?」
「いや、それがそうでもなくてな」
ギルマスのアレンが言うにはホロからラウダー、そしてラウダーからこの王都までの街道を整備するということになり多数の人夫が仕事にかかっている。彼らの仕事中の安全確保という目的で各都市のギルドにクエストが出されているらしい。
「ラウダーから王都へ伸びている街道の内3分の2は王都ギルドの管轄になってな。ランクBの奴らを中心に交代で護衛クエストに送り出しているんだよ。そのやりくりでこっちも毎日てんやわんやだ」
「ランクBクラスの冒険者から見たらそれって美味しいクエストじゃない」
「その通りさ。だから皆が公平に受けられる様に調整してるんだがこれが結構大変なんだよ」
アイリーンの言葉にギルマスが応えると2人ともそりゃ大変だと納得する。冒険者は基本自由な稼業だ。ある程度稼いだらもう護衛なんてやってられるかというパーティもあれば危険度が低くて安定的に収入がはいるからもっとやらせろというパーティもあるだろう。公平に処理していくのは大変だ。聞けばギルド職員の中で専門のチームを作って彼らが毎日シフトの様なものを作成しているらしい。
「お前さん達もやるか?」
と聞かれてとんでもないと顔の前で激しく手を振るアイリーン。
「稼ぎたい人たちに仕事を振ってあげて」
冗談だよと言うギルマスにこれからも適当に顔を出すよと言って執務室を出た2人、ギルドの受付に戻るとそのまま鍛錬場に向かっていく。
「今の誰だよ?」
「2人だけど結構雰囲気あったよな。高ランクか?」
「ここの高ランクなら大抵は知ってるけどあの2人は知らない顔だった。よその街から来たのかも知れないな」
「鍛錬場に行ったみたいだ。腕を見てみるか」
1人がそう言うとそうしようと酒場にいた10名ほどの冒険者達が2人の後を追う様に鍛錬場に向かう。
彼らが鍛錬場に着くとそこにはレスリーとアイリーンの他にここで鍛錬をしている冒険者達の姿があった。
ローブ姿の2人を見つけた冒険者達は鍛錬場の周囲にあるベンチに腰掛けると
「2人組で高ランクって誰だろう?パッと思いつかないな」
「意外と見掛け倒しの奴らかも知れないぜ」
そんな話をしながら2人を見ている複数の視線は全く気にせずにレスリーとアイリーンはギルドの鍛錬場に入るとその隅に移動する。そこで魔法袋から弓を取り出したアイリーン。鍛錬場の隅には弓の鍛錬をする的と模擬の矢がある。右手の指から指輪を外すと模擬矢を取り弓を構えて無造作に矢を撃つとその矢は見事に真っ直ぐに飛んで的のど真ん中に命中した。
「弓を構えている格好も綺麗だし、様になってるじゃないか」
「でしょ?」
そう言って次々と矢を射るアイリーン。アイリーンの矢を射る姿を見ていたベンチに座っている冒険者達。次々と的に命中させるアイリーンの弓術を見て
「狩人だったのか」
「いい腕してる。全部中心点の中に入ってるぞ」
10本ほどの矢を放ったアイリーンは弓はこれくらいでいいかと魔法袋に弓を戻すとレスリーを振り返ると
「いつもので。ただヘアバンドで素早さが上がってるから本数を増やすか木のスピードをあげるかどっちでもいいわよ」
「なら両方しようか」
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