第三章
鉱山
第1話
王都にて無事国王交代の儀式、リムリック2世の即位の儀が執り行われた。レスリーとアイリーンの2人も招待されていたので王城に出向いて儀式に列席する。
王冠が前国王からリムリック2世王子に託され、その王冠をかぶった新国王が王城のバルコニーに現れると王城に集まっていた多くの国民が拍手で出迎えた。
そうして無事に即位の儀式が終わるとそれから王城でのパーティが2日間にわたって盛大に行われた。賓客が多い為に2日に分けて行われたのだ。レスリーとアイリーンは初日のパーティに参加をした後はそのまま王都から自宅に戻っている。
余りに多い招待客、彼らが次々と切れることなく新国王の元に挨拶に出向いていく。新国王の前はまるで夕刻の冒険者ギルドの受付に並んでいる冒険者かの様な長い貴族達の行列が出来ていた。それを見てその場での挨拶を諦めて早々に王城を出て自宅に戻っていたのだ。
その新国王即位の儀式が無事に終わって10日も経つと招待客も地元に戻っていき王都はようやく普段の日々を取り戻していった。街の中もいつもの賑やかさとなり市内の目抜き通りには屋台も復活していつもの王都の日常が戻ってきた。
冒険者達もクエストや、ダンジョンに潜ったりとこちらも日常が戻ってきていた。
レスリーとアイリーンは自宅でのんびりと過ごしていたがそろそろ又国内を探索しようかと話をしていた時に王都から使いの者が郊外の自宅にやってきた。そうして冒険者の格好になった2人は久しぶりに王城に顔を出す。
登城して案内された部屋は今までとは違った部屋だった。案内する騎士に聞くとここは国王陛下がプライベートで近しい人と会う部屋らしい。2人は例によって杖をもち剣をさしている冒険者が魔獣退治に行く格好だが騎士の誰もそれを咎めない。
案内された部屋は以前訪れていた部屋よりも2回りほど広くそして調度品も凝っている。ソファに座るとそう待たずしていつもの3人が部屋に入ってきた。2人がソファから立ち上がると、
「久しぶり」
そう言って部屋に入ってきたリックは以前と変わってない様に見える。その後ろにはマリアが、そして最後に宰相になったマイヤーが入ってきた。
「久しぶり、どう?落ち着いた?」
全員が座るとアイリーンがリックを見る。
「なんとかね。まぁ前から引き継ぎをしていて実務は既にやっていたからそっちはいんだけどさ」
そこまで言うと一旦言葉を切って、
「国王の言葉遣いってのが慣れなくてね」
そう言って笑うリック。隣からマリアも
「毎晩寝室でね、面をあげよ、とか、余は期待しておるぞ。とか何度も言うの。もうやめてよって言ってもまだ迫力が足りない。もっと練習しないとダメだとか言ってずっとやってるの。こっちはそれに毎晩付き合わされてるのよ」
その言葉に大笑いするリック以外のメンバー。
「そのうち自然とできる様になるんじゃないの? 国王になって俺達と会う部屋もグレードアップしてるしさ。環境が変われば本人も変わるだろう?」
「その無責任な発言はやめてくれよな、レスリー」
ひとしきり笑い終えるとレスリーはマイヤーに顔を向けて
「宰相の仕事はどうだい?」
「こっちはずっと前から引き継ぎしてたからな。政務自体は滞りなく進んでるよ。リックの裁量を仰ぐ時もお互い付き合いは長いし問題はない。政務をサポートする官僚達は以前と同じメンツで変えてないし、順調だよ」
学生時代からの親友のリックとマイヤーはツーカーの仲だ。そのあたりは全く問題がないだろうとレスリーが言うとその通りでね。出す前からこいつは許可が降りるがこいつは無理だろうというのがわかっているからなと言う。
「ということでこっちが落ち着いたからさ、2人がまた国内を探索する前に逢っておこうと思って」
リックが2人を呼び出した理由を言う。即位の儀式の時は人が多過ぎて挨拶出来なくてすまなかったとレスリーとアイリーンが謝ると、気にするな。あの場所であの人の多さなら仕方ないさと当人達は全く気にしていなかった。リックがそう言った後で、
「そろそろレスリーとまた出かけようって話をしていたところ。ちょうどよかったかも」
「2人はいつでも来てくれてもいいって言ってただろ?」
「でも流石に即位して直ぐはね、とレスリーと言ってたの。でもこうやって逢ってみたら皆相変わらずで安心したわ」
「こっちも2人が変わってなくて安心したよ」
「それでレスリー、今度はどこに行くつもりなんだい?」
マイヤーがリックに顔を向けて聞いてきた。
「まずは王都の北に行こうかと思ってる」
「目的は?」
「今までは街道沿いをメインに見てきた。エルフの森は別にしてね。それでこれからは街道から外れているところを見て行こうかと思ってる。主要な街道以外の道沿いにも村はあるだろうし、それに今は人が住んでいない場所も何かあるかもしれない。その辺をアイリーンと2人で探ってくるつもりだ」
レスリーの言葉に頷く3人。
「王都の北の方となると魔族領との国境になっている万年雪をかぶってる山までいくつもりなのかい?」
聞いてきたマイヤーは真剣な目をしている。相互不可侵の条約を結んでいるとはいえ基本的に魔族と人間とは仲が良くない。レスリーも当然そのあたりの事情を知っているので、
「そこまでは行かない。無用に魔族を刺激したくないからな。その手前の山々を見て回ろうと思ってる」
その言葉を聞いてマイヤーの表情が緩む。隣を見るとリックもマイヤーと同じ表情をしていた。隣からアイリーンが
「王都の北の人が住んでいない場所がどうなっているのか見てみたいってレスリーが言うの。ひょっとしたら宝の山があるかもしれないって」
「そう。アイリーンと宝探しに行ってくるよ」
「見つけた宝物は俺達5人で山分けだぜ」
リックが言うと当然だなとニヤッとするマイヤー。
「でも北の方って本当に人が住んでないのよ。夜に休む村もないし魔獣の強さもわからない。気をつけてね」
マリアが心配して言うが、アイリーンは大丈夫よとあっけらかんとした口調だ。レスリーとアイリーンは今や目の前の3人が知っている2人の強さ以上になっていた。森を踏破したりダンジョンをクリアしたりして2人の実力は以前よりもずっと上がっている。
王都から北に2日程歩いたところにある村がリムリック王国最北の村になる。それより先は万年雪を被っている高い山脈まで全く人が住んでいる場所がない。これは万が一魔族が南進して来た時を想定している。
そして一般には知られていないが王都の北のある場所には堅牢な要塞がありそこには常時兵士が詰めて北を見ている。高い山脈の中にある谷間の部分に魔族と人間界を繋いでいる細い回廊があり、侵略するにはその細い道を通ってくるしかないのをお互いにわかっているからリムリック王国はその回廊を見下ろせる場所に要塞を作っている。おそらく魔族も同じ様に山の向こうに人間の侵入を見張る目的の要塞があるだろうというのがリムリック王国軍の見立てになっている。
レスリーとアイリーンはそ最近までその事実を知らなかったが、リックが国王に就任した後に2人には地図はあった方がよいだろうと内々にと地図をもらっていた。その地図には北東方面の街道から要塞の位置までが詳しく書かれていたのだ。
「無理はするつもりはないから安心してくれ。3、4ヶ月で戻ってくるつもりだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます