南の森

第1話

 今度はまだ誰も知らない森の中を踏破することになる。森に入ったところにランクAが複数体いるということは奥に進んでいくとそれより上のランクの魔獣がいるということだ。食料はもちろん、薬草などの薬も十分に用意すると2人はギルドに顔を出してギルマスに面会を求めた。


 ギルマスのエバの執務室に案内されると、

 

「明日街を出て行くことにした。色々と世話になった」


 とレスリーが切り出す。


「今度はどこに行くの?」


 その質問には2人で顔を見合わせてからアイリーンが


「南の森を歩いてみようかと思ってるの」


「あの森は危険だって言われてるのは知ってるのよね?」


 もちろんと頷く2人。


「ここで聞いた話だと森の入り口付近でランクAの魔獣が複数体出たらしい。皆言ってるよ、あそこはやばいって。だからと言って俺達は逃げることはできないんだ。国中を見て回るというミッションがあるから」


「王子からの依頼なの?」


 レスリーの言葉を聞いたエバが問う。

 再び頷く2人。


「そう。レスリーとアイリーンなら2人でも普通のランクAのパーティよりはずっと強いから滅多なことではやられないとは思うけど。でもあの森は中に何があるのか誰も知らない。どんな危険があるかわからないから気をつけてね」


「もちろん。慎重に行動するつもりよ」


「地図を見ている限りだけどあの大きな森を抜けるとホロの街に行けると思うのでそちらまで行くつもりだ」


 アイリーンに続けてレスリーが言う。


 確かに地図だけを見るとこのドーソンから森の中を南に歩くととホロの街の方角だ。ただ森は非常に広くそして深い。今まで何組かの冒険者達が南の森を探索しようと向かって行ったが皆入り口付近を少し探索しただけで戻ってきていた。

 


 - あそこは無理だ。俺たちの手に負えない。 -



 南の森から帰ってきた冒険者達は一様にそう言う。森に入ると直ぐにランクAが複数体出てきてそしてほとんど休むことなく連戦となる。魔法使いは魔力が欠乏し戦士やナイトも連続する戦闘で体力を削がれていく。入り口でその状態だ。とてもじゃないが森の中に入っていくのは不可能だと。

 

 エバはその時の冒険者達の言葉を思い出しながら目の前の2人を見ていた。彼らも当然その情報は掴んでいるだろう。その上で南の森を抜けてホロを目指すと言う。これが普通の冒険者ならエバは間違いなく行くのを止めるだろうがこの2人は別格だ。


 鍛錬場で見たレスリーの風水術。敵が複数体でも関係なく地面から槍を突き出して行動を制限させることができる。そして隣のアイリーンの腕は超がつく一流の戦士だ。


 2人とも鍛錬場で100%の力を披露したとは思っていないエバ。もっと隠している能力があるんだろう。それなら今まで誰も踏破できなかったあの森を踏破してくるかもしれない。


「わかったわ。森を抜けてホロの街に行ったらそこのギルドに森の中の様子を報告書して頂戴。ホロのギルマスのポールにはこちらから連絡を入れておくから」


 納得した表情になったエバはそう言ってから


「本当に気をつけてね」


「ありがとう」


「わかった」


 そうしてギルマスの執務室を出るとギルドの酒場にいたトミーのパーティを見つけ、彼らに明日ここを出発して南の森を探索することを話する。


「南の森のことを聞いてきた時からお前さん達はあそこに行くんだろうなとは思っていたが」


 トミーがそう言うとその後を続けてヘンドリックスが


「アイリーンとレスリーの腕ならランクAの複数体も苦にならないだろう。とは言え俺達が知らないもっと強い魔獣がいるかも知れない。十分に気をつけて行ってこいよ」


「そうするよ」


 ヘンドリックスの言葉に答えるレスリー。他のメンバーも無理するなよと気を遣って言ってきてくれるその心遣いが嬉しかった。


 トミーは他のメンバー達や酒場にいた冒険者達と話をしている目の前の2人を見ながら、こいつらならあの森を踏破するかもしれないと思っていた。レスリーの風水術は範囲攻撃ができる。しかも遠隔からの範囲攻撃だ。そうしてアイリーンの剣術。今まで見てきた冒険者達とは全く戦闘スタイルが異なっているが目の前の2人が尋常じゃないスキルを持っているのはわかっていた。ランクAよりも上位のクラスでもこの2人なら倒すことは難しくないだろうと。


「ところでレスリーらは国中をあちこち周るのがミッションみたいなものだって言ってたよな?」


 とトミー。


「そうだな」


「一度行った場所にはもう行かないのか?」


「そんな事はない。何度も訪ねてそのばしょの変化を見るのも大事な仕事さ」


「となるとまたドーソンに来ることがあるということだ」


「もちろんそうなる。また顔を出すことになるだろう。そん時はよろしく」


「よろしくね」


 レスリーに続いてアイリーンも言うとトミーが


「こっちこそな。いつでも2人を歓迎するよ」


 そうして2人はトミーを始めここドーソンで仲良くなった冒険者達と握手をしてギルドを出て宿に戻っていった。


「明日からがいよいよ本番ね」


 部屋に戻って最後の荷物の確認をしながらアイリーンが話しかけてくる。


「そうだな。何もなければ1ヶ月程で抜けられるっちゃあ抜けられるけど俺達は川や木の様子を見ながらだ。しかも魔獣が徘徊している。となるとあの森の踏破には2ヶ月から3ヶ月位はかかるかもしれないな」


「せっかく行くんだものレスリーが見たいところをゆっくりと見ていけばいいわ。私にはこれがあるし」


 と辺境領のダンジョンの宝箱から入手した片手剣を手に持つ。切った相手に与えたダメージの10%を自分のHPに還元できるという特殊スキルが付いた片手剣。永久機関並みの戦闘が可能だ。その剣を使いこなしている自信もあるのだろうアイリーンの言葉からはランクAの魔獣が徘徊していようが関係が無いという顔をしている。それはレスリーも同じで、


「そうだな。急ぐ旅でもないし見落とししない様にゆっくりと進んでいこう」

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