第5話

 翌日2人は宿を出ると市内を貴族区の方に向かってあるいていく。ドーソンの街は南の地区が貴族区となっていてそこに入るには市内にもかかわらずゲートがあり衛兵が常時詰めている。


 近づいてきた2人を見て詰所から2人の衛兵が出てきた。


「この先は貴族区になるが何か用か?」


 レスリーは魔法袋から王家の紋章が入っている小箱を見せて


「レスリーとアイリーンという。ここの領主のジェームス=フランクリン領主と面談をしたい」


 と言うと王家の紋章を見た衛兵の顔色が変わる。そうして直ぐにゲートを開けると騎士の敬礼をして2人を貴族区の中に入れた。


「王家の紋章ってのは想像以上だな」


「そりゃそうよ。偽造していたのがわかると即死刑になるし、これを偽造しようする人なんていないわ。だから王家の紋章を持っている人は特別扱いになるのよ」


 アイリーンの話を聞きながら貴族区の中を一番奥にある領主の館を目指して歩く2人。商業区や居住区と違って貴族区は人の通りもほとんどなく、閑静な住宅街といった趣だ。通りには木々も生えており緑が多い。そしてそこに点在する家というか屋敷はどれも大きい。


 そうして貴族区に入ってしばらく歩いていくと目の前に領主のフランクリン家の館が見えてきた。周囲より一段と大きく貴族街の奥に建っている。


 館の門で再び衛兵の騎士に止められるが名前を言い王家の紋章の入った小箱を見せて領主に取り次いで貰いたいというと少しお待ちくださいと。騎士の1人が館の中に入っていった。


 王家の紋章のせいだろう、騎士も敬語で対応してくる。

 しばらくすると館の門から先程の騎士が出てきてこちらに走ってくると館の門を開けて


「中にどうぞ」


 開けられた館の門を入ると綺麗な石畳の道を歩いて館の玄関に、2人がドアに近づくと中から扉が開けられそこに1人の執事が立っていた。


「レスリー様とアイリーン様ですね。領主のフランクリン=ジェームスが中でお待ちです」


 執事を先頭に館の中に入ると廊下の一番奥にあるドアに案内し、ドアの外から参られましたと執事が言う。中から入ってもらいなさいという声がすると扉を開いてどうぞと言われそのまま部屋に入る2人。


「よく来てくれた」


 そう言って執務机から立ち上がったのはリックの結婚式であった領主のジェームスだ。


「急にお邪魔して申し訳ありません」


 アイリーンがいい、レスリーも同じ様に頭を下げると


「いやいや、王都での王子の結婚式から帰ってきたらくだらない書類仕事が溜まっていてね、ちょうど息抜きをしたいと思ってたところだったんだよ」


 そう言って気さくに話かけてくる領主のジェームス。勧められたソファに腰掛けると2人が入ってきたとは別の扉が開いて給仕がジュースや果物をワゴンに乗せて持ってきてそれをソファの前にあるテーブルに置いて下がっていった。


 そしてしばらく王子の結婚式の話をしてから


「それでこのドーソンに来てくれたってことは既に東側は見てきてくれたということでいいのかな?」


 と向こうから本題を話かけてくる。

 2人は姿勢を正すと頷き、そしてレスリーが話を始めた。


「3日かけて東の草原を見てきました。東は山の中にも入って状況を見てきました」


 そう言うと頷くジェームス公爵。


「東ですが草原地帯の土壌は非常に良いです。いい土なので放置しておくのはもったいないですね」


 その言葉にそうかそうかと言う。レスリーはそのジェームス公爵を見て


「それでその東側の開発ですが西側と同じ様に農地として開発しても問題ありませんが一つ提案があります」


 その言葉に2人の方に身を乗り出してくる公爵


「その提案とは?」


「はい。牛を放牧するのです」


「放牧?」


 レスリーは頷くと放牧について説明を始める。


「はい。東の草原は膝丈程の草が生えています。まずこれを抜いてから牧草の種を撒くんです。そして牛舎を建てて乳牛を飼えばよろしいかと」


「どうして穀物じゃなくて放牧なんだね?」


 レスリーは公爵を見て


「農地の場合には作物を育て、管理するのに多くの農民が必要です。そして農作物は豊作だったり不作だったりと天候に大きく左右されます。このドーソンの周辺では相当な穀物が獲れるでしょう。ただ今申し上げた様に収穫は毎年一定ではありません。そこで牛を育てて牛乳を売り出すというアイデアです。牛は気候に左右されません。安定的に計算した数量の牛乳を製造することができます。そして放牧にすると農地ほど農民を必要としないからです。多くの農民は今の畑の世話で手一杯でしょう。これからさらに新しい農地を開拓して農民の仕事を増やすのはどうかと。それに比べて牛の放牧と牛乳ならそれほど人がいりません。また牛は放牧地で糞をします。それが肥料になるので常に土壌は養分が常に豊富な状態になります」


 レスリーの話を黙って聞いていた公爵は内心で目の前の男の提案に感心していた。この領地の農民の数やその仕事量を推測して一番手がかからずに街が潤う提案だ。


 彼の指摘通りこのドーソンを含む領地には多くの農民がいるが今ある畑の手入と別に新しく農地を開発するとなるとさらに多くの農民が必要になる。それに比べて放牧と乳搾りなら畑の手入れほど人がいらない。


「なるほど。牧草地にするか。このドーソンで新しく牛乳が名物になるのだな。うん、悪くない。レスリーの提案は私も良い提案だと思う」


 ジェームス公爵が同意してくれてほっとする2人。


「早速開始しよう。牛の数を数え、将来を考えてそれより広めに草原の雑草を刈って柵を作り牧草の種を撒く。同時に牛舎を草原の中に作ろう」


 そう言うとジェームス公爵はその場で官僚を呼ぶと2人の目の前で今決めたことを指示していく。聞いていた官僚達は公爵の話が終わると直ぐに部屋を飛び出していった。


 官僚が出ていくとソファに座っていた2人に視線を向け、


「こう言うことは即断即決が一番だからね」


「流石ですね」


 黙っていたアイリーンが思わず声を出すと


「辺境領のロンやアイマスのフィルに負けたくないからね」


 そう言うとウインクする。



「凄い行動力だったな」


「本当ね。あっという間に指示を出して動き始めたわ。それに官僚の人たちも優秀みたい」


「流石に三大貴族と言われているだけあるなと思ったよ」


 ジェームスにお礼を言われて領主の館を後にした2人、貴族区を出た2人は市内をゆっくりと歩いている。歩いていると隣のアイリーンが


「それでいつ南に行くの?」


「準備もあるから3日後くらいでどうだい?」


 レスリーの提案に頷くアイリーンそうしてその日はゆっくりと休んで翌日とその翌日の2日間で長期の森の中の移動に備えて食料や薬を準備していく。


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