第3話

 その後風水術って具体的にどういうジョブなんだ?という話が出てきたのでレスリーとアイリーンが皆に説明するより実際に見た方が早いだろうと言い、一行はギルドの鍛錬場に移動してきた。話かけてきたトミーのパーティメンバーはもちろん、それ以外にも酒場にいた冒険者達が次々と鍛錬場に集まってきた。そしてその中にはギルマスのエバの姿もあった。ギルド職員らと一緒に鍛錬場の隅からレスリーとアイリーンを見る。


 レスリーは魔法袋の中から長さ50センチから60センチ程の木片をいくつか取り出して地面に置くと杖を前に突き出す。すると地面に置いた木々がレスリーの顔の高さほどに浮かび上がってその場で浮遊したまま止まる。びっくりする他の冒険者たち。


「なんだあれは?」


「魔法じゃないよな?」


「違う。魔力は一切感じられない」


 そんなやりとりをしている中、レスリーが杖を突き出すと浮いて止まっていた木々がまるで意思をもっているかの様に一斉にアイリーンに向かって飛び出していった。


 直線的に飛ぶ木もあれば曲がりながら飛んでいく木もある。それらが時間をずらせながら次々とアイリーンに襲いかかってくる中、木刀を持ったアイリーンがローブに包まれた身体を左右に動かしながら木刀で次々と飛んでくる木を叩き落していく。いつ見ても蝶の様な綺麗な動きだと木を操りながらレスリーも思っていた。


「木がそれぞれ別の動きをしてる。生きているみたいだ」


「それにあの女の戦士、相当できるぞ」


「ああ。まるで飛んでるかの様な身体の動きだ。ものすごい身体能力だ。あの滅茶苦茶に飛んで来ている木々の動きを全て見切っている」


 叩き落とされた木々は一旦レスリーのところに戻ると再びアイリーンに襲いかかるがそれらを全て交わし、叩き落としたり弾き飛ばす。


 そうしてアイリーンとの訓練が終わるとレスリーが鍛錬場の隅にあるミスリルの人形に向かって杖を突き出すと突然地面から土の槍が何十本と飛び出てミスリルの人形を下から突きあげた。 


 声も出ない冒険者達。レスリーとアイリーンは木々や木刀を魔法袋に戻すと見ていたトミーに近づいていき、


「これが俺が使える風水術の一部だよ」


「…これは想像以上だったよ。ラウダーの連中が言っていた意味が分かったよ。下手に手を出すと返り討ちどころか再起不能になりそうだ」


 心底驚いた声で言い、そして隣のアイリーンを見て、あんたも相当出来るな。正直俺でも勝てる気がしないよと言うと


「ありがと」


 とこちらは涼しい顔をしているアイリーン。鍛錬場で2人の動きを見ていたギルマスのエバも


(想像以上ね。レスリーはともかく隣のアイリーンも相当できる。トミーが自分でも言ってたけどあれだけの剣の捌き方と身体能力の高さ。確かにこの街でアイリーンに勝てる冒険者はいないわ。レスリーについてはギルドに書いてあるレポートの通りというか、文字で読むよりも実際見てみると想像以上だった。突然地上から槍が飛び出してきてそれを避けられる魔獣はいないでしょうね)



 2人のスキルを見た冒険者達と一緒に再び酒場に戻ると酒やジュースを飲みながらの雑談となった。レスリーとアイリーンの強さが分かったのか周囲も絡んでくることはなくてここではお互いの情報交換の場となる。


「なるほど。ドーソンの東側に行くのか。あっちは山裾まで魔獣がいないから俺達はほとんど出向かない。年に数度ギルドのクエストで行くくらいさ」


 レスリーの話を聞いたナイトのヘンドリックスが答えると、


「そうね。私たちはやっぱりダンジョンに潜ることが多いかな」


「普通はそうだよね。安全地帯もあるし倒した魔獣は勝手に消えてくれるし」


 アイリーンの言葉にそうそうと頷く周囲の冒険者達。


「この街を出て山裾までは歩いて2日ほどだ。その間はまず魔獣は出ない。そしてそこから山に入るとランクBの魔獣が徘徊し、奥になるとランクAが徘徊している。山に行くなら十分に注意した方がいいぜ」


 そう言ってからまぁこの2人だと大丈夫だと思うけどなと付け加える


「ドーソンの南はどうなってるんだ?」


 レスリーが聞くと顔を見合わせるトミーのパーティメンバー。そしてトミーがレスリーに顔を向けると


「南側も2日ほど歩くと大きな川が流れていてその向こう側が森になっている。森といっても遠目に見てるだけでも起伏がある結構深い森だってわかる。そしてその森に入るとすぐにランクAが徘徊してるんだ。以前俺たちも一度南の森に行ったことがあるんだが森の入り口付近でランクAが複数体出てきてな。結局奥まで行けてないんだよ。あの森はホロの街の近くまで続いてるって噂だが誰もその森の奥まで行った奴はいない。俺たちの間じゃあそこはやばい森ってことになってる」


 トミーの言葉に続いて僧侶のナンシーが、


「それでね、どう言う訳かランクAの魔獣達はその森から出てこないのよ。川があるからなのかもしれないけど。だからこの街の人にとっては安心と言えば安心なんだけどね。でもトミーが言った様にあの森の奥には誰も行けない。奥に何があるのか誰も知らないの。ひょっとしたらランクAより強い魔獣がいるのかもしれない。いずれにしても危険な場所よ」


 ここドーソンの冒険者達に取っては南の森は非常に危険だという認識があるということが分かっただけでもレスリーとアイリーンにとっては参考になった。どちらにしても2人は南の森に入っていくつもりだったから事前に少しでも情報を得られたのはよかったと思っている。


その後しばらく話をして、


「レスリーとアイリーンは俺達とは目的が違うが同じ冒険者だ。何かあったら手伝うからそんときはいつでも声をかけてくれよな」


「ありがとう」


 トミーの言葉に礼を言ってギルドを出た2人は夕刻のドーソンの街の中をぶらぶらと歩きながら宿を目指していく。


「賑やかな街だね」


 通りに面して様々な店や露天が並んでいて住民が思い思いに店を覗きながら歩いたり露天で買い物をしている姿が見える。


「そうだな。それに街が綺麗だ」


「本当ね。さすが三大貴族の1つね。しっかりしているみたい。人々の表情も生き生きとしてるわ」


 街の中をゆっくり歩いている2人も時々店をのぞいたり露天で売っている串に刺さっている料理を買って食べてみたりしながら夕暮れの街の中をぶらぶらと歩いてギルドが勧める宿を見つけるとそこに部屋を取った。そうして宿の1階で食事をしてから2階にある部屋に戻ると、


「南の森に行くときは本気モードで行かないとダメね」


「そうだな。アイリーンの出番だよ」


「もう。そうやってプレッシャーを掛けるんだから。レスリーにもしっかり頑張ってもらわないとね」


「もちろんさ」

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