第2話

 街に入った2人はそのままギルドに顔を出してギルマスに面談を求めた。案内されたギルマスの執務机に座っていたのは女性だった。見た感じだと元狩人か戦士だなとその姿を見ていると、


「ドーソンにようこそ。ここのギルドマスターをしているエバよ。よろしく」


 レスリーとアイリーンが部屋に入ると立ち上がって机を廻って近づき、挨拶をするとソファを勧めるエバ。


「お二人は有名よ。あのパーティのメンバーだったでしょ?」


 座るなりそう切り出したエバ。レスリーとアイリーンが頷くと、


「王子がお城に戻ったって聞いてほっとしてるの」


「そりゃそうよね。万が一自分のところで何かあったら大変だもの」


「その通りよ。ギルド本部もピリピリしてたでしょうね。でも結婚して城に戻ってくれたからこちらは一安心よ」


 アイリーンの言葉に心底嬉しそうなギルマス。


「それでこれからは2人で活動するの?」


「そう言うことになる。2人で国中をウロウロしようと思ってね」


 レスリーの言葉を聞きながらエバは目の前の風水術士を見ていた。ギルドのレポートに書いてあったそれまでのレスリーの仕事を思い出す。廃れた村の復活やホロから辺境領へ続く道を風水術を使って完全に復旧させたりと今までのレスリーがしてきた仕事の内容は全ギルドに報告が回っている。


 目の前に座っている2人を見ながらエバはギルドの報告はレスリーの事ばかりだったが隣に座っているアイリーンも相当の使い手だと内心思っていた。美人でしかもローブを着ているのでパッと見た限りでは戦士には見えないが元上級の冒険者だったエバから見ると彼女は只者ではない雰囲気を醸し出している。ランクA以上の冒険者にしかわからないだろうがアイリーンは相当できると見ていた。


「風水術士と戦士の2人。しかも2人ともランクA。行動に制限は無いわ。行きたいところに行って構わないわよ」


 エバの言葉にありがとうと頷く2人、そしてレスリーが、


「このドーソンの街の西側はここに来る時に見てきた通りの大穀倉地帯だ。土壌も良いし水捌けも悪くない。農業に適した土地だってのはわかったよ。ところで街の東側、山側はどうなってるんだい?」


「東側は草原や林があってそして山裾に続いているの。山に入らない限りは魔獣は出てこない。そして山の中は当然だけど奥に行くほどランクが上がってる。この街の冒険者達はダンジョンか東の山の中で鍛錬することが多いわ」


 エバによると東の門を出て草原と林を抜け2日ほど歩いたら山裾に着くそうだ。そこまでの間はほとんど魔獣が出ないこともあり。ランクが上がってきた冒険者は移動時間を考えて山に行くよりもここから2日以内にあるいくつかのダンジョンに潜ることが多いらしい。


「もちろん、多くの冒険者がダンジョンに篭るとドーソン周辺の魔獣が増えてくる可能性もあるからギルドとしては定期的に周辺の魔獣退治のクエストを出しているの」


「そうなんだ。実は私たちはここの領主のジェームス公爵から東の土地が有効利用できないか調べて欲しいって言われてるの」


 そう言ってアイリーンが王城での結婚式の際にジェームス公爵と話をした事をギルマスに言うと、


「そうなのね。じゃあ明日から街の東を見て回る予定なのね」


 そうするつもりだとレスリーが答え、その後ギルマスからおすすめの宿を聞いて部屋を出た2人。どこの街のギルドも同じ作りで1階には受付の横に打ち合わせや食事、酒を飲むことができる場所が併設されている。通称酒場だ。


 その酒場にはテーブルを囲んで5名の冒険者たちが座っていてカウンターの奥から出てきたレスリーとアイリーンに視線を向ける。


「2人ともローブ姿か」


「彼女片手剣よ。ローブに片手剣、珍しい格好ね」


 話をしているのはこのドーソンの街を拠点にしているランクAのパーティだ。ナイト、戦士、狩人、精霊士、僧侶というオーソドックスは編成でナイト、戦士、精霊士が男性、僧侶と狩人は女性という構成のパーティだ。


 2人がギルドを出ようとすると戦士の男が声を掛ける。


「ドーソン所属の冒険者じゃないよな?」


 声をかけられて振り返る2人、そうして頷くとアイリーンが


「王都から来たの」


「王都からかい。時間があったらちょっと話ししていかないか」


 アイリーンがレスリーを見ると頷いたので2人は酒場に移動する。5人が座っていたテーブルに椅子を2つもってきてそこに座ると


「見ない顔だったんでね、声をかけさせてもらった。俺達は5人組のパーティでここドーソンを拠点に活動している。ランクはAだ」


 そうしてメンバーを紹介していく。話かけてきた戦士はトミー、ナイトの男がヘンドリック、精霊士の男はマイク、そして女性2人は狩人のルカと僧侶のナンシーだ。


「私はアイリーン、戦士をしてるの。そしてこっちが旦那のレスリー。ジョブは風水術士よ。ランクは2人ともA」


 風水術士と聞いて5人の視線がレスリーに注がれる。そして酒場にいた他の冒険者達もレスリーに顔を向けた。


「あんたが風水術士か。噂はこの街にも来ている。自然の力を使うジョブで半端なく強いってな」


 トミーがレスリーを見て言うが


「自然の力を借りてるだけだよ」

 

 とレスリーはいつも通りの自然体だ。トミーによるとラウダーからこの街に武者修行にやってきたパーティの連中から風水術士のことは聞いていたらしい。


「そいつらが言ってたよ、もし奴がこの街に来ても絶対に手を出すなってな」


「言っとくけど私たち2人とも交戦的じゃないからね」


「ああ。それは直接見てすぐに分かったよ。むしろどっちかって言うと無用な関わりを避けるタイプだなってな」


 そう言ったのは精霊士のマイクだ。隣で女性2人も頷いている。トミーも


「近寄りがたい雰囲気ってのが出てた。声をかけるのも躊躇ったほどだったよ」


「別に人を避けてた訳じゃないんだが、俺とアイリーンは普通の冒険者とは目的が違うというか。ダンジョンに潜ったり狩場で魔獣を倒しまくるために移動してるんじゃないからかな」


 レスリーが言うと全員がどういことだという目で見てきた。レスリーは王都の近くにある森の大木が2人の師であること。その師から国中を回って人間が自然を破壊しているのならそれを修復してこいという使命を受けていることを話する。


「2人とも木と話ができるの?」


 聞いてきたルカを見てレスリーはそうだよと言ってから、


「全ての木じゃない。長く生きている木の中の本当に特別な木とだけだけどな」


「それでも凄いわね。だから風水術士なんだ」


「まぁちょっと特別なジョブだってのは間違いない。アイリーンも戦士だが木と会話ができる。そんな訳で2人で国中を歩き回る旅をしているのさ」


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