東へ

第1話

 それから10日程経って、レスリーとアイリーンは郊外の自宅を出て徒歩で王都に入るとそのまままずはウエストウッド家の屋敷に顔を出した。


 フィル公爵は不在だったが執事に明日から旅に出ると言伝を頼むとそのまま王城の近くにあるマイヤーの家に顔を出す。


 ちょうど家にいたマイヤーが2人を家の中に案内してくれた。


「綺麗なお家ね、それに広いじゃない」


 家の中をぐるっと見てアイリーンが声を出す。


「1人だと大きすぎるかなと思ったんだけど。場所がいいからな」


「そのうち2人になるんだろ?」


 レスリーの言葉にまぁなと言葉をぼかすマイヤー。そして2人の訪問の意図がわかったのかレスリーが言う前に


「東のドーソンに行くのか?」


 その言葉に頷く2人。


「ああ。明日の朝自宅を出て向かう。その前に挨拶をしておこうと思ってな」


「ドーソンからホロ、そしてコリング経由でラウダー、そして王都に戻ってくるスケジュールだっけ?」


 マイヤーの言葉に頷いてその予定だ。ただ寄り道するかもしれないけどなと答えるレスリー。


「アイリーンとレスリーについては好きにしてくれて構わない。これは国王陛下も仰ってる。ゆっくりと国を見て廻ってくれ」


 そして王都に戻ってきたら必ず顔を出してくれと言われてから2人はマイヤーの家を出るとギルドに顔を出すとギルマスのアレンの部屋に入って明日からの旅程を説明する。

聞いていたギルマス、


「今までは5人、それも王子だその婚約者だとこっちもピリピリしてたがレスリーとアイリーンならどこのギルドも歓迎だろう」


「そんなにピリピリしてたの? 全然そうは見えなかったけど?」


「そりゃあ毎日荒くれ者の相手をしてる。それなりの腹は座ってるがそれでも自分のギルドの管轄下で何かあったら詰腹を切らされる。皆本心じゃあ俺のところに来るなよって思ってたんだよ、アイリーン」


 もう胃が痛くなくなるだろう。街に行ったらギルドに顔を出してやってくれと言われ、ギルドを出た2人は自宅に戻ってきた。


 家に入る前に大木の前に立った2人。


「明日から旅に出てきます」


『んむ。レスリーのスキルはかなり上がっておる。それでも見落としがあるやもしれん。ゆっくり時間をかけて納得いくまで見てくるがよい。アイリーンはその剣の技があれば大抵の困難は克服できるだろう』


「わかりました」「ありがとうございます」


『森の中はいろいろな魔獣がおる。2人とも無理をせずにな』


 その言葉に再び頭を下げる2人。



 そうして翌朝、師の大木に挨拶をしてから2人は新居をでると王都から東のドーソンに伸びる街道を歩き出した。


 魔法袋に食料や野営の道具を入れているので2人は普段の杖と剣をそれぞれ持っているだけだ。人の往来が多い街道をゆっくりと左右に目を配りながら歩いていく。


「東はドーソンで行き止まりなのに行き交う人が多いな」


 人だけじゃなく馬車も行き交う広い街道を歩きながらレスリーが言う。


「ドーソンの街のある辺りはリムリック王国の台所と言われての。農産物が豊富に取れる土地柄なのよ。だから大抵の商人はドーソンで食料を買い付けると王都やラウダー、時には辺境領のアルフォードまで運んで商売をするの」


「なるほど」


「でも今回レスリーが辺境領で大きな可能性を見つけたから食料事情が変わるかもしれないわね」


「そうだな。国の食料を提供する場所が1箇所だけだと何かあった時にすぐに食料不足になる。別の場所にもあれば国として飢えることはない。余った食料は倉庫に保管しておけばよいしな。それにしてもアイリーンは物知りだな」


「学院時代に勉強したのよ」


 レスリーは最低限の教育しか受けていない。そしてすぐに冒険者になったので国の食料事情なんて全く知らなかった。街道を歩きながらそんな話をすると、


「でもこんな知識って所詮学校の中の知識よ。それを知っていてももし何かの理由で食料が足りなくなった時にどうするかなんて考えもしない、ううん考えられないって言ったほうがいい。知識だけじゃ民は生きていけない。そう言う点から見たらレスリーの様に実際に現地を見てここはいい土地だ。よく食物が育つって言う方がずっと国のためになってるじゃない。レスリーはいつもずっと先を見てるわよ」


 レスリーは歩きながらアイリーンの肩を叩いてありがとうと言う。それに対して微笑みを返すアイリーン。彼女はレスリーと知り合ってからいかに現場が大事か、経験が大事かを身を持って感じていた。ほとんどの人、特に平民や農民は今ある生活が当たり前だと思っていてその中で生きている。でももっと生活がよくなる可能性がこの国にはいっぱいある。レスリーはそんな可能性を探してはそれを慎ましやかに生きている平民や農民に惜しげもなく還元していく。


 リック、マイヤー、マリアもそのレスリーのその能力を100%認めている。だからこそこうして国王陛下のお墨付きまでもらって彼を自由にさせている。それが国のためになるのを知っているからだ。


(私ももっと頑張らないと)



 その日は何事もなく街道を歩いて夕刻に街道沿いにある村に入るとそこにある宿に部屋をとって休んだ2人。


 そうして街道を歩いて3日目、2人の歩いている街道の左側に森が見えてきた。街道から外れて森の中に入っていく2人。中にはランクCの魔獣がポツポツといるがアイリーンが剣で倒しながら森を進んでいく。


「自然のままだ。森が生き生きとしている。川の水も綺麗で問題ない」


「よかったね」


 その後も街道の左右にある森や林、そして視界に山を見つけると中に入っていく2人。山に入るとランクBクラスの魔獣が徘徊しているがアイリーンの剣術とレスリーの風水術で問題なく討伐し、その場所を詳しく調べていくレスリー。


「人の手が入ってない。あるがままの自然だ」


「いい場所じゃない」


「その通り。この山に降った雨はこの山の木や草を経て地面に落ちる。そして土の中の養分を溜め込んで湧き水として地中から噴き出てそれが川になる。養分を含んだ綺麗な水は田畑を潤し人々の生活を向上させる。いい自然のサイクルになってるよ」


 山から街道に戻った2人は再び東を目指していく。

 そうして王都を出てから2週間程が過ぎた頃、街道が丘の上に伸びていてその丘に立った2人の目の前には大穀倉地帯が広がっていた。


 丘を降りたところから一面に小麦畑になっていてそれが遥か彼方まで続いている。そうして畑のずっと先に街の城壁らしきものが見えている。


「想像以上だ」


「すごいわね」


 丘の上から暫くその景色を見ていた2人は街道をゆっくりと下っていった。そして穀倉が生えている土を手に取って見てみる。


「王国の台所と言われることはある。見事な穀倉地帯だ。土地も素晴らい土壌だよ」


「フランクリン家、ナッシュ家、そして港町アイマスを治めているウエストウッド家。国の重要拠点をきっちり最も信頼できる貴族に任せてるわね」


 アイリーンの説明を聞き納得するレスリー。街道の左右に広がる小麦畑を見ながら進むこと約半日、2人はようやくドーソンの街に着いた。


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