第7話

 レスリーとアイリーンを見送った3人は村の中を歩いて村人を見つけると話を聞いていく。すると驚いたことにこの村には元々からいる村人とウッドタウンから東に来るときに見た廃村に住んでいた村人、さらにはこの村の北にあった村から来た村人らがいることがわかった。


「この村から北に伸びている道がある?」


 リックが村人に聞いているとちょうどそこにこの村の村長がやってきた。そうして彼がリックらに話しをする。


「この村から国境の街のホロまで続く街道があった。というべきか。もう7、8年前になりますか、ここから2週間ほど歩いたところを流れている大きな川に大雨で起こった山崩れの土砂が大量に流れこんできてましてな。それで橋は流されてなくなり、道路も土砂で寸断されてしまったんですわ」


「復旧工事は?」


 村長は当時を思い出す様にしばらく考えてから、


「当時ここ辺境領主様が調査の人を派遣して下さったんだがいかんせん流れこんできた土砂の量が多くて、しかも土砂崩れで川の流まで変わってしまって。土砂を取り除く工事と新しく橋をかける工事をしなければならなくなると。

そのときは辺境領全体が大雨の被害がでましての。この街道は後回しになったというかここは陸の孤島じゃなくてラウダー、アルフォード経由でも来られるだろうということで最終的に工事を断念したんですわ。それ以来この北の街道は誰も人が通らなくなり街道沿いの村は廃れていったんです」


「そんなことがあったの」


 村長の話を聞いていたマリアが言うと頷いた村長。


「それまではホロからアルフォードやウッドタウンに向かう商人さん達がよく通ってくれまして街道にいくつか宿場町もあったんです。災害が起きてあちこちで復旧の為にお金が要ったんでしょうな。聞いた話ですが村そのものが大雨で流されて家も人も無くなったという話も聞いております。それに比べたら村が無事だったことだけでもよしとしなければと思うとります。自然に文句を言っても始まりませんし」


 ゆっくりと話をする村長の言葉に返す言葉が見つからない3人。


「それでウッドタウンからこちらの東側は人の行き来がなくなってしまったんですね」


 マイヤーの言葉にそうですよと言ってから、


「まぁ、この村は決して豊かではありませんが今の村人が生きていくための最低限の食料はなんとか賄えていますからの。これ以上国や領主様に無理なことも言えんでしょう」


 じっと聞いていた3人はやるせない気持ちになっていた。これが普通の農民の声なのだ。今ある状況を受け止め、その中でなんとか生きていこうとしている。誰かを恨んだり妬んだりすることもない。全てを受け止めてその中で慎ましやかに生きている人達。


 マリアは王都での生活を思い出していた。煌びやかな服装に身を包み毎日贅沢な食事をし、やれパーティだ乗馬だと貴族同士の付き合いに明け暮れる人々。それとは全く違う世界が同じ国の中にある。どちらも同じ国の民だ。


 冒険者になっていろんな場所を周ってよかった。マリアはそう思っていた。


「そんな訳でここに来る人も滅多におりません。宿も小さくて部屋数も少なく、食事にしてもたいしたもてなしはできませんが」


 そう言って3人に頭を下げる村長。


「いえいえ。気にされず。僕らは慣れてますから」


 リックはそう言って村長らと別れた。



 夕刻になり外からレスリーとアイリーンが戻ってくると宿の食堂で昨日とほぼ同じ内容の夕食を済ませ、そのままリックの部屋に全員が集まると2つに別れたグループがそれぞれ今日の報告をする。まずはリックが村の中で聞いた話をレスリーとアイリーンに説明した。


「なるほど、そういう理由があったのか。あの道はやっぱりホロまで続いていたんだな」


 リックの話を聞いたレスリーが答えると隣から、


「ねえレスリー、その洪水で流されてしまった街道を元に戻せる?」


 アイリーンが聞いてきた。


「実際に見てみないと何とも言えない。土砂の量や流れている川の幅とか水の流とかも見ないと。それにその場所はここから北に2週間ほど歩くんだろ?辺境領のアルフォードからはずっと遠くなってしまう」


「それについてだが、街道を元に戻せるのならそのまま北に移動してホロ経由で一度王都に戻ろうと思っているんだ」


 レスリーがアイリーンに答えているとリックが続けて言う。思わずリックを見る2人。


「マイヤーとマリアとも話をしたんだが、ここらで一度王都に戻って父上の国王陛下に報告した方がいいんじゃないかと思ってさ。西にある草原の開発の件もあるしな」


 そう言うとマリアも


「私も一度戻った方が良いかなって思ってたの。出来ることは少しでも早く実行した方が良い気がするし」


 2人の話を聞いていたレスリー。


「そう言うことならここから北に向かっていこうか。そしてホロ経由で王都に戻る?」


「そうなるな。万が一北に伸びている街道が元に戻せなくてそこから北に行けないとなったらそのときは来た道を戻ってこの村からウッドタウン経由でアルフォード。それから王都に戻ろう。やっぱりレスリーにはその災害現場を見てもらいたい」


「わかった」


「それで、そっちはその北に伸びている街道以外で村の周辺はどうだったんだ?」


 マイヤーがレスリーを見ると、


「村の裏側にあたる東側と南側だけど土壌は悪くないんだよ。どちらも同じだった。だから村を広げたら作物は育つと思う。東側は畑で南は果樹園だな」


「それはいい知らせじゃないか」


 リックが大きく頷いている。


「恐らくだけどここは国境の山脈の山裾から近いだろ?だから村の人は柵の外、特に山の方に向かうと魔獣が出てくるんじゃないかって思ってると思うんだ。でも実際この辺りは魔素が非常に薄いからまず魔獣は来ない。心配なら俺達が柵を作ってでも土地を広げて畑を作ったら今より良い暮らしが出来る様になると思う」


「明日もう一度村長に話してみよう。了解が取れたら俺達で柵を広げるか」

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