第6話

 ウッドタウンを出ると最東端の村まで途中に村はないと聞いていたので全員野営覚悟で街道を進んでいく。例によって森や草原、川の様子を見ながらゆっくりと東を目指していた3日目の昼ごろ前方に村が見えてきた。いや近づいてみるとそこは村ではなく”以前は村だった”という場所だった。


 中に入ってみると既に廃村になって朽ちている家ばかりだ。一方で周囲の柵はそのまま残っている。頑丈な柵は今でもその役割を果たしている様だ。


「村人がいなくなってどれくらい経ってるんだろう?」


 リックが村の中を見ていると村の中にある木々や木で作られ朽ちてきている家を見ていたレスリーが


「4、5年は経ってる」


 レスリーの言葉を疑うものはこの中にはいない。


「4、5年前までは人が住んでいたんだね」


 アイリーンと並んでレスリーが無人の村の中を歩きながら畑や池の様子を見ているとマイヤーが


「大きな宿だ。以前は結構人の往来があったみたいだな」


 マイヤーが指差す方向を見ると2階建ての立派な宿屋の建物が残っていた。全員で近づいてその中に入るとフロントデスクやそれに隣接して食堂などがある。


「確かにそれなりの宿だな。でもそうなるとわからない」


「本当ね。ここまで大きや宿があったのにどうしたのかしら」


 とリックとマリア。


「以前は人が行き来していた。それが何かの理由で人が来なくなって村自体が廃れてしまった。そんなところだろうか」


 そう言ったマイヤーの言葉にレスリーが続ける


「村の畑を見てみたがそれほど大きな畑じゃない。となるとこの街は商人や冒険者が泊まってお金を落としてくれることで生計を立てていた村だったんだろう。この宿が村の生活を支えていたんだと思う」


「人の行き来がなくなってお客さんが来なくなって生活できなくなったのね」


 アイリーンにそうだろうと答えるレスリー。


「周辺の土壌もあまり農業に適しているとは言えない。できないことはないけどね。だから農業で生活してたんじゃなくて宿場として栄えていたんだろう」


「となるとどうして村を捨てる程に人が来なくなったのか。そしてその村人達はどこに行ったのか」


 リックの言葉にマイヤーも頷き、


「最東端の村に行けば何かがわかるかもしれない」


 結局その日は柵に囲まれた廃村の中で野営をした一行。宿があるとはいえ朽ちかけていつ壊れるかもわからない建物の中でで夜を過ごしたいとは誰も思わなかった。柵に囲まれているので魔獣の心配をしなくても良いというだけで十分だった。


 翌日廃村を出ると再び街道を東に向かって歩いていき、森を見て草原で野営をして進んだ1週間後の日が暮れた頃に彼らは街道の奥にある最東端の村に着いた。


 村に入るとそこには部屋数が3つしかない小さな宿しかなく、女性2人が1部屋、リックが1部屋、マイヤーとレスリーで1部屋使うことにする。マリアには申し訳ないとマイヤーが言うと


「学生時代にはずっとアイリーンと相部屋だったのよ。全然問題ないわ」


 そうして荷物を置いて食堂で夕食をとるとそのままリックの部屋に集まった5人。


「明日からだがどうする?」


 リックの問いかけにマイヤーが2組に別れようと言う。


「レスリーとアイリーンは村の周辺を見てくれ。何があるかわからないがな。そして残りの3人は村長をはじめこの村人から話を聞いてみよう。途中の廃村の話やこの村がどう言う歴史をたどってきたか。夕刻に集まってお互いの情報を交換しないか?」


 流石にマイヤーだ。無駄のない方法を考えてくる。レスリーが問題ないと言うと隣でアイリーンも頷いている。


「村の外で何かあっても剣の達人と風水術士がいりゃあ心配いらないだろう。そうしよう」


 リックがマイヤーの案に賛成して打ち合わせが終わると部屋に戻ってきたレスリーとマイヤー。


「何かあるよな」


 レスリーが自分のベッドに仰向けに寝て言うと


「間違いないな。幅の広い道、廃村。ウッドタウンから東には何かがあったんだ。それで一気に廃れてきたんだろう」


 同じ格好をしているマイヤーも天井を見ながら答える。そして続けて


「食事もお世辞にも客に出すレベルじゃない。ギリギリの生活をしている様だ」


「ああ。そうだな」




 村の宿で夜を過ごした翌日、村人に話を聞いてくるという3人と別れてレスリーとアイリーンは村を出てまずは周辺を歩いてみる。すると直ぐに


「道があるわ」


「ああ。北に伸びてるな。しかし最近全く使ってない様だ。草が生えて伸びている」


 昨日は日が暮れてよく見えなかったが今日見るとはっきりと見える。村の入り口の直ぐ近くから北に伸びている道があるのが。道幅もそれなりに広くもともとしっかりと作られたという跡が残っている。そうしてその場で周囲を見る2人。


 村の背後の東側は少し歩くと国境となっている南北に走る高い山脈の裾になっていてその山脈に並行する様に草原に街道が北に伸びている。2人はその街道を北に歩き出した。1時間ほど歩いたところで、


「最近全く使われてない様だ。轍もないし足跡も残ってない」


「こんなところに北に伸びる道があったなんて」


「この道はどこまで続いてるんだろうか」


 その言葉に立ち止まって考える仕草をするアイリーン。


「このままずっと伸びているとしたらラウダーから東に伸びてこの山脈を抜けて隣国のフォレス王国に続いている街道とぶつかる?」


 頭の中で地図を思い出しながら言うアイリーン。レスリーも言われて同じ様に地図を思い浮かべると


「そうなるな。もしずっと北に伸びていたらラウダーから隣国に伸びている街道の国境の街ホロにぶつかるんじゃないか」


 レスリーの言葉で合点が言ったアイリーン。


「過去使われていた街道が使われなくなって廃れてきたのでウッドタウンから東側が廃れたってこと?」


「予想だけどね」


 そう言ってレスリーは小石を手に持つと、


「ここがこの村だろう?西に伸びている街道はアルフォードに続いている」


 と道の上に小石を置き出した。そしてこの石がホロでこの石がアルフォード、そしてこの石がウッドタウンだと言いながら置いていった石は長方形の形をしている。長方形の右上の石はホロの街、左上がラウダー、そして左下がアルフォード、右下がこの村だ。そして下のアルフォードと村の中間あたりにウッドタウンがある。


「ホロから辺境領のアルフォードに行くルートが2つあったってことね」


「そうなるね。この道が北に伸びてホロまで続いているという前提だけど」


 アイリーンはホロの石とこの村の石の間を指を動かし、


「この道が何かの事情で使えなくなった。だからこのルートは廃れた。ウッドタウンは木材の街だからアルフォードとの道は残った。そう言うことね」


 そう言ったアイリーンの顔を見て頷くと


「その何かの事情ってのが別ればこのルートは復活するかもしれない」

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