第8話
翌日今度は5人で再び村長に会った。レスリーは自分は風水術士だと言ってから村の東側と南側について説明をする。
「なるほど。そういうことなら是非にお願いしたいところですが私らには冒険者さんに支払うお金もありません」
困った顔で言う村長。
「お金はいらないですよ。泊めてもらったお礼ということで」
「そうそう。美味しいお野菜を沢山食べさせてもらったお礼ですよ」
マイヤーとアイリーンの言葉に深く頭を下げると村長は私らも手伝いましょうと村人に声をかけて人を集めてくれた。そうしてリックらと村人達はまず村の裏側、東側に出向くとそこでレスリーが
「この中の土壌は畑に向いています。そして魔素と言われる魔獣が好む空気がこの一帯は非常に薄いので魔獣はまずやってこないでしょう。でも心配でしょうからでまずは今の村の東側と南側の柵を抜いてこちら側に差し直して村全体を広くします。みなさんは僕たちが移動した柵と柵とを紐で結んでください」
そうして風の術で次々と村の柵を抜いては新しく広げた土地の周囲にその柵をさしていくレスリー。柵は太い木を何本も地面に突き刺しているものでそれを1本1本抜いては次々と新しい場所にさしていく。
びっくりする村人達だが新しい場所に木がささると隣の木と紐で縛っていく。レスリー以外のメンバーは村の周辺の倒木を見つけてはその枝を切り落とし新しい柵の木を作ってはレスリーが運んで地面にさしていった。村が広がることにより今までの柵では足りなくなるからだ。柵を移し枝を切り落とした倒木を他の柵と同じ長さに風の刃で切っては地面にさしていく。
朝から作業をして昼過ぎには村が今までより東側と南側に広くなって周囲が完全に柵に覆われた。
「見事なものじゃ。あっという間に村が広くなりおった」
「柵の中なら女子供も安心して農作業ができるぞ」
新しく広がった土地を見てびっくりし、感心する村人達。村長もこんなに早くできるとはと驚いている。そうして柵ができると
「東側は畑にすれば良いでしょう」
そう言ってレスリーが杖を地面に向けるとみるみると土が勝手に掘り返って土中にあった濃い色をした土が地表に現れてきた。再びびっくりする村人達。
「これで大丈夫。ここに種を撒いたら作物がよく育ちますよ。ここは山の裾ということもあり地中に地下水が流れていて養分が豊富。畑に適した土地ですから」
「ありがとうございます」
そうして今度は南側に移動するとそこも同じ様に土を掘り返してからその掘り返した部分に倒木から切り落とした小さな枝をさしていき、
「果実の苗はこの小枝のさしてある場所に植えてそれ以外の場所には植えない様に。沢山売れると土の中の養分を取り合ってしまうので美味しい果実が育ちません。この小枝のところに苗を植えると良いでしょう」
そうしてアイリーンとレスリーが魔法袋の中に持っている果物の苗をいくつか植えていく。全てが終わったのは日が暮れる前だった。
「本当にありがとうございます。村も広げてもらって畑や果樹園まで作って貰いまして、あとはわしらでしっかりと育てていきます」
作業を終えて村に戻ると再び村人達から俺を言われ夕食を振る舞われたリック達。決して豪勢ではないが一生懸命作ってくれた食事を頂いた。
そして翌日北に伸びている街道を見てくるという一行を村長以下村人が送り出してくれた。村長始め多くの村人がお礼の言葉をかけてくる。
「北の街道が元通りになればまた人の往来が増えて村に活気が出ますよ」
リックが代表して昨夜の礼を言って村長に挨拶をしてから村を出るとホロに向かって伸びている街道を歩き出した5人。例によってレスリーは道の左右にある草原を見、森や林があると中に入っていく。
「素朴でいい人達だったね」
「そうだな。どこの村の人も皆純真でそして一生懸命に生きている」
アイリーンとレスリーが話をしていると背後からマイヤーが
「この村もそして東や南の村も、住んでいる村人は皆誠実で素朴でいい人ばかりだった。彼らこそもっと幸せになるべきだ」
「そうだな」
全員がマイヤーの言葉に同意する。
「魔獣がいないね」
レスリーと一緒に先頭を歩いているアイリーンが顔を左右に振りながら言う。
「おそらく山裾に行けばいるよ」
街道付近では魔獣の姿が全く見えない。しかし進行方向右手にある森を抜けてそのまま東の山裾から山に入るとすぐにランクBの魔獣が徘徊しているのが見えた。3体ほど固まっていたが5人でさっくりと倒すと、
「魔獣はこの山裾から西には出てこない様だ。だからこの街道は安全だ。おそらく以前からそうだったんだろう」
「じゃあ街道が復旧しても安心だな」
リックの言葉に頷くレスリー。そうして野営をしながら街道を歩いていると5日目に廃村を見つけた。中に入っていく一行。村の中は人がいなくなってから時間が経っているせいかどの家もボロボロで屋根や壁がない家もいくつか見られた。
「ここの村の人達も洪水で街道が切断されて生活できなくなってさっきの村に行っちゃったのね」
「見る限り宿場町としてやっていた村みたいだ。人が来なくなれば生活の糧がなくなる」
村の中で周囲を見ながらそんな話をする。その後も街道沿いにいくつか廃村を見つけて進んでいき、村を出て20日が経った朝、野営を終えて出発した一行はすぐに村長が言っていた災害の傷跡が残っている場所に着いた。
「想像以上だ」
「これから見るに相当激しい洪水があったとしか思えない」
街道が途切れている場所から前方を見る5人。その5人の前には山から流れてきた土砂の後が今でも街道のこちら側と向こう側の広い範囲に残っている。そこは周囲とは違う土の色をしていて1メートル以上盛り上がっているので一目瞭然だ。そして山から流されてきた大きな木が今でも川の周囲に散乱している。
そして街道が寸断されているその間には右手の山から川が流れているが川幅が広く10メートル以上はある。
「この川も元々はもっと狭かったんだろう。山間から流れでてきたところでこの広さは考えられないからな」
マイヤーが顔を右に向けて山の方を見てから視線を前に戻す。
「さてとレスリー、何とかなりそうかい?」
リックの言葉に全員がレスリーに顔を向けた。この場所に着いたときからじっと目の前の景色を見ていたレスリー、
「何とかしないといけないだろう」
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