辺境領

第1話

 森の中を歩き、時には街道を歩いて南に進んでいった一行。結局ラウダーの街を出て2ヶ月以上の時が経った頃、ようやく一行の前にアルフォードの街の城壁が見えてきた。普通に街道を歩いていった時の2倍以上の時間がかかっている。


 辺境領最大の都市であるアルフォード。その規模は港町アイマスとほぼ同規模の大きさで国内では3番目に大きな街だ。


 そして場所柄レベルの高い魔獣が生息しているということで国中の冒険者達が腕試しやスキル上げにやってくる冒険者の比率が非常に高い街でもある。


 そのせいかアルフォードの街を囲っている城壁はがっしりとしていて高い。城壁の上にはいくつも見張り台があるのが見えている。


 城門を抜けて街の中に入っていった一行はリックの先導でギルドのある商業区を抜けて居住区に入り、そして一軒の大きな家の前で止まった。閑静な住宅街にある高い塀に囲まれている大きな家だ。


「ここは王家が持っている家の一つでね。もちろん貴族区の中にもあるんだけどそれとは別にこのアルフォードに持っている家の一つさ。今は誰も住んでないからここをこの街の基点にしたい」


 そう言ってリックに続いて家の中に入ると裏には広い庭があり2階建の1階部分は大きな居間や厨房、執務室の様な部屋があり、2階部分は住居部分になっていて8部屋あるらしい。


「王家でも貴族区だけじゃなくてこんな場所にも家を持っているんだな」


 家の広さにびっくりしているレスリーがリックに言うと、


「ここが王家の持ち物だってのは貴族の誰も知らない。王家は結構あちこちにこういう家というか拠点を持ってるんだよ。例えば王家が使っている諜報関係の人間の仮の住まいにしたりね」


 なるほどとリックは感心していた。隣でアイリーンもそうなんだとびっくりしているがマリアとマイヤーは知っていたのか驚いた表情をしていない。


「アルフォードにいる間はずっと使っていいと許可を取ってるからね。気兼ねなく使わせてもらおう」


 そうして各自が2階の部屋を割り当てられる。各部屋に浴室やトイレまであり外からみた以上に家の中は金をかけているのがわかる。王家だから当たり前なんだろうがそれでもリックは部屋に入ってまたびっくりしていた。


 そして全員が1階の居間に集まると


「とりあえず今日はゆっくり休もう。マリアとアイリーンは食事の買い出しに行ってくれるかな?男3人はギルドに挨拶に行こう。そして夕食の時に明日からのスケジュールの打ち合わせをする。こんな流れでいいかな?」


 リックの提案に反対意見もなく、マリアとアイリーンは冒険者の格好のままで家を出ていった。そしてリックとマイヤー、レスリーの3人は家を出てギルドに向かう。


 アルフォードのギルドは冒険者の数が多いせいか王都程ではないもののラウダーやアイマスのギルドよりは大きな建物だ。その扉を開けて中に入ると真っ直ぐにカウンターに向かって行き


「アイマスから来たリックという。ここのギルドマスターに会いたいんだが取り次いでもらえるかな?」


 そう言ってリックがランクAのギルドカードを見せるとそれを受け取った受付嬢が聞いて参りますと奥に消えていった。そうしてすぐに戻ってきて


「こちらにどうぞ」


 と3人をカウンターの奥にあるギルドマスターの執務室に案内する。部屋に入ると大柄でいかにも冒険者上がりだという風貌をした男が執務机から立って部屋に入ってきた3人に近づいてきた。


「アルフォードにようこそ。ここのギルマスをしているスティーブだ」


 そう言って3人と握手をすると執務室の中にあるソファを勧める。


「5人で活動しているんじゃなかったのか?」


「あと2人女性がいるが今は買い出しに行っているんだ」


「なるほど」


 スティーブは会話をしながら目の前にいる3人を観察していた。リーダーのリックが王子で時期国王であることやその右腕になるであろう精霊士のマイヤー、この2人と今はいないが戦士のアイリーン、僧侶で王子の許嫁のマリア。この4人については以前からギルド本部経由で詳細な資料が届いており、それからアイマスのギルドマスターからの報告書も来ている。


 スティーブが最も興味を持っていたのはリックでもマイヤーでもなく静かに座っている緑のローブを着ている風水術士だ。


「お前さん達のことはこの辺境領までしっかりとお達しが来ている。一切特別扱いする必要もないということも含めてな。だから俺の口調もこのままだ。まぁ普段から気の荒い冒険者を相手にしてるしこっちも元冒険者だ。気品を求められても困るんだがな」


 開けっ広げなギルマスの態度と口調にリックも好感を持った様で


「下手に気を遣われるとこっちも困る。今は一介の冒険者だし」


 その言葉で場の雰囲気が砕けてきた。


「それでこのアルフォードには長く滞在するつもりなのかい?」


「それはこのレスリー次第だな」


 今度はマイヤーが答える。その言葉を聞いたギルマスが視線をレスリーに向けると


「風水術士だったな。ラウダーとアイマスからの報告じゃあとんでもないスキルを持ってるらしいがこのアルフォードでスキル上げかい?」


 レスリーはリックとマイヤーの顔を見て2人が頷いたのを見てからギルマスに顔を向けて説明を始めた。風水術士になったきっかけである大木との会話から始まりその大木に国中を歩いて見て回れと言われていること。リックとマイヤーと一緒になると彼らの理解も得て今は一緒に森や川の状態を見ながらそこにいる魔獣を倒したりしていることを話しする。


 レスリーの説明がおわると


「てことはここアルフォードを活動の拠点に辺境領内をあちこりを見て回るつもりなのか?」


「ギルマスの理解通りだよ。将来を考えて国中のあちこちをレスリーに見てもらおうと思っている。辺境領内に関してはここアルフォードがベースになる」


 ギルマスのスティーブはリックの話を聞きながらアイマスのギルマスであるオリーブのレポートの内容を思い出していた。リックが相当レスリーを買っていることやレスリー自身の風水術士としての能力が高いこと、これはラウダーのギルマスのレポートにも書いてあったなと思い出して


「わかった。お前さん達は皆Aランクだ。自由にしてくれて構わない」


 そう言ってから但しだと前置きして


「知っての通りここは辺境領だ。腕自慢の冒険者がいっぱいいる。中にはお前さん達にいらぬちょっかいを出してくるやつもいるだろう」


 そう言って


「ギルドとしては冒険者同士の揉め事は本気武器を使わない限りにおいては基本は放置なんだがリックのパーティだけは流石にそうはいかない。しかもレスリーはほとんどのやつが知らない風水術士だ。必ず馬鹿が絡んでくる。だからな最初にお前さん達に絡むとろくなことにならないって見せつけておいたほうがいい」


「なるほど。それで具体的にどうしたらいんだい?」


 リックが聞いてくると


「今から俺と一緒にギルドの鍛錬場に行こう。そこで風水術士の力ってのを見せつけてやるんだ。そうすりゃもう大丈夫だ。最初に1発かましておくんだよ」


そう言ってニヤリとするギルマス。

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