第6話
翌日村人全員の見送りを受けて5人は村の新しい裏門から草原に出ていった。村長からはどうして裏門からなのかと聞かれたが、作った用水路の様子を見て、それから森の中を探索しながら南に進む予定だと言うリックの言葉で納得してもらうと、門を出てレスリーを先頭に用水路に沿って小川まで着くとそこで立ち止まって左右を見るレスリー。
「この小川が流れてるあたり、そして俺達が出てきた北にあった森、その中は特に異常は感じなかったんだよ。だからあるとしたらこの先かあるいは南になる」
そう言って4人を見てこのまま東に進んでもいいかな?と聞くと全員がレスリーに任せているから好きにしてくれと言う。皆が立っている場所から小川を越えた先の東側は草原だがその先には山が見えていて、南にははずっと草原が続いている。
「わかった。じゃああの山まで行ってみよう」
幅5メートル程、それほど深くないが流れの速い小川を渡ると再び草原を歩き、そうして小一時間程歩くと山の裾が見えてきた。
レスリーは立ち止まると杖を前に突き出す。そうすると多くの小さな渦巻きが現れ5人の周囲を囲む様に浮くと同時にそのいくつかは前方に飛んでいった。それを見て今までののんびりとした表情から皆一転して戦闘モードに入る。
そうして山に入っていくとランクBの魔獣がそこを徘徊していた。レスリー以外の4人が次々と魔獣を倒している中レスリーは視線を周囲に配って山の様子を見ている。
「ランクBクラスならあの柵は大丈夫だろう」
「そうだな。びくともしないと思うぜ」
そんな話をしながら山を登り反対側に降りてきた時に5人の足が止まった。
「これが原因か?」
「おそらく。これで流れが変わったんだろう」
リックの言葉にレスリーが答える。
5人の目の前には山崩れで土砂が削られて谷間に向かって流れ落ち、今いる山とその奥の山との谷間を土砂や大きな岩が塞いでいるのが見えている。レスリーが前方に手を伸ばし、
「塞いでいる向こう側がちょっとした池になっているが、あれはもともとは池じゃなくて山の間を流れる川だったんだろう。それが堰き止められて池になってしまっている」
「それでここから先に水が流れなくなって地下に浸透していく水がなくなり、地下水が日上がってしまったってことになるんだな」
リックの言葉に頷くレスリー。そうして一行は山を降りて堰き止められている場所に近づいていく。大量の土砂や岩が山の谷間を塞いでいて自然にできたダムの様だ。
堰き止められた場所に着くとその場でじっと立っているレスリー、その表情は普段と違って困惑している様だ。じっと何かを考えているレスリー、そしてそれを見ていたアイリーン。
「土砂や岩を取り除かないの?それともレスリーの風水術でも取り除けないの?」
レスリーはアイリーンの声で目が覚めた様にハッとした表情になると
「わからないんだ」
「わからない?」
レスリーはアイリーンを見てそれからリックや他のメンバーを見て
「俺が風水術士の師と仰いでいる大木、その師によると自然災害とは人間がやってはいけないことをやった結果起こるものだと仰っていた。ただ目の前のこれは人間が何か手を加えた結果じゃないんだよ」
「なるほど、自然にこうなった、なるべくしてなったということなんだな」
マイヤーの言葉に頷き
「今のこの目の前の現象はこうなる運命だったんだろう。それを俺が手を加えること、それこそがやってはいけないことをやってしまうんじゃないかと思ってね」
「なるほど」
レスリーの説明に頷くリック。マイヤーとアイリーンもレスリーの言葉を聞いてそして再び目の前の土砂や岩の壁に顔を向ける。
マリアは皆のやりとりを聞きながら風水術士のレスリーの苦悩の表情をじっと見ていた。師と言われる大木の教えを忠実に守ろうとしているレスリー。自然を愛するが故に悩んでいる。目の前にいる風水術士はどこから見ても本物、一流の風水術士に違いないとマリアは確信した。
誰も言葉を発しないなか時間が過ぎて、そしてようやく決心したかの様に顔を上げたレスリー。その顔はすっきりとしている。
「ここはこのままにしておこう。無理に人間が手を加える必要はないだろう」
その答えは他のメンバーも予想していた様でレスリーが言うとリックがわかったと言ってから
「村には地下水脈の代わりに用水路を作った。村人が困ることはないだろうしな」
「そういうことだ。それにこの堰き止めてできた池がまた他の人、あるいは動物や植物に恩恵を与えるかもしれない。あるがままの状態にしておくのがいいと思う」
レスリーの言葉に皆頷く。
「じゃあここはこのままにして、来た道を戻って俺たちは南を目指すか」
リックの言葉で一行は再び山を越えて草原に出てきた。
草原に出て南を目指して歩いていると日が暮れてきた。安全な場所を見つけるとそこで野営の準備をする。そうしてレスリーが警戒用の渦巻きを周囲に飛ばしている中での夕食の時、
「風水術ってのは奥が深いんだな。何でもかんでも手をつければいいっていうもんじゃないんだと分かったよ」
とリック。マイヤーも
「その見極めもスキルの1つなんだろう」
2人の話を聞いていたレスリー
「まだ自分自身でもよく分かってない部分が多い。勉強不足だってことだな」
「ねぇ、レスリー」
マリアの声にレスリーがそちらに顔を向けると、
「この前アイマスの北で大きな岩を海に移動させたじゃない。あの時は悩んでない様に見えたんだけどどうだったの?」
「ああ、あの時は迷わなかったな。というのはあそこには人が作った道があっただろ?おそらく道が無かったらいつかあの岩はそのまま崖を転がって海にそのまま落ちたのは間違いない。ただそこに道を作ったことによって岩が海まで転がらないかもしれないという状況になった。だから岩をどかせたんだよ。早晩落ちる運命にある岩だったのは間違いなかったからな」
「なるほど。岩が先で道が後、そして岩はいずれ海に落ちる運命にあった。逆に街道ができたことによって海まで転げ落ちなくしたのは俺達人間だ。だから問題なかったんだな」
レスリーの言葉をまとめたマイヤーの言葉にそう言うことだと頷き、
「今日のは違う。人が全く関わっていない場所で起こった出来事だからさ。だからどうしたらいいのか悩んでたんだよ。今でもあのままにしてよかったのか悩んでる。王都に戻った時に師に聞いてみるつもりだ」
その後は雑談をして夕食を済ませると各自がテントを貼って野営の準備をし見張りの順番を決める。
「今まではいつもレスリーが1人組だったけどいつもじゃ悪いからさ、今日は組み合わせを変更しないか」
レスリーは風の渦巻きを飛ばせるというので夜はいつも1人で見張りをし、他はリックとマイヤー、アイリーンとマリアという組み合わせだった。
「俺は1人で全然問題ないけど?」
レスリーはどうしたんだという表情でリックを見るが
「まぁたまには組み合わせを変えてみようよ。ということで実はもうこれを作っているんだよ」
そう言ってリックは細い枝を5本手に持っている。
「同じ番号同士が組むんだ。誰と組むかはわからない」
「面白そうね」
「だろ?」
とリックがイタズラっぽい表情でマリアを見る。マイヤーも問題ないな、たまにはいいんじゃないかと同意し、アイリーンも私も問題ないわよと言ったので
「じゃあレスリーから引いてくれ」
そう言って決まった組み合わせはレスリーとアイリーン、リックとマリア、マイヤーが1人組となった。
「最初はマイヤー、次がアイリーンとレスリー、最後が俺とマリアだな」
組み合わせが決まり各自が食事の後片付けをしている時にアイリーンとレスリー以外の3人が顔を合わせてしてやったりという表情になっていた。彼ら3人が仕組んだ組み合わせとは知らないレスリーとアイリーン。
そうして夜にマイヤーに起こされてテントから出てきたレスリーとアイリーン。レスリーが渦巻きを飛ばしてからテントから少し離れた場所で腰掛ける2人。
基本野営中は大きな声を出さずにじっと周囲を見ているだけだ。月明かりが照らしている夜の草原で2人座ってしばらくするとアイリーンが立ち上がってレスリーの座っている岩場に近づいてきて
「隣に座ってもいい?」
レスリーが場所を少し譲るとそこにアイリーンが座りレスリーに身体を寄せてきた。その肩に手を回すレスリー。言葉を交わさなくてもお互いに十分に気持ちが伝わっていた。
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