第5話

 翌日は朝村長に今日の予定を説明してからレスリーとリックの2人は森に向かっていった。森に入るとリックが倒木を探し、それをレスリーが渦巻きで浮かせては1箇所に集めていく。そうして2人で枝を切り落として丸太にしていく。森の入り口には相当数の倒木が積まれていった。


 一方マイヤー、マリア、アイリーンの3人は村人達と話をして柵を作るにあたってどこに門を作るか、柵の高さはどうするか、柵はどの程度までの広さがあると良いかなど村民の希望を聞いていく。


 昼過ぎにリックとレスリーがかなりの倒木と一緒に村の方に戻ってきた。2人の背後には風の渦巻きで浮いている倒木が延々と続いている。


 村の外で倒木を1箇所に集めると事前にマイヤーらが聞いていた希望の高さになる様に倒木を風の刃で切っていき、マリアとアイリーンが地面につけていた印のある場所をまずは風水術で掘り、そこに倒木を埋め、周囲の土を術で固めてしっかりと作り上げていく。


 村人も一緒になって村中総出で村の柵作りが始まった。レスリーが埋めた倒木と倒木を皆で縄で縛っていき堅牢な木の城壁が村の周囲にできていく。


 森で倒木を集めだして10日後、今までとは見違えるほど堅牢な木の柵で囲まれた村がそこにあった。柵は畑の外側に作りそれにより村の敷地は広くなり、また正門、裏門と2箇所に門を作りどちらの門も頑丈な板を重ね合わせて魔獣の攻撃にも耐える程の強度を持たせる。そして正門と裏門には見張り台も作った。畑も柵の中になったからこれで安心して農作業ができるだろう。


 全てが終わると村人全員がリックら冒険者5人に感謝をしてそのままお祭りになった。

村の中心にある広場で皆で食べ、踊り、そして酒を飲む。リックら5人も村人と一緒になって踊り、食事をして酒を飲んで大いに祭を楽しんでいた。


 リックが休憩しようとマリアと2人で外にあった椅子に座っているとそこに村長がやってきて、


「本当に何から何までありがとうございました。これでこの村にも活気が戻るでしょう。村を出ていった若い連中も戻ってきてくれるかもしれません」


「よかったじゃないですか。村が元気になれば人も集まってくるし。これからまた美味しいものをたくさん作って皆に食べさせてくださいよ」


 リックの言葉に大きく頷いて何度もお礼を言ってまた村の中央にある広場に戻っていく村長の背中を見ながらマリアがリックに、


「レスリーを仲間に入れて大正解だったわね」


 その言葉に大きく頷くリック。


「本当だよ。彼は凄いことを当たり前の様にやってくれる。レスリーが風水術士となってやりたかったことって魔獣の討伐じゃなくてこういう皆の生活をよくする手助けなんだろうなと今回この村に来て思ったよ。こんな村や町はまだまだ国の中にあると思う。彼には困っている村や町を少しでもなくして皆が暮らしやすくなるために国中をあちこち動き回って貰いたいよ」


「最初は彼をブレインにするっていってなかったっけ?」


 マリアが意地悪く聞くが、


「彼にはもともと城にこもって俺と一緒に書類仕事をしてもらおうとは思ってないさ。そっちはマイヤーがいてくれれば十分だ。彼には俺の全権大使として国中を見て回って貰おうと思ってる」


「そうね。それなら彼も受けるでしょう。でも1人で国中を回らせるの?」


 言ってきたマリアを見てリックはニヤリとする


「マリアも気が付いてるんだろう?」


 そう言うとマリアももちろんよ。そう言ってから村の広場に目を向けるとそこではレスリーとアイリーンが一緒になって村人と踊っていた。


「あの2人はお似合いだよ」


「そして言わないけど2人ともお互いに惹かれ合ってるわ」


「稀代の風水術士と剣の達人か。大抵の困難なら乗り越えられそうだ」


「ええ。あの2人なら貴方も安心して任せられるわね」


 そうして見るともなく村の広場を見ていると食った食ったと言いながらマイヤーが2人の座っている椅子に近づいてきた。


「休憩かい?」


「まぁね」


 そう言って2人の視線の先を見てマイヤーも納得する。3人の視線の先にはリックの手に自分の手を絡めたアイリーンがリックを引っ張る様にして村人が用意してくれている食事が並んでいるテーブルに歩いていくとこだった。


「あの2人はいい夫婦になるよ」


「ちょうど今リックとその話をしてたのよ」


 そうしてリックが将来レスリーとアイリーンには自分の全権大使として国中を自由に巡ってもらって困ってる村や町、街道や川や森を見て貰いたいんだというとそれを聞いたマイヤーは大きく頷いて


「あの2人はいい意味で自由人だ。こちらの意を汲んでしっかりと仕事をしてくれるだろう。それにしてもリック、凄い男が市井に埋もれていたな。出会えてよかったな」


「全くだ。今回のこの村の用水路に柵の工事。普通なら大きな予算を使ってやる事業だろう。ただこんな名も無い小さな村はいくら嘆願したって誰も見向きもしてくれない。そんな村をレスリーが実質1人で見事に変えてしまったよ」


「レスリーにとってみたら相手が誰だとかは関係ないんだろう。目の前に困っている人がいるから助ける。いや人だけじゃないな自然が困っていたら修復しているし。彼にとっては当たり前のことをしているだけだという感覚だと思うよ」


 マイヤーの言葉にマリアがアイリーンもそうよと言ってから、


「私も小さい時から周りが変に気を使ったり相手の方がずっと年上なのに私にご機嫌をとってきたりばかりだった。そんな生活をしてたからそういうものなんだと思ってたけど学院の寮でアイリーンと一緒になって初めて本当の友達って呼べる人ができたの。損得勘定抜きで何でも言い合えるのが友達なんだってアイリーンと会って初めて気が付いたわ。彼女は私が貴族でも何も気をつかわずに最初から学院の同級生という立場で話しかけてくれた。私はそれがすごく嬉しかったもの」


「だからアイリーンとレスリーは惹かれ合うんだろう。お互いに裏表がなくて純真で真っ直ぐな性格だし」


「そしてお互いを認め合ってるわね」


 マリアの言葉に大きく頷いたリックとマイヤー。

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