第4話

 そうしてリックら5人による土木工事が始まった。土木工事とは言っても実際はレスリーが小川の縁に立ってその地面に杖を向けると地面が幅50センチ、深さも30センチほど凹む。用水路というか溝だ。そうしての溝の左右と底をしっかりと固めつつ溝を伸ばしていくだけなので他の4人はレスリーの仕事ぶりを見ているだけだ。


「見事なものだね」


「あっという間にできちゃうんだ」


 レスリーが作る水路を感嘆した様子で見ているリックとマリア。草原の中に用水路がみるみるうちにできていく。


「俺達も手伝うよってリックが言ったけど手伝うことがないな」


 マイヤーができていく用水路に流れる水を見ながら言う。本当だよ、見てるだけだと言い出したリックも苦笑いだ。リックは杖を地面に向けて用水路を伸ばしながら


「これが風水術士の仕事だよ」


 草原は平ではなく高低差があるがレスリーは水が川から村に流れていく様に時折深さを変えて調節しながら幅50センチをキープしつつ用水路を村に伸ばしていった。


 そうして用水路が村の畑にきたところで今度は畑を囲む様に格子状に畑の中に用水路を張り巡らせていく。そして最後はまた用水路を1本にして村の中に伸ばしていき、村の中にある池に流し込む様にした。


 レスリーらが用水路を作って村に入ってくると村人が集まってきた。


「なんと、あっという間に用水路を作ってしまわれたのか」


「これで畑に水が来て農作業ができるぞ」


 大喜びしている村人の目の前で小川から引き込んできた水が池の中に流れていく。池の水も循環するから洗濯しても大丈夫ね。もうあの小川まで行かなくてもいいんだものと女性の村人達も大喜びしている。


「これで畑の土地は元通りになって作物が育つ様になるよ」


 村人全員がレスリーら5人に感謝の意を表して頭を下げる。中には早速畑に出てタネを撒いていく村人や鍬を持って土を掘り返している村人が。


 彼らを見ながら村長のジムが


「本当にありがとうございました。おかげ様でわしらも元の生活に戻れそうです」


丁寧なお礼を言われた後、


「せっかくだから村の柵も作り替えておこうか」


「それがいいな。魔獣や野生動物が入ってこない頑丈な柵を作ろう」


 リックの言葉にマイヤーが賛成し、他のメンバーにも異論がなかった。


「そこまでしてくださるのか。ありがたい話です。ただもう日が暮れます。何もありませんが今日はこの村で休んでください。家は空いている家どれでも使って貰って結構ですから」

 

 一行は村長に勧められた一軒家に入ってそこで夜を過ごすことにする。一軒家に入ってしばらくすると村人が大したものはありませんがと夕食を持ってきてくれた。断ろうとしたが村人曰くこれは村に用水路を作ってくれたお礼です。受け取ってくださいと言われて結局村人の好意にあずかることにした。村人の作ってくれた食事は野菜中心の食事だが誰も不平を言わずに食べている。村人の気持ちがこもっているからだ。


「それにしても風水術って凄いんだね。見るたびにびっくりしちゃう」


 アイリーンが木製の皿を持ったままレスリーの方を見る。


「本当だよ。普通ならあの小川からこの村までの用水路を作ろうとしたら大勢の人夫を集めて1週間から10日程度かかって作るところをあっという間に作っちまったからな」


 リックも感心しきりだ。


「アイリーン、おそらくだけどここまでの風水術をこなせるのはレスリーだからだと思うぞ」


「どういうこと?」


 マイヤーに顔を向けるアイリーン


「レスリーの風水術士としての能力、スキルが半端なく高いってことさ。精霊魔法だってスキルの低い時って効果も低いだろ?同じだと思うんだよ」


 マイヤーの話を聞いていたレスリーは自分が王都郊外の大木と話をして風水術の指導を受けた時のことを話しだした。


「確かにマイヤーの想像通りかもしれない。俺は最初は風の渦巻きも1つ、それもせいぜい5センチほどの高さしかなかった。地面から飛び出る槍も1つで高さは10センチもなかった。そして師の前で鍛錬を重ねている間に何度かスキルアップしたんだよ。スキルアップする度に渦巻きは大きく、そして同時に複数出せる様になっていった。地面から伸びる槍も高くなり、その本数も増えた。俺の風水術がどのレベルかというのは比較する人がいないからわからないけど、少なくとも風水術士になりたての頃よりはずっとスキルが上がってるのは間違いないな」


 そして村人が用意してくれていた果実汁を一口飲むと、


「この前アイマスの海岸で大きな岩を取り除いただろう?実はあの時もスキルアップしたんだよ」


「そうなんだ」


「今日の用水路を作った時はどうだったの?」


「今日はその感覚はなかったな」


 マリアの問いかけに答えるレスリー。


「レスリーのスキルは相当高いレベルに来てると俺は思う。大きな岩を浮かせたりあっという間に地面に用水路を作って水を流したりできるんだからな」


 リックの言葉に頷くマリアとマイヤーとアイリーン。そうしてひとしきりレスリーの風水術について話しをしてそれがひと段落ついたところで


「ところで明日だが」


 とマイヤーが明日の予定を話しはじめた。俺達が通ってきた森に入ってそこにある倒木を村に運んできてそれを村の周囲にはめていくのはどうかと提案するとリックがどうせなら柵を広くして畑も柵の中に入れてしまえば村人も安心できるだろうと言ってその案が採用される。


「となると結構な倒木を集めないとな」


 レスリーが呟くと、


「まぁ急ぐ旅でもないし。それよりもしっかりとした柵を作って安心させてやろう」


 リックのその言葉に大きく頷いた4人。


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