第2話

 ギルマスの話を聞いていたマイヤーはギルマスが風水術士のレスリーを指名した時点でアイマスやラウダーでのレスリーの能力についてしっかりこの辺境領まで報告が来ているんだと理解する。一方ギルマスのスティーブは噂の風水術士のスキルというのを実際に見てみたいと思っていた。


 3人とギルマスがギルドの裏にある鍛錬場に行くと、広い鍛錬場には結構な数の冒険者達がいて思い思いに鍛錬をしたり木のベンチで休んでいたりしていた。


 そこにギルマスと一緒に顔を知らない3人の冒険者が入ってきたのでそちらに一斉に視線を向ける他の冒険者達。鍛錬をしていた冒険者達は動きを止めてこちらに視線を向けてくる。その視線は見知らぬ男達を見定める様な視線で友好的なものではない。


 ギルマスはレスリーに


「あそこにミスリルの人形が3体あるだろう。あれを相手に風水術を見せてくれるか?」


「レスリー、最初が肝心だ。遠慮なくやってくれ」


 リックが続けて言うとわかったと鍛錬場で人形を見ながら立つ。その背後でギルマスがリックとマイヤーに


「実は風水術を実際に見るのはこれが初めてなんだよ」


「ギルマスもびっくりすると思いますよ」


 マイヤーが答えている中、レスリーが杖を持っている手を前に突き出すとそこに高さ3メートルはあろうかという竜巻が3つ現れた。びっくりしている他の冒険者達。


「なんだよ?あれは?」


 あちこちからそう言う声が聞こえてくる中、再び杖を突き出すとその3つの竜巻が一斉にミスリル人形に向かって行き、人形を竜巻の中に包んでいく。激しく揺れるミスリルの人形、見ている者は声も出ない。


 そうして突然竜巻が消えたかと思うと今度は数え切れない程の風の刃がミスリル人形に向かって絶え間なく切り裂く様に攻撃していく。再び激しく揺れる人形。それを見ていたギルマスも思わず


「これは想像以上だ。すごい威力じゃないか」


 そうして風の刃が途切れることなくミスリル人形を攻撃していたかと思うと突然ミスリル人形の足元から20本以上の土の槍が飛び出して人形に突き刺さる。


 鍛錬場にいた冒険者達は目の前で起こっている事象をただ見てるだけだ。敵に近づかずに竜巻や風の刃をぶつけ、突然地面、足元から槍が突き出てくる。魔法でも見たことがない攻撃方法だ。


 レスリーが手を前に出すと今まで突き刺していた槍は嘘の様に消え、そして風の刃もあっという間に消えた。しばらくの沈黙の後ギルマスのスティーブが


「これが風水術か。報告は来ていたが実際に見ると半端ない威力だな」


「魔法と違って魔力は使わない。自然にある力を借りているだけだよ」


 レスリーは汗ひとつかいておらず、例によって淡々とギルマスに説明をしている。隣にいたマイヤーとリックは何度も見ている光景だがそれでもこうして見るとレスリーのスキルの高さに驚いてしまう。


 数人の男が3人とギルマスにいる場所に近づいてきた。先頭の男は見るからに戦士といった格好で両手に斧の模擬刀を持っている。その後ろから近づいてくる男達の装備を見ると彼らは同じパーティのメンバーの様だ。戦士、ナイト、狩人、精霊士、僧侶の5人だ。


「すごいものを見たんだが、ジョブは何なんだい?」


「風水術士だ」


「風水術士?」


 おうむ返しに聞いてきた男にギルマスが


「こいつらは今日アルフォードにやってきたAランクの5人組のパーティだ」


 そう言ってギルマスの仲介でお互いに自己紹介をする。近づいてきた5人はギルマス曰くこのアルフォードでもNo.1を張っているランクAのパーティらしい。

戦士 アラン

ナイト ピート

狩人 ロイド

精霊士  ムーン

僧侶   スミス

 リックらと自己紹介が終わるとリーダーのアランが


「風水術ってのを初めてみたが、半端ない威力だな」


 感心して言うとマイヤーが


「俺たちも最初はびっくりしたさ。ランクAが4体いたところ、レスリーが杖を突き出すと突然地面から土の槍が飛び出てあっと今に4体の魔獣を討伐しちまったんだからな」


「1人でランクAの4体を瞬殺か。その土の槍以外の風の攻撃もすごかったな。突然竜巻が襲ってきたり、無数の風の刃の攻撃。突然現れるから誰も避けられない」


 やりとりを聞いていたギルマスはリックをみると


「こいつらはこのアルフォードのランクAのパーティだ。この街の冒険者のまとめ役をやってもらっている」


 そしてアランにはリックらも5人組のランクAのパーティだといい、


「リックらはしばらくこのあるフォードにいるそうだ。仲良くやってくれ」


 そう言ってギルマスが鍛錬場から出ていった。残った3人とアランらのパーティメンバーはそのままギルドに戻って併設する酒場に移動するとそこにいた冒険者達と話をする。もっぱら話題の中心はレスリーだが彼は丁寧に聞かれてことに答えていった。


 そうして酒場にいた冒険者達からアルフォードの冒険者の間にリックらのパーティにちょっかいだすと大変な目に遭うぞという評価が広まっていくことになる。




「なるほど。レスリーの風水術を見せたことによって彼らを納得させたのね」


 リックの一軒家のダイニングルームで5人で食事をしながらリックがギルドでの出来事をマリアとアイリーンに話していた。マリアが言うとマイヤーが頷いて


「ギルマスなりに俺達に気を使ってたと思う。無用なトラブルは無い方がいいしね。となるとレスリーの技量を見せつけるのが一番早い」


「確かにマイヤーの言う通りよね、私たちも最初森の中でレスリーがランクSのデビルフロッグを倒すところを見たときは言葉が出なかったもの」


 アイリーンもフォークを置いてその時のことを思い出す表情をしながら言う。


「まぁこれで明日から動きやすくはなっただろう。これもレスリーのおかげだな」


 リックがレスリーの方に顔を向けると


「気を使ってくれたギルマスに感謝だよな。俺はラウダーでも最初に鍛錬場で風水術を見せつけたら結局誰にも絡まれなかったし。余計なトラブルが避けられるのならあのやり方が一番いいよな」

 

 その通りと全員が頷いた。


 そうして食事が終わると明日はとりあえず街の中を歩いてみようと言うことになった。街の外に出るのは明後日からということで明日一日は長旅の疲れをとる意味でもゆっくりすることになった。

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