開花

第1話

 翌朝一行はギルドに挨拶をしてからアイマスの街を出てラウダー経由で辺境領を目指していく。アイマスのギルドではギルマスのオリーブからは辺境領の中心都市のあるフォードのギルドには連絡を入れておくという。


「気をつけてね」


「それでは、お世話になりました」


 そうして街を出た一行は街道をしばらく歩いてから街道の右手にある森に入っていく。この森の中を探索しながら東に進んでラウダーの街を目指すルートだ。森に入るとレスリー作った渦巻きがパーティの周辺にいくつも飛んでいき周囲を警戒する中、森の様子を見ながらゆっくりと進んでいく一行。


 レスリーは歩きながら左右や足元を見て森の中の様子を観察する。そうして魔獣を見つけるとリックらパーティが彼らを倒して魔石を取る。


 森の中で大木が倒れかかっているのを見つけたレスリー。その根元を見ると大きく土が抉られていた。そして木の幹にも傷がついている。しばらくその傷を見ていたレスリーは背後にいたリックらメンバーを振り返ると、


「これは大きな魔獣がぶつかった跡だ。この森には何か大きな魔獣がいるんだな」


 その言葉で全員が戦闘態勢に入るがレスリーはすぐに


「最近のじゃない、1年以上は経ってる傷だ」


「なんだよ、それを先に言ってくれよ」


 リックが抜いた剣を鞘に戻す。


「ごめんごめん 付近に飛ばしている風も敵の気配を感じてないし」


 レスリーの言葉で緊張を解くメンバー。アイリーンもそれを聞いて手に持っていた剣を鞘に戻した。


「でもこの森に大きな魔獣がいるなんて話、アイマスの街でも聞いたことがなかったわよ」


 マリアがいうとそうだよなと声を出すメンバー。


 レスリーは背後でメンバー達が話しているのを背中で聞きながら早速倒れかかっている大木を元にもどす作業に入った。まずは大きな竜巻をいくつも作るとそれで大木を押して地面と垂直に立てていき、真っ直ぐになるとそのまま竜巻で大木を支えながら杖を突き出した。


 そうすると大木の地面の土が盛り上がっていきしっかりと大木を支える様になる。

 風の竜巻が離れても大木はどっしりしているのを見て安心するレスリー。


「見事なものだ」


 マイヤー。全く何度見ても感心させられるなと思っている。


「これでよし。もう大丈夫だ」


 レスリーはそう言って大木の幹を手の平でパンパンと叩くと、


『すまないな。助かったよ』


「おっ、話ができる大木だ」


 その声に4人がびっくりする。彼らには大木の声が聞こえない。レスリーは大木に向かって話かけている


「どれくらい倒れかかってたんだい?」


『倒れかかっているわしの木の上の方の枝には鳥の巣があってな、2回卵を産んでおる』


「じゃあ2年程になるんだな。それでこの傷をつけたのは魔獣だろう?」


『大きな獣だった。森に住んでいる熊や猪ではない。もっとずっと大きな獣がこの木にぶつかってきたんじゃ。何をしたかったのかはわからぬが何度もぶつかって、そして南の方に去っていきよった』


「南?」


『そうだ、お主が立っている方向を真っ直ぐに歩いていきおった』


 そこでレスリーは他のメンバーにこの木に傷をつけたのが熊より大きい魔獣で2年前に遭遇してそのまま南に向かって行ったそうだと説明をする。


「なるほど。それにしても本当にレスリーが木と話ししているのね」


 現実を目の前にしてびっくりしているメンバー。


「全ての木じゃないけどな。この木は意思が通じ合えたよ」

 

 そして大木を見て


「他に困ってることはないかい?この辺りは水は十分にあるかい?」


『大丈夫だ。お主が根をしっかりと土に戻してくれたしの』


「ならよかった」


 

「それにしても大きな魔獣ってのが気になるな」


 大木から離れて森の中を東に進み始めるとリックが口を開いた。


「南の方って言ってたらしいけどどの辺りまで行ったのかしら」


 マリアがリックに答える様に言う。それを聞いていたマイヤー。


「魔獣はテリトリーがあってそこからは出ないって聞いているが例外なんだろうか。それとも南といってもこの森のどこかにいるってことだろうか」


 そう言ってからリックを見て


「もしずっと南に移動していったということになったらそいつはテリトリー関係ない魔獣ってことになる」


「…つまり普通の魔獣じゃない可能性があるってことか」


「2年前の話だって言ってたよね、となるとこの森にはいない可能性が高いわね。普通なら目撃情報があるもの」


「アイリーンの言う通りだ。それに今でも生きているかどうかもわからないぞ」


 レスリーは先頭を歩きながら後ろで話しをしている会話を聞いていた。周辺を警戒する風の渦巻きからは異変は感じられないが注意はしておこうと風の数を増やして周辺に飛ばしていく。それを見ていたリックから


「警戒を強めたのかい?」


「念のためにね」


「レスリーの風があるからずっと緊張しなくても良いのはほんと助かるわ」


 マリアがいうと本当だよなと頷くメンバー。とはいっても前後左右を目視で確認しながら森の中を進む。


 その日は特に異常もなく、レスリー曰くこの辺りは魔素が少ないという場所を見つけるとそこで野営の準備をする。


「それにしても将来の国王陛下が野営してるなんてな」


「意外と楽しんだよ、これが。冒険者になるまでは自分でやるなんてほとんどなくてさ、いつも誰かが準備していたのに乗っかるだけだったんだ。当たり前だと思ってたけどこうやって外に出ると誰もしてくれない。自分のことを自分でやるという当たり前のことが嬉しいんだよね」


 大きな岩の下で野営の準備をして夕食を食べている5人。周囲にはレスリーが探知用の風を飛ばしているので車座になって座っている。


「父親、今の国王陛下だけど、彼は騎士団の騎士として国内をあちこち移動して国民の生活の生活や自分の国の街を見てまわってたんだ。その経験が国王になって国を運営するときにすごく助かっていると言ってね、俺は騎士だったからお前は冒険者をやって国中を廻ってこいって話しになってさ。それで冒険者になったんだ。すごく良い経験をさせてもらってるよ」


 そう言っているリックは心底冒険者を楽しんでいそうだ。レスリーはリックの話しとその表情を見ながら彼は良い国王になるだろうと確信する。


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