第9話

 その頃レスリーは一人で街の外に出ていた。街を出るのは2日後なのだが街よりも自然に囲まれている外の方がずっと気持ちが落ち着く。皆と別れて街の外にでて付近の草原や川、林の中を歩いて過ごして夕方に街に戻ってきた。


「ええっ? 外に出てたの?」


 びっくりして食べていた食事を喉に詰まらせたのか咽せているアイリーン。


 チームの一軒家のダイニングでの夕食の時にアイリーンがレスリーの話を聞いてびっくりする。今日はマリアとアイリーンが街で食材を買ってきたというので全員で二人の家庭料理を食べながらそれぞれがその日の報告をしていた。


 アイリーンはともかく貴族のマリアが料理をするというのは信じられなかったレスリーだが聞いてみると学院の寮でアイリーンと同部屋になって彼女から料理を教えてもらっているうちに料理にハマってしまったらしい。


「特に欲しいものはないし、外を歩いている方が何か落ち着くんだよ」


「本当に根っからの風水術士だな」


「ほんとね」


 マイヤーとマリアが呆れているのか感心しているのかがわからない調子で言うが


「自然は毎日の様にその顔を変えているんだ。天気の良い日、曇りの日、雨の日。天候が変われば今まで見えなかったものが見えてくることもある。そういうのを見ながら外を歩くと楽しいよ」


 とレスリーは涼しい顔だ。


「それでどうだった?何か変わったことはあったかい?」


 フォークを置いてリックが話しかけてくると、


「いや特に変わったことは見つからなかった。平和だった」


 リックはレスリーの顔を見ていた。平和だったことを心底悦んでいるのが表情に出ている。王都の近くにある大木に導かれ、その大木と会話をし風水術の基礎から応用まで大木から学んでいった男。とんでもない戦闘能力を有しているがそれを見せびらかすこともなくいつも泰然としている。リックが今までに付き合ってきた中にはいなかったタイプの男だ。


 隣に座っているマイヤーは現実的な考え方をしていて最初に方針を決めるとそれに沿って行動を起こし常に最短距離で問題を解決しようとする。学生時代から地頭が良くてそして決めたことを実行する遂行能力の高さもある。王都学院では座学では常にNo1だった。リックもマイヤーのそういう点を高く評価していて自分の将来の右腕はマイヤーだと決めていた。


 一方レスリーは見ている限りマイヤーとは正反対で周り道をすることを苦と思わず物事をいろんな角度から見ようとする、こういう風に物事を客観的に見ることができる人材も必要で不可欠だと知っていた。


「レスリーは明日も街の外に出る予定なの?」


「そのつもりだけど」


 アイリーンの言葉に答えると、


「私も一緒に付き合ってもいい?」


「もちろん。ブラブラとするだけだけど、それでもよければ」


「じゃあお願いね」


 そうして明日はレスリーとアイリーンは街の外に、マリアはこの街に住んでいる知り合いの貴族に挨拶に、リックとマイヤーは自分たちの買い出しをすることになった。


 翌朝、レスリーとアイリーンは城門を出て街の外に出ると南に向かってブラブラと歩いていく。昨日は北の方を歩いたので今日は南にするというレスリーにお任せするわと言ってついてくるアイリーン。


 草原を森の方に歩きながらアイリーンはレスリーにリックやマリア、そしてマイヤーについて話をする。


「リックは王子でマリアは大貴族の娘でリックの許嫁、でも2人とも本当にフランクでいい人よ」


「それは同感だな」


「でしょ?それで学院のときにリックと一番仲がよかったのがマイヤーなの。彼は普通の市民で貴族のしがらみがないから最初からリックとは普通に話してたわ。マリアはね、本当は貴族だから寮に住む必要は無かったんだけど何事も経験って言って自ら手を上げて寮に入ってきたの。そこで私と同室だったの」


「なるほど。アイリーンはマリアが大貴族の娘だって知ってたの?」


 歩きながらも左右に目を配ってそこにある自然の状態を見ているレスリー。


「もちろん。学院に入る前からあの2人は有名だったし。でも寮で話しをしたらマリアも本当にいい人なの。全然偉そぶらないし私が料理が好きだって言ったら教えてよって言われて自分で作ってたわ」


「アイリーンは貴族じゃないんだろ?」


 レスリーが言うと違うわよと笑って、


「私もマイヤーと同じ普通の市民よ。学院は試験に通れば市民でも問題なく通えるしね。実際学生の中にも普通の市民の生徒も多いの。寮の部屋割りについては学院もいろいろと考えて部屋割りをしているんだと思うわ。貴族出身者ならマリアに頭が上がらないもの。私みたいな一般の市民だと逆にそこまで気を遣うこともないからね」


「そう言うものなのか」


 そんな話をしながら草原を歩いて森の中に入っていく2人。たまにでるランクBの魔獣はアイリーンが片手剣を一閃して倒していく。その剣の捌きを見ていたレスリー。


「見事なものだ」


「魔力はほとんどないの。だから剣の練習を必死でしたわ。おかげである程度までは上達したけど今技量が頭打ちなのよね。もっと強くなりたいんだけど敵もそうそういるわけじゃないしさ」


 魔獣を倒した剣を振って血を飛ばしながらアイリーンが言う。


「俺が付き合ってやろうか?と言っても俺が相手するわけじゃないけど」


「どういうこと?」


 アイリーンがレスリーをじっと見て聞いてくる。レスリーが杖を前に出すと森の中にある落ちている小枝が多数彼の周りに集まってきた。


「これをアイリーンに向けて飛ばすから、交わすなり切るなりしたら鍛錬になるんじゃない?」


「なるほど。じゃあちょっと待って。木刀に変える」

 

 アイリーンは魔法袋から片手剣の木刀を取り出すとそれを手に持って構える。彼女が準備している間にレスリーは多数の渦巻きを周辺に飛ばして周囲の警戒を万全にする。


「じゃあ行くよ」


 そい言うと1本の枝がアイリーンに向かって真っ直ぐに飛んでいった。なんなくそれを叩き落とすアイリーン。レスリーは今度は2本を同時に飛ばす。そうして徐々に木の枝の本数を増やし速度に変化をつけて時間をずらせてアイリーンを狙って枝を飛ばせていく。


「これはいい鍛錬になるわね、あっと」


 叩き落とせない枝は避けたりしながらも木刀で次々と枝を払っていくのを見て感心する。剣の腕はもちろんだがその身体能力の高さにびっくりしていた。


「身体能力がすごく高いな」


 15分ほど木の枝を飛ばして一旦休憩にする。アイリーンは息を荒くさせながら


「次々とあちこちから飛んでくるから一瞬も気が抜けない。久しぶりに緊張した鍛錬をしてる。これからもお願いしていい?」


「もちろん。パーティメンバーが強くなるのは大きなアドバンテージになるからね」


 そうしてアイリーンのクールダウンがてら森を歩いてその様子を見ていくレスリー。そしてしばらくするとまた同じ様な訓練をする。この訓練はレスリーにとっても風水術の訓練としても有効なのでお互いにメリットのある訓練となった。


 そして夕方にアイマスの街に戻ってきて市内のレストランで夕食をとりながらアイリーンが今日の訓練の話をすると俺も今度やりたいとリックが言う。そして明日アイマスの街を出発し移動しながら2人に鍛錬をつけることになった。

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