第8話

メンバーのやりとりを黙って聞いているマイヤーは内心で風水術士の能力に驚愕していた。風水術士とは冒険者というカテゴリーでおさまるジョブではない。戦闘能力はあくまで副次的なもので自然を理解して自然と共生することに意義を見出しているジョブだと。


 彼は間違いなくリックのブレーンとして必須になる人物だ。そう思ってリーダーのリックを見ると彼もこちらを見ていた。お互いに無言で軽く頷きあった。


 一行は翌日村を出ると今度は東に向かって草原を進み、それから森の中に入ると探索しながら南のアイマスを目指していく。森の中にはランクBの魔獣、そしてさらに奥に入るとランクAが見られるがリックらのパーティが問題なく倒していき、レスリーは戦闘補助をしながらも目についた木や川に近づいてはその状態を見ていく。


「この森にはほとんど人が入ってないな。手が加えられている跡がない」


 そう言ってしゃがみ込んで足元の草の生え具合を見ていたレスリーが立ち上がる。そして4人を見て


「冒険者もここまでは来ていないってことになる」


 レスリーがそう言うとマイヤーが


「港町所属の冒険者はたいていダンジョンに行くからだろう。低ランクはこの森にはこないだろうし」


「おそらくマイヤーの言う通りだろうな。となるとレスリー、このあたりは問題がないってことかい?」


 立ち上がって周囲を見ていたレスリーがその声に振り返ると


「そうだね。木に巻き付いている蔦を切りながら進んでいこうか。自然のままで残ってる、ここはいい場所だよ」


 その後もゆっくりと森の中を進んでいき、魔獣に遭遇すると問題なく倒し、途中でレスリーが言うと全員で蔦を切っては歩いていく。そうして行きと違って倍の6日かけてアイマスの街に戻ってきた。


 アイマスでの拠点の一軒家のリビングで5人で座って話をするメンバー。


「俺はこんな調子でゆっくりと探索をするんだけど本当にいいのか?」


 レスリーは他の4人はもっと他のことをしたがっているのではないかと心配している表情で伺う様に4人を見る。


「全く問題ないな」


「うん。こう言うのも冒険でしょ?」


「国が良くなる為にやってくれてるのを否定する理由はないな」


「結構楽しいよ」


 次々と言ってくれてありがとうと頭を下げるレスリー。


「レスリー、マイヤーが言っているがレスリーのしていることは国のためになることだってのは全員がわかってる。むしろもっとやって貰いたいくらいだ。俺達は自然を読むことができない。何が正常で何が異常なのかがわかるのはレスリーだけだ。これからも頼むよ」


「レスリー、将来の国王陛下から期待されてるわよ」


「アイリーン、よしてくれよ」


 そうしてアイマスの市内で3日ほど休んだ一行は今度は南の探索に出かけて1週間後に再びアイマスに戻ってきた。


「港の南北の街道沿いは大丈夫だったよな。となるとそろそろ辺境領のアルフォードに向かって出発かい?」


 市内のレストランで食事をとりながらの会話。パーティの参謀役でもあるマイヤーが聞いてくる。リックは顔をマイヤーからレスリーに向けると


「街道の南の森を移動しながらラウダーの街経由でアルフォード。そうだよな?」


「そうなるね。森の中を移動していくからラウダーまで2週間かもうちょっとかかるかもだけど。ラウダーの街は南以外の場所はとりあえず探索し終えているから辺境領に向かう街道の両側を探索しながら進む感じになると思う」


 そうしてパーティの方針が決まった。この街を出るのを3日後の朝と決めてそれまでは各自自由行動となった。


 翌日マリアとアイリーンは二人で食料の買い出しや日用品や自分達の買い物に行ったり街で食事をしたりして時間を潰した。


 リックとマイヤーはギルドに顔を出すとギルマスのオリーブに面会を求める。


「2日後にこの街を出てラウダー経由で辺境領のアルフォードに向かうことにしたよ」


 ギルマスの部屋でギルマスとソファに向かい合って座り、リックがギルドマスターのオリーブに説明を始める。

 

「4人、いえ5人で移動するのね」


「そう。レスリーを入れて5人で移動する」


「わかった。いずれは国内をあちこちと廻るんだろうとは思ってたけど、でも予想より早かったわね」


 オリーブが言うとマイヤーが


「レスリーの行きたいところに行くことにしたんだよ」


 その言葉に一瞬びっくりした表情になるオリーブだがすぐにいつもの表情になって


「私の想像以上に彼を買っているのね」


 リックがその言葉に全くその通りだよと言い、続けて


「ここ2週間、彼と一緒に港町の北と南の街道から森を探索してきた。レスリーの風水術士としての能力には驚かされるばかりだ」


 そう言うと例えばと言い街道沿い掛けの上にあった大きな岩を風水術で一人で海に移動させて、それから山の斜面を綺麗に整地したとか、森の中で苦しんでいる大木に絡みついている蔦を切ったりしたこと。あとは森の中の魔素の濃度まである程度わかるらしい等と説明する。そうして、


「俺たちには見えない物が彼には見えている。文字通り自然と対話しているんだ。もちろん風水術のスキルも半端ない。彼が大丈夫だという場所はおそらく本当に大丈夫なんだろう。逆に言うと彼に大丈夫じゃない場所を見つけさせ、元に戻すことがこの国にとってもメリットのあることになる」


 王子にここまで買われるとはレスリーも相当ねとオリーブはリックの説明を聞きながら思っていた。そういて説明が終わると、


「風水術士は今ではこの大陸でおそらく彼一人のはずよ。将来のブレインにするのならしっかりと繋ぎ止めておかないとね」


 リックとギルマスとのやりとりを黙って聞いていたマイヤーが口を開いた。


「彼と会ってから1ヶ月になる。性格も分かった。裏表のない素直な性格をしている。なにより自然を愛するその姿勢は対人関係においても同じでね、周囲に気を遣い、思いやりに富んでいる。なかなかの人物だ」


「そうするとこれからは5人で国内をあちこち移動していくつもりなのね」


「そうなるだろう」


 二人の話を聞き終えたギルマスのオリーブは最後に


「分かってると思うけどギルドのある街を訪れた時にはその街のギルドマスターとは会ってね。そういう約束になっているから」


 二人は頷くとソファから立ち上がり、ギルマスの執務室から出ていった。その扉が閉まるとオリーブは机に戻ってギルド本部に報告書を書き始める。その内容はリムリック王子のパーティに新しいメンバーが加入したこと、ジョブは風水術士であり、レスリーという風水術士が王子リムリックから高い評価を得ていること、そして風水術士のスキル及び戦闘能力はおそらくラムダーのギルドの報告時よりアップしていることなど詳しく書いてギルド本部に早便で送る手配をする。

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