第7話

その夜、アイマス市内のレストランで食事を取る5人。


「それで明日からどうするんだ?」

 

 食事の手を止めてマイヤーがリックに聞くと、


「レスリー次第だな」


「俺次第なのか?」


「そうだよ、レスリーの行きたい場所に行ってくれ。そこには魔獣もいるだろうし俺たちの鍛錬にもなる」


 話を振られたレスリーは持っていたフォークをテーブルの上に置くと


「もともとは明日からはここの港町の海岸線に沿って街の北部と南部を見て周るつもりだった。そしてこの港町アイマス周辺の探索を終えるとラウダーに向かう街道沿の今度は南側を探索しながら進んで、ラウダー経由で南の辺境領のアルフォードを目指すつもりだったんだよ。街道の北側は皆と一緒に探索できたからな」


「いいんじゃないか?それで。俺たちもそろそろ他の場所に行こうかなんて話をしていたところだったし。この街の周辺の探索が終わったらラウダー経由で辺境領のアルフォード、悪くないと思うけどな」


 レスリーの予定に対してマイヤーが自分の意見を言うとリックはもちろん、女性二人も問題ないわねとOKする。


「風水術士の仕事ってのはとても大事だと思う。だからレスリーが行きたいところに行ってくれて構わないからな」


 リックの言葉に礼を言うレスリー。そうして明日からはまずは港町アイマスの北部を探索することになった。



 翌日の朝早い時間にレスリーら一行はアイマスの街を出るとそのまま海岸沿いの道を北上していく。この辺りはアイマス以外にも漁業を生業にしている小さな漁村がいくつかあり、その住民のために道路が整備されている。


「いい天気ね。風が気持ちいいわ」


 歩きながらアイリーンが声をだすとマリアも


「本当ね、それにすごくいい景色」


 街道の風景を楽しみながらのんびりと歩く5人。北に伸びている街道の左手には穏やかな海が見え、右手は草原が続いている。街道は海岸線に沿って作られていて道は曲がっているが十分な道幅がある。馬車なども問題なく通行できる道だ。


 そうしてアイマスを出てから1時間程は草原だった右手がそれ以降は街道は右手は海辺にまで伸びてきている山裾に沿ってカーブが多くなり、それに合わせて右側は高い崖になってきた。そしてさらに1時間程歩いた時に一行の目の前には街道の右側の崖の上に今にも落ちそうな大きな岩が出っ張っているのが目に入ってきた。


「あれは危ないな」


「落ちたら人がいたら大怪我をするし、それにあの大きな岩が落ちてきたらこの道路が塞がるか陥没してしまいそうだ」


 崖の上にある大きな岩を見上げながらリックとマイヤーが言葉を交わし、そうしてレスリーを振り返ると、


「レスリー、あの岩なんとかできそうかい?」


 聞かれる前からじっと岩を見ていたレスリー、マイヤーに視線を移すと


「できる」


「おおっ」


 レスリーが杖を突き出すと無数の50センチくらいの風の渦巻きが生まれそれが岩の方に向かって飛んでいった。そうしてそれらの渦巻きが岩の下に入ると今度は風の刃で岩と土とを削っていく。その仕草をじっと見ている他の4人。


「凄いな」


「ああ、見事なものだ」


 レスリーは集中しながら作業をしていき、風の刃で土を削り出してからその岩を無数の渦巻きの上にゆっくりと乗せると、そのまま岩を浮かせて崖から左手の海の方に運んでいき海岸の岩場の先に下ろしていった。


 ざぶんと音がして大きな岩が海に入ると一つため息をつき、そうして再び杖を突き出すと、岩がなくなってえぐれている場所に周囲の土を集めて固めなだらかな状態にする。


「これでよし」


「凄いわね、レスリー」


 レスリーは顔をアイリーンに向けると


「うまくいったよ。大きな岩も取り除いたし崖も綺麗にした。もう大丈夫だろう」


「レスリーありがとう。これでこの街道を利用している人たちも安心だろう」


 リックが近寄ってきてレスリーの肩を叩きながら言う。マイヤーもマリアもその言葉に頷いているのを見て


「戦闘よりもこういうのが風水術士の仕事だよな」


「こっち方がずっと人の役に立ってるじゃない」


 リックは目の前にいる風水術士の力を改めて見直していた。この岩を取り除く作業、普通なら人数をかけて数日かけて行う必要があるところをわずか数分で綺麗にしてしまう。彼の力は知っているとは言え改めてその凄さを認識していた。


 一方レスリーは自分がまたスキルアップしたのを認識していた。以前よりもさらに風のコントロールが安定してきている。もっと鍛錬したら更にスキルアップできるということを確信したレスリー。


 その後再び海岸線を進んでいき、夕方に小さな漁村に着いた一行はそこにある宿に部屋をとった。そして夕食時にその旅館の主人から周辺の情報を聞き出す。


「このまま街道沿いに歩けば1日ほどで次の村に着くよ。道中はまぁ俺達でも普通に歩けるくらいだな。ただ、次の村に行く途中に右手に森が見えてくるがその森の中は魔獣がいるって話しだ。強さとかは分からないが村の連中は近づかないことにしてる」


「どうする?」


 宿の主人がテーブルから離れて厨房に戻っていくとリックが全員を見る。


「とりあえず海岸沿いを北に進んでそれから戻りは街道じゃなくて森の中を通る感じで戻っていこうか」


 マイヤーの提案にレスリーも異存がないので頷くとそうしようということになった。


 翌日は再び海岸沿いの街道を北に向かっていく。村があるとそこで泊まり、街道では途中でレスリーが何度か立ち止まっては草原の草や海岸の石などを見ては頷いて、そうして進んでいった3日後にとりあえず目的地にしている漁村に着いた。ここから北にはもう村はしばらくはない。


「戦闘もなくて付き合ってもらって悪かったな」


 宿に入って1階で全員で夕食を取りながらレスリーが皆に謝るが、


「全然平気さ。帰りは間違いなく戦闘があるだろうし、それよりもどうだった?この街道は?」


 リックが逆に聞いてくる。


「できるだけ自然を残して道を作ってあるから問題ないね」


「やっぱり人間が無理やりに作ったりしたらダメだってこと?」


 アイリーンが聞いてくる。


「必ずしも全部がダメじゃないと思うんだ。なんと言うかまだ感覚でしかわからないんだけど、自然界の中にある草木や岩、砂もそうだけど、それらの中に絶対に動かしてはダメというのがあってそれをどうかするとそれが災いのもとになる感じ。だからそれさえ手を出さない様にしておけば大きな災いにはならないと思う」


「その動かしてはダメというのはレスリーには見えてるの?」


 レスリーは聞いてきたマリアの方に顔を向けると、


「見えてるというか感じるんだけど、でもこっちのスキルがまだ上がってないから見落としているのがあると思う。だから気になるのを見つけると立ち止まってじっくりと調べているのさ」


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