第6話

「俺をパーティに?」


 予想もしなかった話にびっくりするレスリー。そして


「知ってると思うが風水術士ってのはソロであちこちの山や森を探索するジョブだ。ダンジョンにもぐったり護衛クエストをこなして稼ぐ普通の冒険者とは立ち位置が違う」


 こいつらは風水術士が他の冒険者とは違った立ち位置にあることを知らないのかと説明をするが、


「もちろん知っている。その上で頼んでいるんだ」


 リックが言うとその後をマイヤーが続けて、


「俺達もレスリーが今言った様なことを過去してきたよ。護衛クエストをしたり時にはダンジョンに挑戦したり。でもランクAになってからはもうしてないんだよ。ランクは上がった。これからは自分たちのペースでこの国中を巡って見ようってね。あの森で会った時もダンジョンじゃなくて地上にいるランクAの魔獣を探して森の中を探索していたのさ。そういう意味では今俺たちが目指している方向性とレスリーの風水術士としての活動が丁度上手い具合に重なっているとは思わないかい?」


「なるほど」


 聞いていてレスリーは目の前にいる4人がいわゆる普通の冒険者じゃないことに気がついた。いわゆるガツガツしていないのだ。それと普通の冒険者と目的地が違うことにも気がついた。普通の冒険者はランクを上げて金を稼ぎ、あわよくば名声を得るというのを目標にしているがこの4人は名声や金銭目的じゃない様だ。


「わかった。でも今でも4人でうまく回ってるんだろう?どうしてここでもう一人追加するんだ?」


 その言葉を聞いた4人は顔を合わせる。そうしてリックがレスリーに顔を向けると、


「ここからの話しは他言無用でお願いしたい。レスリーの性格は森の中でずっと一緒に行動してわかってるつもりだ。無闇に他人にベラベラと喋る性格じゃないってことは」


 その言葉に頷くレスリー。確かにどちらかといえば自分は無口な方だ。レスリーが頷くとリックはマイヤーを見て頼むと言う。言われたマイヤーがレスリーを見て、


「まず俺達4人は王都学院の卒業生、同級生なんだ。年齢は22歳。レスリーと同じくらいじゃないか?」


「ああ、俺と同じだな。それにしても聞いている話だと王都学院ってこの国で一番の学校じゃないの。学生も王家や貴族が多いって聞いてるけど?」


「その通りだよ。そしてこのリックは王家出身、リムリック王国の第一王子だ。次期国王陛下だな」


「なんとまぁ」

 

 あまりにびっくりしてそれしか言葉に出ない。言われてみれば第一印象から少し雰囲気が違っていたなと思い出して


「俺ずっとタメ口で話してたけどいいのか?」


「全然問題ないよ。今は冒険者だからな。こっちだって王家や貴族の言葉使いしてないだろう?」


 確かにとは思うが想像以上に偉い男だったんだなとリックを見て


「わかった。それでリックか。リムリックとは言えないよな。そして宿じゃなくて一軒家を借りて住んでるのも理解した」


「借りているっていうかここはこの僧侶のマリアの親が持ってる家の1つなんだけどね。そういうマリアはこの国の大貴族の娘でこのリックの許嫁だよ」


 マイヤーの説明にさらに驚くレスリー。言われてマリアを見ると今まで黙っててごめんねと言いながらもこの成り行きを楽しんで見ている様に見える。


「ただし俺とアイリーンは王家でも貴族でもないぞ。王都学院でこの4人は仲が良くてさ、今の国王陛下、リックの父親だな、その陛下が息子が国王になる前にこの国を見て回ってこいってリックに言ってさ、見て回るなら冒険者がいいだろうってことで学院時代から仲が良かった4人でパーティを組んでこうして活動しているって訳だ。そしてこのことはもちろん関係者以外秘密になっている」


「なるほど、背景はわかった。それで振り出しに戻るが俺がパーティに入るっていう理由は?4人が仲がいいならそのまま4人で国中を回って来たらいいんじゃないの?」


 レスリーがそう言うと、リックが口を開く。


「自分で言うのも何だけど、俺はいずれは王都に戻って国王にならなければならない。これは避けられない。そしてその時には自分の周囲には自分をサポートしてくれるブレインを集めなければならない。マイヤーは既にOKしてくれているけどね。俺達が冒険者になって国中を回る目的の1つがそういうブレインを探すことでもあるんだよ。そんな時に森の中でレスリーを見かけたんだよな。自然を大切にして自然と共生しているジョブ。川の水を綺麗にしたり、水害や災害を事前に防止することができるジョブ。国を平安に治めるには必須のブレインだと思ったんだよ」


 一軒家のリビングは静かで、説明をするマイヤーとリック、そしてそれに答えるレスリー以外の声はしない。マリアとアイリーンは今の所黙ってやりとりを聞いている。


 じっと話を聞いていたレスリーは顔を上げてリックを見ると


「風水術士をそこまで買ってもらって嬉しい気持ちだ。ただ、俺もまだこのジョブを完全に理解したとはいえない立場でね。そんな状態だが構わないのか?ブレインとして期待しているっていうけど期待に応えられないかもしれないぜ?」


 リックはブレインのことはとりあえず気にしてくれなくてもいい、まずは風水術士としてそのスキルを高めてくれと言い、そのリックの言葉に頷く4人。


「それと、俺は師と仰いでいる大木との約束で国内のあちこちの森や山を見て回らないといけない。街に寄らずに森の中で野営をしながらの探索が多くなる。そちらにいる女性二人にとっては大きな負担になるんじゃないの?」


 その言葉にはマリアが


「こうして国中を自由に動き回れるのって後数年。その後は外に出たくてもなかなか出られない様になるのはわかってるの。だったら普通の人が経験しない様なことを今のうちにいっぱいしてみたいと思ってるの。アイリーンとも話しをしたんだけど森の中で野営をしながら探索するって結構楽しいよねって。だから私たち二人は平気よ。そこは気にしないで」


「そうそう、街なんてたまに顔を出すくらいでちょうどいいわ。それよりも普通なら経験できないことをいっぱい経験してみたいって気持ちの方がずっと強いわね」


 マリアの言葉に続いてアイリーンも言う。


「そこまで言ってくれるのならこっちに断る理由はないな。魔法袋代の一部も立て替えてもらっているし」


 そう言うと立ち上がって手を出すレスリー


「こっちこそよろしく頼むよ」


 手を握り返してきたリック。


 そうしてレスリーはこれから先、リックのパーティの一員として活動することになった。


 その後のやりとりで、リックが王子であることは口外しないこと。口調は今まで通りで良いこと、それらを決めるとレスリーは宿を引き払って一軒家に引っ越してきた。


 マイヤーが代表してギルドを訪問しギルマスのオリーブにレスリーが新メンバーとして正式に加入したと報告すると、


「わかったわ。ギルドには通達をしておくわ。それにしてもいい人材が見つかってよかったわね。レスリーは性格も良さそうだし、リックのブレインになる資格は十分にあるわね」


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