第4話

 レスリーと別れたリックのパーティは借りている一軒家で風呂に入って着替えをしてから1階のリビングに集まってきた。


「それにしても世間は広いな。あれほどの逸材が隠れていたとは」


「全くだ。そして彼の自然を愛して大事にするという姿勢は本物だよ。だからの風水術士なんだろうけど」


「性格もいいわね。落ち着いているし。年は私たちと同じ位なんだろうけど雰囲気がなんかどっしりしている感じ」


「そうね。この街や私たちが知っている他の冒険者とは全く違う雰囲気を持ってるわね」


 リックが言うとそれに続いてマイヤー、アイリーン、マリアが続けて言う。


「将来リックの右腕の一人になるかも知れないな」


 リックはそう言ったマイヤーの方に顔を向けると、


「マイヤーもそう思ったか?実は俺もなんだよ。自然を愛して土地を大事にする。国を治める、領地を治める時には必須になりそうな人物だよな」


「私たちのパーティに入れるの?」


「マリアはどう思う?」


「う〜ん、リックが全てをオープンにするという条件付きね。騙してパーティにいれるのには反対よ」


「私もそれは反対。入れるのは賛成だけどきちんと私たちの事を説明して、納得してもらうのが条件」


 アイリーンもマリアの言葉に賛同する。


「もちろんだ。パーティに入って貰うとなればこちらの事情は包み隠さずに彼に話をするつもりだよ。万が一彼がパーティを断ったとしてもあの性格なら外でベラベラと喋ることはないだろうと思う」


「それに関しては同意だな」


 マリアとアイリーンもマイヤーの言葉にそうねと頷く。森で会ってそれから10日間以上も野営をしながら朝から晩まで行動を共にすればその人となり、性格は見えてくるものだ。


「おっけー。じゃあ今度彼に会ったら俺から話をしてみよう。その前にギルドに行こう」


 その言葉をきっかけに全員が立ち上がって家からギルドに出向いていった。そうしてギルドに入って知り合いに挨拶をしてから受付嬢に魔石の換金を頼むと受付嬢からギルマスが待っているので面会して欲しいと言われて魔石をカウンターに預けたまま奥のギルマスの部屋に入っていった4人。


「忙しいところ悪いわね」


「大丈夫だ。それより話があるって?」


 ソファに座った4人を見るギルマスのオリーブ。目の前に座っているリーダーのリックが顔を向けてきたその視線を受け止めると


「さっきまでここに風水術士のレスリーがいたの」


 その言葉で納得した顔になるメンバー。リックの隣に座っていたマイヤーが


「風水術士の戦闘方法というか彼について知りたいのかな?」


「その通りよ。当人から説明を受けたけど簡単には信じられない話だったから。そしたら貴方達のパーティが一部始終を見ていたって話を聞いてね」


 オリーブは今でこそ普通の口調で目の前にいる連中と話しができているがそれまでは緊張してなかなか普通の言葉で話しができなかった。


 目の前に座っているリックは現国王の息子、第一王子なのだ。時期国王となるべき人物が目の前に座って冒険者をしている。そして僧侶の女性はこの国でも有数の大貴族の娘で王子の許嫁だ。


 3年ほど前にリムリック王家から非公式にギルドに連絡があり、第一王子とその許嫁、そして学院時代の学友の4人が冒険者として国中を動き回るから了解してもらいたいという連絡がギルドに入ってきた時にびっくりしたのはギルド幹部連中だった。


 将来国を治めるべき人物はその治める国の様子や民の暮らし具合を直接自分の目で見ておく必要があるという現国王の指示でリムリック王子はリックという仮名で冒険者登録をした。そしてその時に固定メンバーとして許嫁のマリア、学友で特に中のよかったマイヤーとアイリーンに打診をし当人達の快諾を得てパーティを結成したのだ。


 このことは各都市のギルドマスターには最高度の秘密案件として通知が出ている。そして彼らは王都では顔見知りがいるということで活動の拠点をまずはこの港町のアイマスとするとの連絡が来た。


 そうしてアイマスにやってきた一行。ここでクエストをこなしながら冒険者として活動を開始したのだが、その実力はギルドが想定していた以上で次々とランクを上げていき、今ではランクAのパーティとしてこの街でも知らない者がいない位の実力を持ったパーティになっている

 

 若い頃からしっかりと武術を鍛えられてきたリック、学院の剣術では常に彼と1位、2位を争っていたアイリーン、そして精霊魔法では常に圧倒的な1位を守ってきたマイヤー、幼少の頃から魔法を習い強化、回復、そして治癒魔法の第一人者となったマリア。


 目の前の4人はこの街、この国でも上位に位置する冒険者になっていた。最初はどういう態度で接すれば良いのか戸惑っていたギルマスのオリーブだがリックや他のメンバーの開けっ広げな性格に感化されたのか今では普通の口調でやりとりができる関係性になっている。もちろんリックや他のメンバーもそんなギルマスの態度に対してなんら不満はない。常日頃から特別扱いをしてくれるなとお願いしている程だ。


 ギルマスの話を聞いて少しの間を置いてから俺が説明しようとマイヤーが口を開いて沼での戦闘から話し始めた。マイヤーは精霊士としてはもちろん優秀だが物事を整理したり言いたいことを簡潔にまとめて要点を説明する能力にも長けている。地頭が良いというのが周囲の評価だ。


 今もまさにその地頭の良さを生かしてポイントをうまく纏めてギルマスに説明していく。マイヤーの説明を黙って聞いていたオリーブ。


「レスリーの話しを聞いた時は正直信じられないって部分の方が多かったんだけど今の話を聞いていると彼が話をした内容と全く同じね」

 

 そう言ってからそれにしても凄いわねと続ける。


「全くその通りだよ。正直俺達も見たものが信じられない位だった。ただその後彼と10日間ともに動いている最中にもあの風水術の凄さは何度も目にした。あれは間違いなく本物だ。しかも相当スキルが高い」


 リックの言葉に頷く他のメンバー達。


「彼が凄いのは戦闘に関わる能力だけじゃないの。自然を愛してやまない、自然を大切にするといいう気持ちは私たちと一緒にいる間いつも出ていたわ。森の中で大木に蔦が絡まっているとその蔦を丁寧に切り落としたり、川や池を見つけるとその水を掬って水質を見て安心したり。本当に自然が好きで大事にしてるって気持ちが周囲にも伝わってくるの。性格も全く問題ないわね」


 アイリーンが話をするとその通りだなと同意するメンバー。


「実はラウダーの街のギルマスからレスリーの件でギルド中に通達というか報告がでてるのよ。その中にも書いてあるの。森の中にいたトレントが原因で川の水が汚染されていたのを一人で3体のトレントを退治して川を浄化しているとか、小さな村のクエストで畑を荒らす狼を退治してから村の畑の土壌を改良したとかね」


 ギルマスの言葉を聞いていたメンバーは彼なら十分にあり得る話だよと言う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る