第3話
そうしてそれからも森の中を探索しながら進んで10日目の昼過ぎに、一行は港町アイマスに着いた。デビルフロッグを倒した後は森の中の様子におかしいところはなく。レスリーは蔦の絡んだ木を綺麗にしたり、川を見つけては水質を確認したりしながら森の中を歩いていき、最後に街道に出てアイマスの城門を潜る。全員が市内に入ったところでリーダーのリックが、
「お疲れさん。しばらくこの街を中心に探索を続けるんだろう?」
「そうなる。そっちは?」
「俺達もしばらくはこの街で活動する予定だ」
「じゃあまたどこかで会えるな。世話になった、ありがとう」
そう言うとレスリーは他の3人にも礼を言うと一人で先にギルドに入っていく。その後ろ姿を見ながら
「俺たちも部屋に戻って着替えたらギルドに行こうか」
そうしてリックらのパーティは市内にある自分達が借りている一軒家に向かっていった。
ギルドに入ったレスリーは真っ直ぐにカウンターに向かうとそこにいた受付嬢に
「ラウダーからやってきたんだけど、この街での宿を教えて欲しい。それとこの魔石を換金してくれるかな」
そう言ってギルドカードと魔石をリュックから取り出してカウンターの上に置くとそれを見た受付嬢の顔色が変わり、
「これってランクSの魔獣の魔石ですよね?」
その声が意外と大きくてギルドに併設している酒場にいた冒険者の耳にも届いた。
「ランクSを倒してきただと?」
「あいつ、ソロっぽいな」
「というか何のジョブなんだ?」
そう言う声が酒場から聞こえてくる。
「ここに来る途中にある沼にいたデビルフロッグという魔獣らしい。ランクSってのは後で教えてもらったんだけどな」
酒場からの声を無視して淡々と受付嬢と話をするレスリー。話を聞いた受付嬢は一旦奥に引っ込むとすぐに戻ってきて
「この街のギルドマスターがお会いになりたいとのことですのでこちらにどうぞ」
そう言って案内されるままにギルドの奥の部屋に入っていくと、そこはギルマスの執務室だったらしく机に座って書類を見ていた一人の女性が机から立ち上がって近づいてきた。彼女の手にはレスリーのギルドカードを持っている。
「初めまして。ランクAのレスリーね。私はこの街でギルドマスターをしているオリーブ。よろしく」
「一応王都所属になっている風水術士のレスリー。よろしく」
握手をして執務室の中にあるソファに向かい合って座る。ギルマスのオリーブはもう一度ギルドカードを見てからそのカードをレスリーに返し、
「ギルドの報告書の中に最近風水術士のジョブを取得した者がいるって書いてあったの。貴方のことね」
「他に風水術士には会っていないけどおそらくそうだろう」
レスリーの言葉に頷くギルマス。そして
「魔石を見たわ。デビルフロッグの魔石で間違いない。よかったらどうやって倒したのか教えてもらえるかしら?」
レスリーは聞かれるままに自分がこのデビルフロッグを倒した時の状況を説明する。聞いているオリーブは初めて見る風水術士の戦術を聞いてびっくりする。聞き終えると
「信じられないわね。いえ、貴方が嘘をついているとか言うのではないの。知ってると思うけど風水術士はもう何十年も存在していないジョブだったのよ。その戦法やスキルについて詳しく書かれている文献もほとんどないし」
なるほどと頷いてから
「風水術士は自然と共生するジョブの性格上普段から街よりも外にいることが多い。それとソロで活動するのがほとんどだろう。だから資料がないんじゃないかな」
レスリーの言葉にきっとその通りねと同意するギルマス。そうして聞かれるままに風水術士を選んだ理由を説明する。その話を聞いて再びびっくりするギルマス。木と話が出来るなんてひょっとしたら森のエルフ以上のスキルじゃない?と内心思っていた。
ギルマスが黙っているとレスリーがおもむろにそうだと言ってギルマスを見て、
「たまたま俺がこのデビルフロッグを倒した時に、この街で活動している冒険者パーティの連中が俺の戦闘の一部始終を見ていた。そして彼らと一緒にこの街にやってきたんだけどな。なんなら後で彼らからも聞いてみたら?」
そう言ってリックらのパーティの名前を出すと一瞬表情を変えたギルマス。すぐにいつもの表情に戻ると
「ランクAのリックのパーティが見ていたのね。じゃあ後で聞いてみることにするわ。いずれにしてもこの魔石や他のランクAやBの魔石についてはギルドの買い取りということでいいわね?」
レスリーは頷きそしておすすめの宿をギルマスから聞くとソファから立ち上がり、
「しばらくこの街で活動することになると思う。もっとも周辺の森や林の中をウロウロするので毎日街には戻ってこないかもしれないが、よろしく頼む」
そう言ってギルマスの部屋を出ると受付で魔石の代金をもらい、ギルドの酒場にいた冒険者達の視線を浴びながらもそのまま外に出てギルドが勧めた宿屋に向かっていった。
レスリーが自分の執務室を出ていくとオリーブは机に戻ってその机の上に置いてある書類を手に取って見る。その書類のヘッドの部分には
=最近現れた風水術師の実力について=
と書かれていた。
「今の話を聞くと、風水術士のレスリーの実力はこのレポート以上だわ。それともまたスキルアップして進化したのかしら。性格も良さそうだし。いずれにしても要チェックな人物ね」
そうしてもう一度最初からレポートを読み始めた。
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