出会い

第1話

「何をしているのかしら」


 そう呟いて一歩前にでようとした戦士の女性の肩に手を置いて止める男。


「待て。少し見てみよう」


 振り返るとナイトの男が肩に手を置いたまま前方を見ている。彼らが立っている場所から木々の間を通して見えるその視線の先には沼の淵に立ってじっと沼の中央を見ている緑のローブ姿の男が。


「あの男のジョブが分からない」


 精霊士の男が呟くと、その隣にいる僧侶のローブを着ている女性が


「確かに。ただ雰囲気はあるわね。きっと私たちと同じランクAクラスの人よ」


 視線をその男に向けたまま僧侶の言葉に頷く他の3人。彼ら4人は港町アイマスからやってきたランクAのパーティだ。この森で野営をしながらランクAの魔獣を討伐しているその最中に沼の畔に立っている一人の男の冒険者を見つけたのだ。


 すると見ている4人の目の前で信じられないことが起こった。沼の縁に立っていた男が杖を前に突き出すと沼の周辺にある倒木や木の枝が浮き上がり男の周りで浮いたまま集まってきたのだ。


 驚愕で声もでない4人。食い入る様に見ていると男が再び杖を前に突き出す。すると男の前、沼の水面の上に3メートルはあろうかという竜巻が次から次へと生まれてきて全部で5つもの竜巻が浮かび上がった。


 そして次の瞬間浮いていた1本の木の枝がものすごい勢いで沼の中央に向かって飛んでいくと、それを弾き飛ばす様に沼から触手の様な物が伸びて出てきた。


 それをきっかけに緑のローブの男と沼の中にいる魔獣との戦闘が始まった。沼から現れた魔獣はカエルの様な形をしているが表面はどろどろとしていて異臭を放ちながら沼の中央から男の方に向かってくる。


「デビルフロッグ」


 声を出したのは精霊士。そして続けて


「ランクSの魔獣だ」


 デビルフロッグと呼ばれている大型のカエルの姿をした魔獣は上半身を水面から出しながら沼の縁に立っているに向かってくる。そこに大量の倒木、木の枝がものすごいスピードで飛んでいき、同時に5つの竜巻が魔獣に襲いかかっていった。


 さらにその後から無数の風の刃が男が杖を突き出すたびに生まれては魔獣の身体を切り刻んでいく。


「…すごい」


「ああ。半端ない戦闘力だ。それにあれは何だ?魔法じゃないみたいだが」


 戦士の女とナイトの男が話をしている背後から、


「まさかとは思ったが、いたのか…」


「どういうことだ?」


 前を見たままでつぶやいた精霊士に聞いてくるナイトの男。


「ああ、あれは恐らく風水術だ。もう何十年もそのジョブを選択した冒険者はいないと言われていた風水術士が目の前にいたとは」


「風水術?」


「その話は後よ、ほらっもうすぐ倒すわよ」


 僧侶の言葉で再び前を見ると4人の目の前で風の刃と竜巻、そして次から次に襲いかかる木の枝や倒木でデビルフロッグと言われた魔獣は瀕死の状態になっていた。そして最後に今までよりも大きな竜巻が魔獣を包むとそのまま空に持ち上げると上空から沼の縁に叩き落とした。デビルフロッグは体全体を痙攣させるとぐったりとしてそのまま絶命する。


 言葉を出すこともできずに見てる4人の前で緑のローブを着ている男は魔獣から魔石を取り出すと杖を突き出す。すると地面が5メートルほど凹んで大きな穴ができそこに魔獣を放り込むと再び杖を突き出して土で魔獣を埋める。


 そうしてから沼の縁に立って杖を水面に突き出す、するとみるみるうちに瘴気があふれていた沼の水が透明で綺麗な水に変わっていった。


「これでよし」

 

 全てを終えて満足げな声を出したレスリーの背後から足音が近づいてきた。その足音や近づいてくる雰囲気に全く殺気が無いのを感じ取ってレスリーがゆっくりと身体を音のする方に向けると木々の間から4人の冒険者が近づいてきた。男性二人、女性二人だ。


「見させてもらっていたが見事なものだ」


 先頭を歩いているナイトの男が声をかけてくる。


「沼が泣いていたからな」


「泣いていた?」


「ああ。助けを呼ぶ泣き声が聞こえた」


「なるほど。それにしてもランクSのデビルフロッグをソロで倒すとはな」


「ランクSだったのか。まぁ地上にいれば色々と使えるものがあるからな」


 ナイトの男とレスリーとのやりとりが続いたあと、


「挨拶が遅れた。俺はリック。このパーティのリーダーをしている。ジョブはご覧の通りナイトだ。そしてここにいるのがパーティメンバーだ。全員がランクAだよ」


 そう言ってリックという男が自分たちのメンバーを紹介していく。戦士の女性はアイリーン、もう一人の僧侶の女性はマリア。そして精霊士の男性はマイヤーだと。


「俺はレスリー。風水術士。ランクAになったばかりだよ」


 レスリーは相手の自己紹介を聞きながら4人を見ていた。リーダーのリックという男は口調はフランクだが仕草に洗練されたものがある。また僧侶のマリアの仕草もしかりだ。二人ともお金持ちの貴族の家の出みたいだ。戦士のアイリーンとマイヤーは二人程ではないがそれでも粗野な感じは全くしない。


「それにしてもいたんだな、風水術士。今や文献だけに存在するジョブだと思ってたよ」


 そう言ったのは精霊士のマイヤーだ。


「王都でジョブを取得した時も同じことを言われたよ」


 4人とレスリーの5人は沼の縁で倒れている倒木に座って話をする。レスリーが杖を突き出すと風の渦巻きが6つ現れてそれが座っている5人の周囲に飛んでいった。


 飛んでいく渦巻きを見ていたアイリーン


「これって魔法じゃないんでしょ?」


「違うね。風水術士は自然にある力、精気というんだがそれを借りて戦闘や補助をするジョブだから魔法じゃないよ。今飛ばしたのは風から作った渦巻きで周囲に飛ばして気配感知をさせている」


 それからはどうして風水術士を選んだんだ?という質問がきたので今までと同じ様な話をするレスリー。


「木と話しができるなんて凄いわね」


 レスリーの話を聞いていた僧侶のマリアが感心して言うと、その後を精霊士のマイヤーが続けて


「それにしても想像以上の攻撃力だな。まさかランクSをソロで倒せるとは」


「それだよな。自然の力を利用するとあそこまで攻撃力が上がるなんてびっくりしたよ」


 リーダーであるナイトのリックがマイヤーの言葉に同意する。黙っていると


「ところでレスリーはどこに向かうんだい?俺達は港町のアイマスから来たんだが」


「そのアイマスに向かう途中だよ。急ぐ旅でもないからこうして森の中を移動しながらだけど」


 リックに返事をすると、


「じゃあ一緒に行かないか?」


 とリックが誘ってきた。他の3人のメンバーもそうしなよと勧めてくる。


「俺はいいけど。ただ森の中をゆっくりと探索しながら進むから時間はかかるんだけど」


「全然構わない。こっちも期限を決めてアイマスに戻る必要はないし、それに俺たちも森の中のランクAを倒しにここに来てるからな。時間がかかるのはOKだよ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る