第8話

 そうして地上に戻っていったレスリーとレオポルトのパーティ、ラウダーの街にもどるとそのまま市内のレストランに移動して夕食を取ることにする。


 メンバーがそれぞれ料理を決めてオーダーをすると、


「さっき風は使えるとか言ってたけどどう言うことなの?」


 僧侶のミユが早速聞いてきた。


「ああ、ダンジョンは作り物って聞いていたから風水術は全く使えないのかもしれないと思っていたんだよ。だけど風だけは地上から取り入れているみたいでさ。風だけでも使えればそれなりに動けるなと思って」


「それなりって具体的に何を考えてるんだい?」


 ナイトのケルビンの言葉にそうそうそれなりって何なのよと聞いてくる他のメンバー達。レスリーは彼らの顔を見ると目の前で小さな渦巻きを作り出す。いきなり空中に現れた渦巻きを見てびっくりするメンバー。


「たとえばこれをいくつか作って、ダンジョンの中に飛ばして魔物の気配を探れる。それだけで戦闘が楽になるだろう?」


「確かに。それが斥候の役目をするんだな」


 個室の四隅に飛んでいってそこでじっとしている渦巻きを見ながら納得するレオポルト。リンドは渦巻きを消すと視線をレオポルトに向けて、


「そしてもちろん風切りの刃として攻撃もできるし竜巻をぶつけてもいい。あとは地上から水を持っていっておけば癒しの水にして回復や治癒に使える。とにかく全くの足手纏いにならないってわかっただけでも収穫だよ」


 そういうとコップの水を手のひらに落として”癒しの水”と唱えると水が霧状になってメンバーの体に降り注ぐ。


「何?身体が楽になってるんだけど?」


「本当だな。それに汗が引いている」


 ミユとケルビンがびっくりしながら自分の身体を触ったり軽く叩いたりしている。


「癒しの水と言って浄化と回復の作用がある。これも有効だろう?」


 その言葉に頷くレオポルト達メンバー。


「今のレスリーの話や癒しの水の効果を見てると、ダンジョンの中だと後衛寄りの仕事に活路を見出させそうね」


 精霊士のスージーそうなるなと頷く。そして


「もともと近接戦には向いてないジョブだからな。そして今日実際にダンジョンに潜ってみると予想通りだったけど、やっぱりこのジョブは地上のフィールドで活きるジョブだということが確認できたよ。それだけでもダンジョンに潜った甲斐があった。今日はありがとう」


 レスリーはぼかして話をしたが実際にはダンジョンでもそれなりに通用するなという感触を得ていた。風だけとはいえ竜巻、風の刃を大量に作ることができるレスリーにとってはダンジョンもそれほど大きな問題はないだろうと。ただ比較した場合にはやはり地上にいる方が風水術の選択肢が増えるということだ。


 元々風水術士は自然の力を借りることによって力を得るジョブだ。作り物のダンジョンではその真価は発揮できない。ダンジョンに入る前は中では全く無力になるかもしれないと思っていたのでその中で風の力を借りることができるとわかったのは彼にとっては大きな収穫だった。



 そうしてダンジョンに潜った数日後、レスリーはレオポルトらにこれから西の港町アイマスに向かうといい彼らに別れを告げるとラウダーの街を出て街道を西に向かって歩きだした。


 街から近い街道沿いの両側にある森は既に探索済みだったのでとりあえずは広い街道を西に向かって進んでいく。港町のアイマスと交通の要所の街ラウダーとを結ぶこの街道は人や物の動きが活発で途切れることなく人々が移動している。レスリーは急ぐ旅でもないので周囲の景色を見ながらのんびりと街道を歩き、途中街道沿いの村や小さな街で夜を過ごしつつ進んでいった5日目、街道の右手、北側に草原の先に森が見えてきた。この辺りでちょうどラウダーとアイマスとの中間あたりだ。


 レスリーは街道から外れて草原に入るとそのままその森を目指していく。近づいていくと森が結構深いのがわかり森に入る前にいくつか小さな渦巻きを作るとそれを前後左右に飛ばして気配を探りながら中に入っていった。


 そして森に入ると魔獣の気配を探りながら探索をしつつ森の奥に進んでいくレスリー。途中で見つけた池や沼ではその都度立ち止まってその水を見て状態をチェックしていく。


「このあたりは人の手が入っていないな。自然のままだ。これなら大丈夫だろう」


 生えている木々の様子を見、地面にしゃがみ込んで土の状態を見る。川があれば近づいて水質を見ながらと急ぐ旅でもなくのんびり森の中を探索していった。


 途中でランクBやランクAの魔獣を見つけると風水術で倒していき、夜は大きな岩や大木の根元で野営をしながら森の中を進んでいった4日目の昼頃、レスリーは森の中にある大きな沼の淵に立っていた。そして今までには無い厳しい視線を水面に注いでいる。


 レスリーの視線の先にあるその沼は今まで見てきた沼よりはずっと大きいが沼全体に水面から瘴気が漂っていてそして沼の周囲に生えていたであろう木々は今は全て枯れている。


「これは酷いな…そして沼の中央あたりに何かがいる…」


 視線を沼の中央に向けてじっと見つめているとレスリーの脳内に泣き声の様な声が聞こえてきた。沼の水が泣いている。綺麗な水を穢されて何とかして欲しいと泣いている声だ。


 沼の中の何かもこちらに気づいているらしく、じっと様子を伺っているのが感じ取れる。どうやって沼の縁に立っている人間を倒してやろうかと沼の中からじっとこちらに敵意を送ってくる。


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