第7話
レスリーはカードを受け取るとそのまま部屋に戻ろうとしたが酒場から声がかかったのでそちらに顔を向けると知り合いの顔が見えたので旅館に戻らずに酒場に足を向ける。
彼らはレスリーのランクA昇格の話を聞いて喜ぶと同時に当然だなという声も多かった。
レスリーが最近の街の郊外での探索の話をすると、
「なるほど。それにしてもソロで森の奥に入って行ってランクAを倒しながら探索をするなんてレスリーくらいだろう?」
ギルドの酒場でレオポルトのパーティ相手に飲んでいるレスリー。レスリーが座ったテーブルにはレオポルト、ケルビンの他に精霊士のスージー、僧侶のミユというパーティメンバーが揃っていた。彼らはこのラウダーの街でもトップクラスの冒険者達だ。
「ジョブとしては近接には弱いからな。近づく前に倒す様にしてる。それと森の中は俺にとっては使える”武器”が多い」
「いかにも風水術士というところだな」
ケルビンの言葉に頷く。そうしてしばらく夕刻のギルドの酒場で酒を飲みながら雑談をしているとおもむろにレスリーが。
「幸にしてランクAにも昇格できたし、そろそろこの街を出て次の街に行こうかと思ってる」
「次はどこに行くつもりなの?」
薄めの酒の入っているグラスをテーブルに置いてスージーが聞いてきた。ケルビンも顔を上げてレスリーをじっと見る。
「港町のアイマスにしようと。街道の左右の森を探索しながら進むつもりだ」
「もともと国中を廻るって言ってたよな」
レオポルトの言葉に頷く。
「すぐに出るのか?」
聞いてきたケルビンに顔を向けると、
「いや、3、4日してからかな。一度ダンジョンに行こうかと思って」
「ダンジョンに?」
「ああ。まだ潜ったことがないからな。風水術が効果があるかどうか確認したい」
「なるほど」
ダンジョンは自然ではなく、地下に作られた人工物だ。その発生の原因はまだわかっていないが中には洞窟や森などが存在している。
「レスリーはどうなると思ってるんだ?」
「恐らくダンジョンの中の物は人工物だろうから風水術は使えないだろう。利用できるのは風くらいじゃないかと思ってる。まぁそれを実際に確認したいんだけどさ」
聞いてきたレオポルトに答えると
「じゃあ明日でも俺達と一緒に潜らないか?」
「それはありがたい申し出だな。でもいいのか?風水術が使えなかったらただの足手纏いになるんだけど?」
「知ってるさ。ただ下層でも森があるダンジョンがある。そこで風水術が使えるかどうか確かめたらいいじゃないか」
「それいいじゃないの、付き合うわよ」
僧侶のミユも即答だ。
「皆レスリーの風水術がダンジョンでどうなるのか見てみたいと思っているのさ」
レオポルトの言葉にケルビンはじめ他のメンバーもそりゃ面白そうだと乗り気になって、そして4人で低層で森があるのならあそこかと話をして
「5層で森が出てくるダンジョンがある。そこにいる魔物はせいぜいランクBクラスだ。そこなら安全に検証できるな」
確かにレスリーはダンジョンに潜った経験がなく、ダンジョンごとにある難易度についてもほとんど知識を持っていない。目の前に座っている二人の様に日頃からダンジョンをアタックしている冒険者が同行してくれるのであればリスクは大きく低減できる。
「ありがたい話しなんだが、本当にいいのか?」
「問題ないな」
「たまには趣向を変えるのも気分転換になるわよね」
そして翌日朝、レスリーが待ち合わせ場所になっている城門に行くとほぼ同時にレオポルトのパーティメンバーがやってきた。レスリーはいつもの緑のローブに杖、腰には片手剣という格好だ。レオポルトのパーティは完全に戦闘仕様できている。
「今日は宜しく頼む」
「こっちこそ。じゃあ早速行こうか」
レオポルトらランクAパーティの後ろについて城門を出ると南に向かう。レスリーは最後尾から彼らの後についていった。
そうして街を出て4時間程たった頃街道から外れた場所にあるダンジョンの入り口についた一行。入り口でレオポルトがレスリーを見て
「ここだ。今日はレスリーがメインだからダンジョンに入ったら先頭で進んでくれ。中で好きにしてくれていい。進軍のスピードとか気にしなくてもいいぜ」
「わかった。助かる。ところでみんなはこのダンジョンはどこまで攻略しているんだい?」
レスリーが聞くと
「20層まで攻略してる。18層からランクAが出てくるんだよ。20層でランクAが2体同時に出てくるのでそれを相手に金策とスキル上げをしてるんだ。ダンジョン自体はまだクリアされてない。俺達が最深部にまで潜ってるパーティなのさ」
リーダーのレオポルトの言葉になるほどと頷くレスリー。
入り口から中に入るとそこは床から壁、そして天井までが石垣を積んでできているフロアだった。中は通路になっている。
「これがダンジョンの中か」
思わず声を出したレスリーに、
「いろんなフロアがあるぜ。こういう四角い石を積み上げたフロアや洞窟の中の様なフロア、もちろん森のフロアもあるし。なんでもありだな」
ダンジョンに入って後ろに移動したパーティのナイトのケルビンが説明してくれる。
レスリーはとりあえず杖を前に軽く突き出すと5メートルほど先に身長くらいの高さの竜巻が出てきた。おおっと声をあげるパーティメンバー。
「風は中でも使えるな」
そうして竜巻を前にして通路を進んでいく。途中で出会うのはランクCのゴブリンだが彼らに竜巻をぶつけるとあっという間に吹き飛んで壁に体を叩きつけられて倒されていく。
「ゴブリン相手とはいえ威力が半端ないな」
レスリーの後ろについて歩いていくパーティのケルビンが言うと頷く他の3人。
ゴブリンだけの1階を抜けて2階に降りるとそこも同じ様な作りだった。風を利用して敵を倒しながら進んでいき、3階に降りるとそこはは洞窟のフロアだ。3階に降りてすぐに杖を前に出したレスリー。
「風以外は何も感じないな。やはり人工物だ」
「どう見ても自然にできている様に見えるけど、これって人工物なの?」
精霊士のスージーが思わず声を出す。振り返って
「自然にできた物じゃないね。杖も反応しないし俺自身何も感じないよ」
ある程度予想していたとは言え目の前にある洞窟が人工物とはとても信じられないメンバー達。
「5層の森までこのまま進みながら検証させてくれ」
「ああ。好きにやってくれて構わない」
そうしてレスリーを先頭に一向は奥に進んでいく。レスリーは歩きながらダンジョンの中の様子をチェックしていた。確かに一見自然にできた様に見えるがそこには本当の自然界に存在している土や石の鼓動が全くない。
洞窟のフロアが3階、4階と続いて5階に降りるとそこは一面森だった。思わず立ち止まって目の前に広がっている風景を見るレスリー。
「こりゃ凄いな。想像以上だ」
「広いだろう。それに中には川もあるし太陽もある。じめじめとした感じがして本当に森の中にいる感じがするんだ」
確かに今までのフロアと違ってこのフロアは湿度が高い。フロアに一歩踏み出したレスリーは杖を前に差し出した。そして一言。
「これも人工物だ」
「木も土も川も全部?」
「ああ。残念ながら全てが造りものだよ」
ミユの言葉に答えるレスリー。そうしてしゃがみ込んで地面の土を掴むと
「この土、ダンジョンの外には持ち出せないな。おそらく消えてしまうだろう。木や水も同じだ。自然界に似せてはいるけど全然違う」
ダンジョンの地面にしゃがみ込んで手の平の中で掴んだ砂を見ているレスリー。
「となると風水術士にとってはダンジョンは鬼門ということになるな」
レオポルトはレスリーと同じ様に地面にしゃがみ込んで地面を見ながら言う。隣にしゃがみこんだレオポルトに顔を向けると、
「そうなるかな。風しか使えないからな」
そう言って間を置いてから
「でも逆にいうと風は使えるということにもなる」
禅問答の様なレスリーの独り言に他のメンバーは何を言っているだとばかりに顔を見合わせる。レスリーはしゃがんでいた姿勢から立ち上がると、
「ありがとう。参考になったよ」
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