第6話
ぐっすりと寝た翌日、杖を左手にもったレスリーは森の奥に入っていく。奥に進むと高い木々が増えて昼間でもうっそうとしている。
ランクAのオークがレスリーを見つけて襲いかかってきたがその前から気配に気付いていたレスリー杖を差し出すと近づいてくるオークの地面から土の槍が5本程飛び出して下からオークを串刺しにする。
「5本も要らなかったか」
即死したオークから魔石を取り出していると早速魔物の掃除屋であるスライムがどこからか集まってきた。あとはスライムに任せて立ちあがると奥に進んでいく。
1本の木が隣の大木に寄りかかっているのを見つけて近づいて見ると寄りかかっている木は根元から抜かれ、そのまま朽ちていた。寄りかかられている木の幹を叩いて
「重いだろう。楽にしてやるよ」
風の刃で朽ちている木を切り倒すとドスンと音を立てて地面に落ちる。
「これで楽になっただろう。長生きしろよ」
『我の仲間を助けてくれて礼を言う。ずっと寄りかかられて重かった様だ』
歩きかけていた足を止め、話しかけてきた木の方に向き直す。師と仰ぐ大木以来の出来事に一瞬びっくりするが、よく見ると話かけてくるのは寄りかかられていた木ではなくてその2本横にある大木からだった。
「そりゃよかった」
話しかけてきた大木に顔を向けて答える。
『人間と話すのも久しぶりだ。木と会話できる人間がまだおったとはな』
「それはこっちも同じさ。少なくとも俺の周りにはいない。だから一人であちこちを歩き回って森や川や草木が困っていないか見ているのさ、そして俺がこうして木と話をするのはあんたで2本目だ。この世界にもそれなりに人間と会話できる木があるんだな」
『人間の中に我々の言葉を理解する者が少ないと同様に、人間に話しかけられる我らの仲間も多くいない。とはいえ全くおらん訳でもない。見た感じ冒険者の様だな。あちこち歩いて見つけるがよかろう』
「わかった、そうしよう。そっちも長生きしてくれよ。他に困ったことはないかい?」
『お主が木を切ってくれたからの』
「ならよかった」
そう言うと再び森の奥の探索を続ける。ランクAの魔物には数度遭遇したものの危なげなく倒したレスリーは北西の森で2泊して森の中を探索してからラウダーの街に戻ってきた。
ギルドに顔を出して倒した魔石をカウンターの上に置くとびっくりする受付嬢。
「森に行くとは聞いていましたけど、そこでランクAを討伐してきたんですか?」
「そうだ。襲ってきたからな」
ランクBのソロの冒険者がランクAを倒すことは普通では有りえない。ギルドカードを受け取ってポイントをつけると
「結構ランクBやAを倒しているせいかもうすぐランクAへの昇格ポイントに達しますね」
その言葉を聞いたレスリーの顔が綻ぶ。
「ランクCからBはポイントだけだったが、BからAに上がるのはポイント以外に何か必要なのかい?」
「必要なポイントを貯めて、あとはギルマスの前で模擬戦をしてもらいます。相手はランクAの冒険者となります」
わかったと頷くレスリー。既にランクAは倒せているので昇格にそれほどのこだわりはないが、それでもランクが上がっているといろいろと便利なことがあるだろう。もっとも彼の目標はランクを上げることではないが。
ラウダーの街で2日ほど休養をとったレスリーは朝から西の街道を港町に向かって歩いていた。南西の森の探索だ。
街道の左右には草原が広がっていてその先に木々が生えている森が見える。北西の森を右手に見ながら街道を歩いていき、結局その日は街道沿いの村で一泊する。
翌日再び西に向かって歩いていると街道の左側、広い草原の先に大きな森が見えてきた。森の奥は山になっている。レスリーは街道から外れるとその森に向かって草原を歩いていく。
街道から外れて4時間程歩いて森に入ると雰囲気が一変した。この森にはランクCの気配はない。ランクBの気配が濃厚に漂っている。周囲に注意を払いながら森に生えている高い木や低木の状態を見ながらさらに奥に進んでいく。
途中で木に蔦が巻き付いているのを見ると片手剣で蔦を切り落とし、地面の様子を見ながら森の奥を歩き回る。
「特におかしな感じはないな」
そうして歩いている間にもランクAの魔物はレスリーを見かけると襲いかかってくる。時には2体、3体向かって来るが事前に感知しているので森の中の木枝や土を使って魔物がレスリーに近づく前に全て討伐していく。
「このジョブは近接には向いてないからな。どれだけ遠くで倒せるかだ」
森の奥を歩き回って適当な場所を見つける。背後に大きな岩がある崖になっている下を野営場所に決めるとそこにテントを張ってリュックから食事を取り出した。
周辺には小さな風の竜巻を多数飛ばして警戒しながら夜を過ごしたレスリー。翌朝起きると森の中を西の方向に向かって進んでいく。
森と言っても平坦ではなく起伏があるがその中を周囲の木々の様子を調べながら進み途中で違和感を覚えると立ち止まって確認していった。そのほとんどが魔物にやられたのか半分倒れかけて枯れかけている木だった。それを見つける度にそれらの木を地面に倒していく。こうするといずれ土に帰っていくからだ。
そうして南西の森で3泊してレスリーはラウダーの街に戻っていった。
ギルドに入ってこの遠征で得た魔石の買取を依頼するとそれを行なった受付嬢から
「ランクAに昇格するポイントが貯まりましたね。昇格試験を受けられますか?」
「もちろんだ。今からでもお願いしたいところだよ」
わかりましたと受付嬢は一旦ギルドのカウンターから離れると奥のギルドマスターの執務室に生き、そこにいたギルマスのフランツにランクAの昇格試験の話をする。
「わかった俺が立ち合おう」
そう言うと受付嬢と一緒に戻ってきたギルマス。レスリーを見て、
「ランクAへの昇格ポイントが貯まってるらしいな。それで今からでも昇格試験を受けたいということだが?」
レスリーがその言葉に頷くと、
「通常の昇格試験はランクAとの模擬戦なんだが、お前さんの場合模擬戦すると相手を傷つけ兼ねない。地面から土の槍なんかを飛び出させてくるからな。だから模擬戦ではなくて鍛錬場でもう一度俺の前で風水術を披露してくれるか?その威力を見て試験としたい」
そうしてギルマスとレスリーそれからギルドの受付嬢や職員らでギルドに併設する鍛錬場に出向くとそこにはミスリル人形が3体置かれている。
「この前見せて貰っているが今日は本気で頼む。あのミスリルの人形に攻撃してくれるか」
レスリーはわかったと言うと手に持っている杖を前に突き出した。すると身長の2倍はある竜巻が6つ現れて1体のミスリルに2つづつ向かっていくと竜巻に巻き込んでいく。
強風で大きく左右に揺れる3体のミスリル人形、そうしてレスリーが再び杖を前に突き出すと竜巻に翻弄されているミスリル人形の足元からそれぞれ5本、合計15本の土の槍が地面から飛び出して人形に突き刺さった。
「同時に複数の術を繰り出せるのか」
目の前の状況にびっくりするギルマス。
「そこにある自然界の力を借りればいくらでも出せるよ」
「なるほど。オーケーだ」
その声で竜巻も槍もあっという間に消えるとそれを見たギルマスが受付嬢の方に顔を向けて
「ランクAに昇格してもよいだろう。新しいカードを作ってやってくれ」
受付嬢はレスリーからギルドカードを受け取ると先にギルドの中に消えていった。レスリーはギルマスと並んでギルドに歩きながら、
「相当な威力になってるな」
「複数体でも同時に相手ができるから探索が楽になってるよ」
そうしてギルドに戻ってしばらくすると新しいカードをもらう。そこにはランクAと記載がされていた。ギルマスはレスリーにカードを渡すと、
「ランクAになると一流の冒険者とみなされる。他の冒険者の規範となる様にしてくれ」
とだけ言うと奥のギルマスの部屋に戻っていった。そうして自分の机に座るとついさっきの昇格試験の時の風水術を思い出し、
「とんでもない威力だ」
そう一人呟くとギルドの本部に出す報告書を作り始めた。その1行目に
=最近現れた風水術師の実力について=
と書き、続けて自分が目にした事実を次々と報告書に書いていった。
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