第5話

 再びギルドの酒場に戻るとレスリーの周囲に冒険者が集まってきて風水術士についてあれやこれやと質問をしてきた。それに答えていくレスリー。そしてどうして風水術士になったのかという質問にはギルマスにした話をもう一度周囲の冒険者にする。


 聞いていた冒険者は大木と話しをしたのかとか、そんな夢を見る時点で風水術士としての資質があったんだなとか言って納得してくれる。誰もおいおいそんな話は嘘だろう?とは言わないのはついさっきギルドの鍛錬場でレスリーの術を目の当たりにしているからだろう。


「風水術士は自然と共に生きるというのが基本の考え方になっている。自然を蔑ろにしてはいけないと師から強く言われている」


「てことはさ。自然と対話だっけ?それができない奴は風水術士にはなれないってこと?」


 女性の冒険者が聞いてきた。その言葉には首を傾げ


「どうだろう?俺にはわからない。逆に先に風水術士になって鍛錬を重ねれば対話ができる様になるかもしれない。何とも言えないよ」


「いずれにしてもだ、土や風や水といった大自然から好かれないとレスリーの様な攻撃はできないってことだ」


 レオポルトの言葉に頷く周囲の冒険者。レスリーも


「そうなるな。でないと操れない。自然界にある力というか精気を借りるジョブだからな」


 その後も酒場でいろんな話をする。レスリーもこの街の様子や冒険者の普段の行動などがわかったりとお互いに意味のある飲み会になっていた。


 最後にこれからどうすんだ?と聞かれこの国をあちこち移動するつもりだと言う。


「なるほど。風水術士としてこの国を歩き回るつもりなんだな」


「そういうこと。とりあえずはこのラウダーの街の周囲を探索して、それからは港町のアイマスや辺境領のアルフォードにも言ってみるつもりだ」


 

 翌日レスリーがギルドに顔を出すと昨日の酒場で見かけて話をした仲間達が手をあげて挨拶をしてきた。1日ですっかり有名になったなと思いながらカウンターで魔物討伐のクエストを受けると街を出て西の方に向かって歩いていく。


 西には港町のアイマスがあるので街道は広くて安全だ。その街道を歩いて左右に森や川を見つけると道から外れてそちらに行ってみる。


 街道の右、北側にある森に入って木々の様子を観察しながら中に入っていくとランクCやBの魔獣に出会うがそれらを討伐しながら森の中に進んでいく。森の中を歩きながら見ている感じだと特に森に違和感はない。森の中には小川も流れているがその水も透明で澄んでいる。


 この日は奥まで行かずに街道周辺の森や草原を一回りして夕刻にラウダーの街に戻ってきた。


 そうして数日かけて街の周辺を一通り見て回ったレスリーは今までの日帰りでの探索を終了し野営前提で森の奥に入っていくことにする。


 その日の夜、ギルドの酒場で仲良くなったレオポルトらと酒を飲みながら明日から北西の森の奥の探索に行くつもりだと言うと、


「北東はせいぜいランクBまでだが北西の森の奥にはランクAがいる、気をつけろよ」


 心配して声をかけてくる。


「ランクAがいるってことはそこはレオポルトらの狩場になってるのかい?」


「以前はな。最近はそっち方面には行ってないな。俺達は最近はもっぱらダンジョンに潜ってるからな」


 レオポルトと同じパーティメンバーのナイトのケルビンも


「ダンジョンは敵の出現が早いからな。フィールドだと敵を探さないといけないだろう?それにダンジョンに比べて地上は安全地帯も少ない。最近のAランクやBランクは大抵ダンジョンに潜ってるぜ」


「なるほど。ただ俺はジョブの性格上ダンジョンは不向きな気がするんだ。地上で魔物を相手にする方が良さそうだ」


 レスリーの言葉に風水術士ならそうなるだろうなと頷く二人。


「ところでこの街から見て東側はどうなってる?」


「フォレスに通じている街道沿いは基本安全だが。そこからはずれて森に入ると奥にランクAがいたはずだ。草原が広いから東の街道まで出てこないだけでな。そして東の国境に近い場所で街道を外れて山の奥に入るとランクA以上もいるって話しだ。これはあくまで噂だけだけどな」


 リムリック王国とフォレス王国とは大陸の中央にある大きな山々がありその頂上を結んだ線が国境になっている。お互いの行き来は陸路は1ルートのみだ。今レスリーがいるラウダーの街から東に伸びている街道が唯一フォレス王国に繋がっている。ラウダーの街を出るとひたすら東に進むと国境の街ホロがある。そこから山脈の間を縫う様に伸びている街道を行くと隣国フォレストだ。陸路以外だと港町から船で大陸をぐるっと回って隣国に行くルートもある。ただ時間がかかるので商人はよっぽど大きな荷物を持たない限りはこの街道を利用して行き来している。街道は山間の場所に作られており、また両国を結ぶ主要な街道であるため常時両国の軍が要所要所に要塞を構えており行き交う人の安全を確保している。


 また魔物達も独自の生活圏を持っていて余程の事がない限り自分たちのテリトリーから外に出ることはない。従って今のところは街道沿いにまで高ランクの魔物が近づいてきていない様だ。


 北東はククイ村のクエストで奥の森まで探索し、南東もトレント退治をして一応探索できたので今回は北西の森だ。それが終わると南西を調べようと思っていた。事前にざっくりとした魔物の強さを知ることができるたのは助かる。


 レオポルトらに礼を言って宿に戻って休んだ翌日レスリーは背中にリュックを背負ってラウダーの街を出ると西の港町のアイマスに向かって街道を歩き、街を出てから6時間程歩いたところで街道から北に向かって進み出した。


 道のない草原の先には森が見えている。その森の奥まで探索をするつもりで草原を歩きながらいくつか小さな風の渦を飛ばして周囲を警戒して進んでいき、そのまま森の中に入っていった。


 森に入ってすぐはランクCのテリトリーで風の刃で魔獣を切り裂いて倒すと魔石も取り出さずにそのまま奥に進んでいく。


 風の渦から奥にランクBの魔物の気配が漂ってきた。レスリーは森の木の状態を見ながらゆっくりと進んでいき出会うランクBの魔獣を風の刃で倒しては魔石を取り出す。


 魔獣が徘徊しているば森は木々が鬱蒼と茂っておりそれぞれの木もしっかりと濃い緑の葉をつけている。この辺りは問題ないなと木々や低木の状態を見ながらランクBのエリアを歩いて丹念に木々の状態を見て回った。

 

 そうして日が落ちるとランクBのエリアでテントを張って野営をするレスリー。魔物が踏みつける草や落ち葉からその魔物の位置を知るが近づいてこない限りは放置する。


 自然と共生するレスリーは意識すれば自然と同化できるほどになっていた。それでも念のために周辺には風を飛ばして感知していた。

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