第4話

「なるほど。今の話を聞いて納得だ」


 フランツは大きく頷くと


「レスリーがトレントの魔石を3つ持ってきただろう。トレントは一応ランクBの魔物になるんだが実際には限りなくランクAに近いランクBという位置付けになっている。普通ならランクAのパーティが討伐できるレベルなんだよ。それを3体ソロで倒してきたって話を聞いてな」


 そういうことかとレスリーも理解した。風水術士はジョブを取得している冒険者がいない以上その戦闘スタイルがわからないんだなと。


 レスリーはその後も聞かれるままに東の森の奥のトレントを3体倒して川をきれいにしてきたと報告すると、またびっくりする二人。


「東の川を綺麗にしたのか?」


 びっくりして聞いてくるギルマスに頷くと、


「南東の森の中を流れて平原に続いている川のことか?それならもう浄化した。トレントの根が川にまで伸びていてその根から不浄なものが流れていてそれが川を汚く濁らせていた。トレントを倒したら当然その根もただの木の根になった。そして川に一応浄化の術を掛けておいたからもう大丈夫だと思うけどな」


「あの川は周辺の街や村の生活用水になっていたんだ。それが最近濁って使えなくて不便をしていたのさ。それが元通りになったのなら皆も喜ぶだろう」


 ギルマスの言葉にそりゃよかったと頷くレスリー。


「ところでどうして風水術士のジョブを選択したんだい?よかったら教えてくれないか?」


 聞かれたレスリーは信じないかもしれないがと前置きしてから冒険者になってしばらくしてから見ていた夢の話、そしてその大木を見つけた時に幹に絡み付いている蔦を切りおとしたらその大木が脳内に語りかけてきた話、そして大木の勧めもあって風水術士となって国中を見て回る旅に出ていると説明する。


 おとぎ話の様な話しだなとギルマスが言うが、同時に目の前で風水術士としての術は見せてもらった。レスリーの言う通りなんだろう。自然から愛されているのならそのジョブを極めるのもいいんじゃないかと背中を押してくれた。


 受付嬢がトレントの魔石を換金して持ってきた金貨をポケットにしまって立ち上がるとギルマスが


「しばらくはこの街にいるのか?」


「そうだな。特に急ぐ旅でもないのでこの街の周辺をゆっくりと探索してみるつもりだ。それから西の港町を目指してみる」


 ギルマスとの面談を終えてギルドの受付に受付嬢と戻ってきたレスリー。泊まっている宿屋に戻ろうかとカウンターからギルド受付前に出ると声を掛けられた。


「見ない顔の冒険者だけどどっから来たんだい?」


 声を掛けてきたのは戦士風の男。高級そうな皮の装備、背中には大剣を背負っている。ふと見るとギルドの受付に併設してある横の酒場にいた他の冒険者達もじっとこちらを見ていた。


「王都所属の冒険者でレスリーだ。ランクはBだ」


 目の前の戦士からは敵意は見られない。レスリーの話を聞くと


「王都からかい。俺はレオポルト。この街所属のランクAだ。せっかくラウダーに来たんだちょっと飲んでいかないか?ここの冒険者を紹介するよ」


 こんな風に声を掛けられたのは初めての事だがレスリーは頷くと酒場に移動して空いている椅子に腰掛ける。周囲の連中も集まってきたが敵意じゃなく好奇心でレスリーを見ていた。


「いきなり声を掛けてびっくりさせて悪かった。いやその格好が珍しかったんでね。ローブに杖、そして片手剣を持ってる冒険者なんてここにはいないからさ」


「なるほどそうだろうな。王都でも俺以外には見なかったよ」


「それでジョブは何なんだい?」


 レオポルトが聞いてきたので


「風水術士だよ」


 と答えると酒場中の連中が皆びっくりする。風水術士っていうジョブがあるのかよ?と言っている者もいる。すると座っている一人の精霊士風の格好をした冒険者が


「名前だけは存在しているがここ何十年も選択されていないジョブだな。自然の力を利用して相手を倒すジョブだっけ?」


 そういうとその男の方を向いて


「その通り、ただ敵を倒す戦闘だけじゃなくて土壌を改良して作物が育ちやすくしたり木々をきちんと伐採して水害や山崩れを防ぐこともする」


 レスリーは説明をするがほとんどの冒険者が自然の力を利用するという具体的なイメージがわかない様だ。レオポルトも同じで首を傾げながら


「聞いているだけじゃよくわからないな。風水術士なんて俺も初めて見るんでね。よかったらこのギルドの鍛錬場でちょとその術を見せてくれないか?」


「構わないよ」


 そう言って立ち上がると酒場にいた連中のほとんどもレスリーと一緒に鍛錬場に移動していく。そして鍛錬場にいた他の冒険者達も話しを聞いて興味津々の目つきで自分たちの鍛錬を止めて集まってきた。


 鍛錬場に入るとレスリーが集まってきている皆を見て


「術はこの杖を使って念じてかける。例えば」


 杖を前に突き出すとレスリーの5メートルほど前に身長ほどの竜巻が発生した。びっくりする周囲の冒険者達。


「これは風の力を借りて作った竜巻だ」


 一旦竜巻を消すと今度は鍛錬場にある木製の人形を見て


「風の力を借りて攻撃するときは今の竜巻をいくつか作ってぶつけることもあるし、それ以外には例えばこんな風にする」


 杖を突き出すと無数の風の刃、カマイタチが現れてそれが四方八方から木製の人形に切りかかっていった。みるみるうちに削られていく木製の人形。


 見ている冒険者達は言葉がでない。そしてレスリーが杖を突き出すと鍛錬場の地面から円錐形をした1本の土の槍が飛び出して木製の槍を下から突き刺した。驚きの声をあげる冒険者達。


「これはすごいな」


 感心したレオポルトの声がする。


 鍛錬場の入り口からレスリーを見ていたギルマスのフランツも土の槍が地面から突然飛び出して木製の人形を突き刺した時には目を見開いてびっくりした。


「土や水、風と言った自然の力を借りて術を使うのが風水術士だ。そしてこの片手剣は戦闘用というよりは森の中で木々の栄養分を吸い取っている蔦を切ったり生えていると土壌が悪くなる悪草を切ったりするためのものさ。武器じゃないんだよ」


 笑いながら片手剣に手を添える。


「レスリーのその術は魔法じゃないんだよな」


「違う。魔力は使っていない。言った様に自然の力を借りているだけだよ」


 レオポルトをはじめとする冒険者達は目の前のレスリーの術を見てランクBだが絶対にこいつに喧嘩を売ってはいけないと感じていた。突然足元から槍が突き出てきてそれを避けられる奴なんていないからだ。


 レスリーは風水術というものを披露しただけだが期せずして彼はこの街で周囲から認められたのだ。風水術士恐るべしということで。

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