第3話

 次の日は朝からラウダーの街を出て東の街道を歩きながら昨日ククイ村に向かう途中に見つけた街道の右から見える南の森を目指して行く。道から外れて草原や小さな森の中を歩いていくと時々ランクCクラスの魔獣に出会うが風水術で倒して魔石を取り出して探索を進めていく。林を抜けると再び草原になり水の気配が感じられる様になってきた。

 

 1時間ほど歩くと草原の中を川が流れているのが見える。ただこの川は透き通っていなくて濁った水が流れてきていた。


 不思議に思い川沿いに沿って上流に歩いていくと川は目指している深い森の中に繋がっている。渦巻きをいくつか周囲に飛ばしてその森の中に入っていくレスリー。


(ランクBのエリアか。強い敵じゃなくて助かった)


 土の槍、風の刃でランクBの魔獣のオークを倒しながらさらに奥に進んでいく。 すると森の奥に大きな気配が感じられた。


 そこには大きな木の魔獣が3体おり、その木の根が川の縁にまで伸びている。あの魔獣の根から出ている不浄なものが川を汚しているんだろうと。となるとやることは1つだ。


 木の魔獣、トレントもこちらを認識すると3対のトレントから蔓が伸びてきて何本もの蔓がレスリーに襲いかかってきた。木の幹には顔が浮き出てきている。


 杖を突き出して無数の風の刃、カマイタチを作るとそれらが近づいてくる蔓を次々と切り裂いていく。そうしてそれ以上の風の刃が3体のトレントの幹に次々と大きな切り傷をつける。


 大きく幹を揺らせながら鞭の様にして蔓で攻撃してくるトレントを風の刃で切り裂き、風の刃で幹に傷をつけ、トレントの周囲の地面から無数の土の矢をその幹に突き刺し、落ちている枝を槍の様なスピードと威力で幹に浮き出ている顔に次々にぶつけていると3体のトレントが大きな声をあげて同時に倒れた。倒れた幹から魔石を取り出してそして周囲を探索すると他にはいない様だ。


 川に伸びていた根も本体が死んだことによってただの根となり近づいてじっと見てもそこからはもう何も出ていない。


 レスリーは川に近づいて”浄化”と唱えると川の水が少し波立ち、そうしてゆっくりと透明になっていく。


「これでよし」


 しばらく見ていて川がすっかり澄んだ水になったのを見てから踵を返してきた道をラウダーの街に戻っていく。


 街に戻るとギルドに顔を出してカウンターにトレントの魔石を3個置いて買取を依頼するレスリー。魔石を見た受付嬢の表情が変わる。


「これはトレントの魔石ですよね?一人で3体のトレントを倒したんですか?」


「そうだが? トレントってランクBの魔物だろう?」


 何を聞いているんだという表情で受付とやりとりをするレスリー。


「それはそうですが…」

 

 そこまでいうと少しお待ちくださいと席を立って奥に消えていった受付嬢。言われるままにカウンターの横で待っているとしばらくして戻ってきた受付嬢が


「ギルドマスターがお会いになりますのでこちらにどうぞ」


 ギルマスが何の用だと思いながらも受付嬢の後についてカウンターの奥にあるギルドの執務室が並んで部屋の前の廊下を歩いて一番奥にある部屋に案内される。


 部屋に入ると机に座っていた大柄な男が立ち上がって机を回って近づいてきた。


「初めましてだな。ここラウダーの冒険者ギルドのギルドマスターをしているフランツという」


「レスリー、王都所属の冒険者だ。冒険者ランクはB」


 そう言って進められるソファに座った。受付嬢はギルマスの隣に座っている。


「呼び出してすまなかった。彼女から報告は受けているがいくつか確認したいことがあったんでな。まずはギルドカードを見せてもらえるか?」


 レスリーは胸からギルドカードを取り出すとテーブルの上に置く。それを手に取ったギルマス。


「ランクBの風水術士。風水術士の名前だけは知っているがまさかそのジョブを取得している冒険者がいるとは思わなかった。もう何十年もこのジョブを選択する冒険者はいなかったはずだ」


「王都でも同じことを言われたよ」


「ジョブの名前だけは残っているが今やそのジョブの内容を知るものはいないだろう。実は私も資料でしか知らない。よかったらジョブについて説明してもらえないか?」


 ギルマスのフランツの言葉に頷くと彼と隣に座っている受付嬢の前で説明を始める。自然の力を利用して敵を倒し水や土を浄化するジョブだと。


 説明を聞いてもよくわかっていない二人の顔を見て


「説明するより見せた方が早いかな」


 そういうと手を広げて”渦巻き”と念じるとレスリーの手のひらの上に小さな竜巻ができた。びっくりしてそれを覗き込む二人。


「風はどこにでもある。それをこうやって集めて形にするのが風水術士だ、もちろんこの竜巻は大きくできるし数を増やすこともできる。こんな風に」


 また念じると手のひらに3つの渦巻きが現れた。


「この小さな渦巻き、竜巻をこうやって飛ばすと周囲の気配を感知することができる様になる」


 レスリーの手を離れた3つの渦巻きはそれぞれが意思を持っているかの様に部屋の隅に飛んでいきそこで浮いたままで止まった。


「あれはレスリーが作った竜巻でレスリーが動かしているんだろう?」


「そうだ」


 そうして杖を少し動かすと3つの渦巻きがその場で消えた。


「風以外に土や水を使って術をかけることもできる」


 今度はリュックから水筒を取り出して手のひらに少し垂らせる。手のひらには水が乗っていてその水に”癒しの水”と唱えると水が渦を巻いて霧状になってギルマスと受付嬢に頭から降りかかった。


「これや癒しの水という。回復と浄化の効果がある」


 そういうと受付嬢が


「本当だ。身体が汗ばんでたのにスッキリしている。それに疲れも取れているみたい」


「確かにな。俺も肩の凝りがスッキリしてる」


 二人の言葉に頷くレスリー。


「あとはここではできないが土を使って地面から土の槍を飛び出させることもできる。これは戦闘で非常に便利な術だ。言っておくがこれは魔法ではないからな。あくまで自然の力を借りて術を実行しているにすぎない」


 淡々と説明をするレスリーの話を聞いているギルマスは表情にこそ出さなかったが内心ではびっくりしていた


(これはすごいジョブだ。一人で攻撃、回復までこなせるジョブ。しかも魔力じゃないからいくら使っても欠乏症にならない。単発だけじゃなく複数の相手にも同時に攻撃することができる。オールマイティのジョブだ。こんなジョブが存在していたのか)

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