第2話

 ゆっくり休んだ翌日からレスリーはラウダーを中心にまずはその周辺を歩いていく。森があれば中に入り魔獣を討伐しながら木々や茂みの様子を見る。川を見つけると川辺まで行き水の流れや流れてくる木の枝や木の葉の状態を観察した。


「やっぱり地方は自然が豊かだ。王都じゃこうはいかないな」


 大きな都市とはいえ街の外に出ると緑が多く、また周辺の村では畑を作って農作物を育てている農家の数も多い。


 1日かけて街の周辺を歩いたレスリー。翌朝ギルドに顔を出してどんなクエストがあるのか掲示板を見てみる。すると、


・畑を荒らす狼の討伐 <ククイ村> 報酬金貨2枚。

 期間:狼を駆除するまで


 というクエストを見つけた。その紙を持って受付に行き、


「このククイ村っていうのはここから遠いのかい?」


「いえ、徒歩で1日もかかりませんよ。今から出たら夕刻には着きますね。このクエストを受けますか?」


 受付嬢に聞かれると受けようと答え、クエスト用紙をカバンに入れて教えてもらった村を目指して歩いていく。


 東の隣国に続く街道は西や南へと続いている街道と同じ広さがあり、隣国との商いで行き交う人も多い中を歩いていくと途中で北に上がる小道がある、地図を見てこれだなとそこで曲がって北に進んでいくと陽が沈む前に道沿にある村についた。東へと続いているメインの街道からは外れているため商人も滅多に寄らないのだろう。小さな村だ。


 村の入り口にいた警備兵にクエスト用紙を見せるとそのクエストは村長の依頼だからと教えてもらった村長宅を訪ねる。


 村長は一人でやってきたレスリーを大丈夫か?という目で見ていたがとにかく頼んでいたクエストを処理してくれると言う冒険者が目の前にいるので丁寧な口調で


「村に来ていただいてありがとうございます。早速畑の方に案内しますので」


 と自ら村の外れにある畑にレスリーを案内する。結構な広さがある畑だが何も作物が育っていない。


「この畑なんですけどね、結構な頻度で狼がやってきてはわしらが作った作物や種までも

食っちまうんですよ」


 レスリーが畑に近づいてみるとそこは土壌も悪く水捌けも良くなさそうだ。村の周囲は一応木の柵はあるがこれじゃあ狼なら上を飛び越えて来られるなと思うほどに柵の高さも低い。それでも村人は他に生活の糧がないのか、荒らされている畑に作物の種を巻いていた。


 周囲を一瞥したレスリーは


「野獣にやられているのはこの畑だけです?」


「そうです。というかこの村の畑はここにしかありません。この調子だと今年はまともな収穫ができません。領主様に納める分すらないことになりそうで困っておるんです」


「わかりました。やりましょう」


 レスリーは後はこちらでやりますよと村長を返すと陽が暮れる前にまずは柵の外側を見て回った。よくみると狼らしき足跡が多数ついている。それを見ておおよそ20匹程度の集団だと予想する。


 まずは狼の駆除、それからこの土壌の改良だなと方針を決めたレスリー。


 畑の近くにテントを張るとと風水術でいくつも小さな渦巻きを作ってそれを村の外に飛ばしていった。しばらくするといくつかの風の渦巻きに反応がある。そちらを見れば村から離れたところにある森の中だ。


(とりあえず近づいてくる狼を倒してから森の掃除をするか)


 日がくれると畑のあるあたりは全く灯りがなくなる。月明かりだけが照らす中テントの入り口に座って外を見ていると飛ばしていた風の渦巻きが狼達が森を出てこちらに向かってくるのを伝えてくる。


 レスリーは立ち上がると柵の向こう、森の方をじっとみる。風水術士として活動をしているせいか普通の人よりもずっと夜目が効くレスリーの目に集団で近づいてくる20頭程度の狼の群れが見えてきた。


 彼らはもうここを完全に餌場だと認識しているな。一網打尽にしておかないといつまで経っても作物が出来ないぞ。近づいてきた狼の集団、柵に到着する直前でレスリーが杖を突き出すと狼のいる地面から無数の土の槍が飛び出した。地面から飛び出した槍が近づいてきた狼達の身体を下から上に貫いていく。


 悲鳴を上げる間もなく近づいてきた狼を全滅させるレスリー。

 

 そうして柵の外に出て、槍を地面の土に戻すと今度は杖を地面に向けてそこに深さ5メートル程の穴を掘り、そこに狼の死骸を次々と放り込んで最後に軽く砂を被せた。


 翌朝村長に狼退治が終わったことを報告し柵の外の埋めた場所まで案内すると一緒にきていた村人数人が土を掘りそこに多くの狼の死骸があることを確認する。


「ありがとうございました」


 頭を下げる村長に


「狼はあの森の中からやってきていた。他にいないか中を見てくる」


 そうして一人で森の中に入っていき、周囲の気配を探る。森の中には他の狼の気配はない。この森では生態系の頂点が狼だったんだろう。そして森の中で彼らの餌がなくなってしまったから村まで出向いていた様だ。


 狼がいなくなった今、野生動物が戻ってくるといいなと思い森を出たレスリー。森にあった倒木を何本か風水の風の力で浮かせて村まで持ち帰ると森の柵を高くする。倒木を風で削ってそれを村の周囲に植えていった。風の刃で倒木を削っていくつも板を作っていくレスリーを見てびっくりする住民達。


 柵の高さが2メートルほどになる様に村の周囲に等間隔で木を立てて、それに横板を当てて柵を作っていった。途中から村人も協力してくれて朝から作業をして昼過ぎには新しい柵が完成した。


「これで畑を荒らす野生動物も入って来られないだろう」


 礼を言う村人達。柵を作り終わると今度は畑の土に向かって”改良”と唱えると畑の土が地面の奥にある栄養価の高い土と混じり合っていく。この畑は表面よりも少し掘ったところの方が作物がよく育つことを見抜いていたレスリー。


 土を改良してから村長にこれからは深い土と浅い土とをしっかりと混ぜてから種を植えるとよく育つよと説明する。


「なんと、そんなことまでわかるのですか?」


「風水術士というのは自然を理解するジョブなんでね、いつもじゃないけど見えてくるものがあるんだ。この畑はそうやって土を混ぜた方が作物がよく育つ様だ」


 村長と一緒に話を聞いていた村人達も大きく頷き改めてお礼を言われ、その日は村で一泊しクエスト修了書にサインをもらったレスリーは村人達が総出で見送ってくれる中、村を出てにラウダー戻っていった。


 ギルドに戻るとクエスト修了書を見せて報酬をもらうとギルドの受付を抜けて建物の外に出たいったレスリー。その時にギルドにいた冒険者達が出ていったレスリーを何者だという目で見ていた。緑のローブに杖、そして片手剣というジョブの予測がつかない格好のレスリーは王都とは違ってここでは少しずつその存在が冒険者の間に広がっていく。

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