第3話

 その頃になると王都のギルドの冒険者の間で風水術士というジョブを選択したレスリーの噂はそれなりに広まっていた。ただいつもソロで活動をしているので実際に風水術士がどういうプレイスタイルなのかというのは周囲は知る機会がほとんどない。


「風水術士ってジョブをしてる奴がいるらしい」


「風水術士?それってどんなジョブなんだ?」


「さぁ自然がどうとかって言う話は聞いたことがあるけどな。詳しくはわからない」


「なんだそれ?」


 とか


「ソロでやってる奴だろう?」


「なんだソロ用のジョブかよ。じゃあ俺達には関係ないな」


 冒険者の間ではこんな会話がなされていた。


 レスリーと同じ低ランクの冒険者達は大抵はこのランクD、Cを1日でも早く通過しようと知り合いや身内同士の固定メンバーでパーティを組んでクエストをこなしていく日々を続けており、他人に構うほど暇ではない。そんな時間があればクエストの1つもこなしてポイントを貯めようという考え方が一般的だ。


 ソロでやってるジョブだと聞けばああ自分たちには関係のない話だ。それにしてもソロでよくやるぜという感覚を持ってる者がほとんどだ。


 レスリーは王都でマイペースで自分のスキル上げに専念していた。彼は隠れていた訳ではない。もし誰かに聞かれればありのままを言うつもりでいたのだが誰も彼に聞かず、話しかけずにいただけだ。


 ランクAやBの冒険者達はたいてい固定メンバーで活動しており、ダンジョンや護衛などで王都を留守にすることが多い。一方レスリーは毎日ギルドに顔を出している訳ではなかった。王都は冒険者の数が多い。知らない奴の方が多くよほどの事でもない限り他人には構わないという風潮がある。


 

 魔物退治のクエストを受け一人で王都の周辺の森に出向くと身につけた風水術で敵を倒して魔石を回収してはギルドに持ち込む。1日魔物狩りをすると翌日は大木の前で鍛錬するというローテーションで生活をしていた。したがって結果的に上位冒険者と会うこともほとんどないと言って良い程だった。


 いつの頃からかレスリーは大木の事を師と呼びその師の前で1年以上訓練を続けた。師の指導は厳しく、何度も注意され、何度もやり直しをして術を覚えていく。そうして成長していく過程において何度もスキルアップをし、その度に風水術の威力と効果が増大していった。効果が増す度に魔獣の討伐も楽になりランクCになった8ヶ月後にレスリーはソロの冒険者としてランクをBまで上げた。そして同じランクのオークを危なげなく倒せるまでに成長した。ランクCからBにかけて王都周辺の森や草原のほとんどの場所に行ったレスリー。


 ランクBに上がってもうすぐ20歳になるという直前、いつもの訓練を師の前で行なっていたレスリーはまたスキルアップをする。スキルアップしたあとの土の槍、地面から飛び出した槍の数は20本以上でそれぞれが全て地面から3メートルも高さに瞬時に伸びた。槍といっても実際は先端が鋭利に尖った円錐形をしている。


 スキルアップ後の風水術の効果を見ていた大木。


『見事に風水術を自分のものにした様だな。もうレスリーに教えることは無くなった。これからは冒険者として、風水術士としてこの世界を見る旅に出るがよかろう。色々な場所に出向いてそのスキルを試して鍛錬をするのだ。この森で得た知識とスキルを使えばどこに言っても十分通用するとわしが保証しよう』


 師の言葉に頭を下げるレスリー。


「ありがとうございます。師の言われる通りこれから風水術師としてこの世界を見てきます。そしてまた戻ってきます」


『わしはいつもここにおる。いつでも顔を出すがよかろう』


 そう言ってから最後に


『よいか。風水術士は自然と共に生きていくジョブじゃ。決して自然を蔑ろにしてはいけない。それを肝に銘じて世界を回るとよかろう』


「わかりました」


 王都に戻ったレスリーは旅立ちの準備をする。武器屋で新しい片手剣と短剣を買い、防具屋では新しいローブとズボン、靴を購入した。今度のローブも濃い緑色のローブだ。風水術士になって以来レスリーは常に草木を表す緑色のローブを着ている。それに黒のズボンに歩きやすい皮の靴。そして最後に道具屋に寄ると旅で必要になるテントを買い、細々としたものを入れるリュックサックを購入した。


 しっかりと準備が整うと宿を出てギルドに顔をだす。


 相変わらず人が多いギルドのカウンターに座っている受付嬢に


「明日の朝ここを出てラウダーから南の辺境領を目指して行ってくる」


 その言葉を聞いた受付嬢は


「明日からですか。ちょうどよかった。ギルマスがレスリーさんと話をしたいとおっしゃっていたんです。旅立ちの前にあっていただけますか?」


 ギルマスが?と思ったがわかったと言うと受付嬢に案内されて奥の執務室に入っていくとそこには眼鏡をかけたいかにも元精霊士と言った風貌の男が机にすわっていて、レスリーを見ると立ち上がって近づいてきた。


「ここ王都のギルマスをしているアレンだ」


 差し出された手を握り返し


「風水術士をしているレスリーだ」


 そうして執務室の中にあるソファに向かい合って座る。受付嬢がテーブルに二人分のジュースを置いて部屋を出ていくと早速


「忙しいところを悪かった。明日から南に行くんだって?」


 頷くレスリー。


「武者修行はギルド公認だ、行くこと自体はなんら問題がない。呼び出したのは風水術士というジョブについて聞こうと思っていたからだ」


「初めてだな。ここ王都で自分のジョブのことを聞かれたのは」


「そうなのか」


「皆無関心というかソロで活動しているのでソロ専用ジョブと勝手に思われてるみたいな気がする」


 ギルマスの言葉に自分が思っていることを言う。


「ギルドの資料を調べてみたがここ10年以上、いや実際はもっとだろう。このジョブを選択した冒険者は記録に残っていない。そんなジョブをどうして選択したのか差し支えなければ教えてもらおうと思ってな。かく言う私も名前だけはかろうじて知っている程度の知識しかないんだよ」


 別に隠すことはないのでレスリーは自分が風水術士になった過程、夢の中で大木が出てきたところから話をしていく。黙って聞いていたアレン。レスリーの話が終わると


「なるほど。そういう事があったのか。であれば頷ける話だな」


「俺の話を作り話とは思わないんだな」


 その言葉に口元を緩めると、


「ギルドの査定は冒険者が思っている以上にシビアにやってるよ。レスリーがずっとソロで活動しているのはギルドは知っている。そしてソロでそれなりの魔石を持ち込んでいるということはそれなりの魔物を倒しているということだ。ジョブも風水術士で魔力ではなくて自然界の力を借りて討伐するという話も理にかなっている。疑う理由はないな」


 そう言ってから、


「実は俺がまだ冒険者になる前だが、その時に風水術士を選択している冒険者がいたという話は聞いたことがある。人伝の話だったが当時もかなり有名だったらしい。有名と言うのは見かけよりずっと強いという意味でな。自然界にあるものを利用して敵を倒しまくっていたという事だ。そういう事前知識も少しはあったのさ」


「利用というか自然界の力を借りているんだがな」


 そうだったなとギルマスは頷き、


「いずれにしても当時俺が聞いていたのと同じ話をを聞けた。参考になったよ。国内のあちこちを巡って腕を磨いてくれ」


 ギルマスとの話が終わると宿に戻ってゆっくりと休んだレスリー、翌朝早くに王都を出て街道を南に向かっていった。



 風水術士としてのレスリーの旅が始まった。


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