第2話
王都に戻ってギルドに顔をだすとギルドの2階にある資料室にいき、文献を読んで見る。確かにその中に風水術士というジョブが記載されておりギルドとしても認めているジョブであることを確認した。ただここずっと、少なくとも20年以上はこのジョブを選択した冒険者は国中で誰もいない様だ。
そうして大木の蔦を切り落として4か月後、レスリーはこつこつとクエストをこなしてランクEからDに昇格する。その間も時間を見つけては森の中で大木と対話を続けていたレスリー。Dランクに昇格し、ギルドから希望のジョブを聞かれて”風水術士”と即答する。
そのジョブの名前を聞いてびっくりする受付嬢。そうして手元にある資料をひっくり返してみていると顔をあげ
「確かにありますね、風水術士。もう何年も、いや何十年もこのジョブを選択している人はいない様ですが」
困惑気味の受付嬢に
「だからいいんじゃない。変わり者が1人くらいいても面白いだろ?」
そうしてレスリーはギルドカードに風水術士、冒険者ランクDと書かれた新しいカードを受け取った。そしてその足で街の中にある教会に出向くとそこで自分のジョブを女神像に報告する。
するとレスリーの身体が光に包まれて新しいジョブの取得が終わった。
この世界では殆ど全ての住民が仕事を決めると教会にある女神像に報告することでその仕事をする資格が得られると信じられている。
冒険者の場合にはジョブであり、それ以外にも鍛冶職人になるとか教師になるとか。自分がなる仕事を女神に報告するのだ。
正式に風水術士となったレスリー。早速報告にと森に入るといつもの大木の前に向かい合って立って自分が風水術士になったと報告する。
するとまた大木がレスリーの脳内に語り掛けてきた。
『そうか。風水術士になれたか』
「ええ。ようやくランクが上がってなれました。」
目の前の大木はただ地面に太い根を伸ばして立っているだけだがレスリーにはその大木が自分の言葉を聞いて大きく頷いている様に見えた。そして
『今日からお主は正式に風水術士として生きていくのだな。そうであればお主に我から贈り物をやろう。この枝を切って杖を作るが良い』
そう言うと目の前の大木の低いところから伸びている枝の1本が揺れているのが見える。そこに視線を向けると、
『それだ。この枝をその片手剣で切るがよい』
言われるままに片手剣で揺れている枝を付け根から切り落とす。枝と言っても結構太く、長さもレスリーの頭までの高さがある。
『この木で杖を作ってもらうとよい。形はどんなのでも構わん。その枝には我の力が込めてある。風水術士として使えば効果が大きくなるだろう』
「ありがとうございます」
レスリーは大きな枝を持つと目の前の大木に丁寧に頭を下げ、御礼を言って森から出ていった。
王都に戻ったレスリーはそのままギルドに顔を出して受付嬢に
「この枝から杖をつくりたいんだけど、どこに頼めばいいかな?」
聞かれた受付嬢は大きな枝を見て
「そうですね。材料を持ち込んでの加工となりますとギルドからのおすすめになるとこちらですね」
そう言ってギルドが紹介してきたのは大通りに面している武器屋ではなくてギルドから少し歩いたところ、大通りから路地に入った中にある工房だった。
「ここはオーダーメイドの武器を作ってくれる工房です。もちろん杖も作ってくれますよ。材料を渡して作るのならここがいいんじゃないかと」
「ありがとう。その工房に行ってみるよ」
礼を言ったレスリーは木の枝を持ってギルドが教えてくれた場所に向かっていく。大通りから路地に入って看板を探しながら歩いていくと、路地の右側に
『工房ケイト』
という木製の看板が見えた。ここだと扉を開けるとすぐに中から中年の女性が出てきた。今まで作業をしていたんだろう。頭にはバンダナを巻いて額に汗を浮かべている。年齢は30歳は過ぎている様に見える。作業着のエプロンで手を拭きながら何か?と聞いてきたので
「杖を作ってもらおうと思ってギルドに教えてもらってやってきた」
「仕事の依頼だね。その木を見せてもらえるかい?」
どうやら目の前の女性がケイトという工房主らしい。レスリーは言われるままに木をケイトに渡す。木を受け取るとそれをじっと見るケイト。
「変わった木だね。魔力じゃない違った力が込められている」
「ほぅ。わかるんだ」
感心するレスリー
「一応鑑定スキルってのを持ってるからね。それにしてもこれは初めてみるよ。魔力なら大抵はわかるんだけどね」
そう言ってしばらくさまざまな角度から木を見ていたケイトは顔を上げると
「杖の長さは?形状で希望はあるかい?」
と聞いてきたので地面から肩くらいまでの長さで形状についてはお任せすると言う。
「わかった。金貨2枚だね。1週間で作り上げてあげるよ」
予想よりも安かったと思いながら金貨2枚を渡すレスリー。1週間後に来ると言って店を出てそのまま王都の外に出るといつもの大木のいる森に向かう。そうして大木の前で風水術師としての訓練を始める。最初は口に出して風、土など自然にあるものを見て指示をしてみる
「風よ渦を巻け」
そう言うと手のひらでこの前よりも大きな竜巻ができた。そしてそれを手の平から話して動かしてみる。最初はなかなか思う通りに動かないがそれでも何度も指示していると最後にはその小さな竜巻を自分の周囲に好きな様に動かすことができる様になった。
大木からは時折レスリーにアドバイスがでる。精気を効率よく集めるやり方やそれを開放するときのやり方など。それと同時に自然界の知識についてもレスリーに教えていく。
杖ができるまでの毎日、レスリーは大木の前で訓練をし、そうして術を無詠唱で唱える様になり、竜巻を2つまでは自由に操れる様になった。また地面からは土を槍の様に突き出させることができる様になった。と言ってもまだ槍状の土はせいぜい10センチ程の高さでしかないが。
そして落ちている葉や枝を任意のターゲットに向かって飛ばせることにも成功する。威力はまだまだ全然足りないがそれでも自然にあるものを自在に操る訓練を繰り返し行なって風水術のスキルをあげていった。
工房を訪れてから2週間後レスリーが工房に顔を出すと
「出来てるよ」
そう逝ってケイトが奥から1本の杖を持ってきた。綺麗に削られて丸みを帯びている杖、その先端は渦巻き状になっていてその渦巻きには綺麗な模様が彫られている。
手に持つと高さも重さもちょうど良い感じで握りやすい
「凄いものだ。ここまでの杖が出来るなんて」
「ふふ。自分でも会心の出来になったよ。この木は魔法使いが使う杖の木とは違ってるから最初は戸惑ったけどね。でも加工しやすい良い木だよ」
会心の出来を褒められてケイトの表情も明るい。
「想像以上にいい杖に仕上がってる。ありがとう」
「新しい杖を作ると私のスキルアップにもなる。お礼を言いたいのはこっちの方さ。またいつでもきておくれよ。修理もやってるから」
レスリーは杖の出来に満足するとそのまま森の奥の大木の前に行き、この大木の枝で作った新しい杖を披露する。
『見事な仕上がりになっておるの。これなら風水術の威力も増すだろう』
そうして再び大木の前で訓練を始めるレスリー。時々大木からレスリーに指示が飛び、その通りに何度も反復練習をする。大木の加護がある杖を持つと今までよりもずっと風水術の効果がアップする。
毎日の様に大木の前で訓練をしているとある日竜巻の大きさが急に大きくなった。
『竜巻が大きくなったな。それがスキルアップだ。レスリーの風水術師のスキルが一段上に上がったということだ』
「これがスキルアップなのか」
確かに他の術の威力も昨日までとは違っている。全てが大きく、そしてその威力を増している。
『このまま訓練を続けるがよい。そうすればさらにスキルアップし、そして新しい術も自然と覚えていくだろう』
レスリーはランクDの冒険者としてゴブリンなどを倒してポイントと生活費を稼ぎ、2日に1日は師の前で訓練を続けた。
生活費を稼ぐ時も一人でゴブリンがいる森に入るとゴブリン相手に風水の術、風を使った風の刃や土の槍でゴブリンを倒し魔石を集めながら風水術士としての戦闘に慣れていく。そして大木の前で自分の術を見てもらい指導を受けるという日々を続けていった。
ソロだが自然を利用した範囲攻撃ができるレスリーは効率的にゴブリンらを倒し、魔石を持ち込んでは換金、そしてギルドへの貢献度を上げていく。
ランクDになって6ヶ月後にはソロとしては早いペースでランクCにアップ。
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