第6話 やっと夜が終わる

ソファで寝そべり、ゆっくりと意識が消えかかるのに身をゆだねていた。

それを阻んだのが、冷たいノックの音。


「おれぁねてるぞぉ。だれだよ?」

「広津です。」

「すぐ済む用事なら入れ。長いなら明日にしてくれ」

「報告のみです。失礼いたします」


ひじ掛けに頭を乗せ、肢体をソファに投げ出し、顔は帽子で隠したままの態勢で、隙間から片目だけで広津を確認する。


「で?」

「お疲れのところ、失礼いたします。芥川君は奪還いたしました」

「あー、ごくろーさん」

「樋口君は、…腹の括り方がわかっているようです」

「そらーよかったじゃねぇか。じゃあ、後は頼む」

「承知いたしました」

「ほれ、帰れ。俺は眠いんだ」

片手でひらひらと、広津を追いやり、重い瞼を閉じる。

「…見に来て、いらっしゃったんでしょう?」

「…」

もう一度片目を開けると、少しの笑みと共にまだこちらを眺めている。

「なんのことだか」

「樋口君の腹が座らず、我々黒蜥蜴くろとかげの出動が出遅れた場合に備え、自ら手を下すつもりでおられたのでは?」

「想像だろ?」

「大きなのが見えましてね…影だけですが」

「大きい?」

広津は遠慮のない笑顔で告げた

「えぇ。大きすぎる蝙蝠こうもりが。」


…ちっ。


「夢でも見てたんだろ?さっさと帰れ。ばーか」

「はい。失礼いたします」

広津は一礼し、部屋を後にしようとする。


「てめぇだって。俺を試したんだろ?」

「…なんでしょう?」

ドアノブに手をかけたまま、広津は顔だけこちらに向ける。


「あんとき。俺が幹部命令を出せば即刻黒蜥蜴は行動できた。それをさせるかどうかをさ」

「…」

「それをしたら、その時点から常に、樋口と芥川の後ろに俺の影がちらつく。お前ら実動部隊は、樋口の言葉より、俺の指示を待つようになる。つまり、樋口の信用を俺が奪う形になるんだ。結果、組織の命令形態が複雑化する。それは有事のとき、現場を混乱させる大きな要因になる。…俺がポンコツ幹部かどうか、試したんだろ?」

ドアノブの手を離し、こちらに向き直った広津が告げる。

「それも、想像ですね」

おやすみなさい。

深く一礼すると、彼は部屋を去った。


めんどくせぇなぁ。

まぁ。いいや。寝よ。。。

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