第5話 続・中也の長い夜
もう抱えきれない、なにか汚泥のような、どす黒くてどろどろとした感情が肺のあたりをもやもやもやもやとしてきてどーにも我慢ならん。
「あれかぁ?正面の出入り口には常時警備員がいるんだから問題ねぇだろうと思ったとかそーゆーことかぁ?アホかっ!通常警備と、襲撃を想定した有事の警備体制は別モンだろうがっ!…って、もぉ、襲撃されるなんて経験ねぇから知らねぇしわからねぇのか…あ゛ぁぁぁぁぁっ!くそっ!」
樋口呼びつけて説教するか?
いや。手勢を集めてる情報が入ってる時点で、襲撃は時間の問題。
警備態勢を整えるほうが先か。
樋口を焚きつけるより俺が直接手を出したほうが断然早いのは目に見えてる。
広津だってそう思ってるからここにきてるわけで…
…ん?
改めて、広津を見る。
白髪のひげ爺は表情を変えることなく、こちらを見ている。
判断を待っている。ということか。
…あぁ。なるほど。そういうことか。
喰えねぇなぁ。こいつも。
つい、口角があがってしまう。
その表情の変化を見逃さなかった広津が、何か言おうとしたが、同時に彼の携帯が鳴った。
「どうした?…そうか。わかった」
電話に出たものの、ものの数秒のやり取りで通話を終わらせた広津は、険しい顔で告げた。
「先ほど強襲を受け、…芥川君が拉致されたそうです」
「言わんこっちゃねぇ」
「どう、いたしましょうか?」
試すような目つきの広津から、視線をそらすことなく、言った。
「誰に聞いてるんだ?てめぇらの直属の上司は誰だ?」
一瞬、目を見開いた広津であったが、すぐに表情を戻した。
「…なるほど。承知いたしました」
一礼し、踵を返した広津は足早に去ろうとする。
「広津」
足を停めた男の背に、言葉をつづける。
「てめぇらの上司がどんだけ腹座ってんのか見極めてこい。話はそれからだろ?」
「…私が見限ったら?」
「俺はお前の判断を支持する。」
振り返った男の口元に、薄く笑みが見えた。
「改めて。承知いたしました」
再び歩き出し、携帯で連絡を取りながら去っていく背を見送ってから、こちらも行動を起こす。
不測の事態に備える。ってやつだ。
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