第3話 首領の眼光

首領に報告を上げたとき、第一声は


「ふぅん」


だった。

そして、


「で。紅葉君は何て言ってたの?」

「紅葉の姐さんは、鏡花を連れ戻したいそうです」

「寝返ったのに?」

「どうでしょうか?…まぁ。そうは言っても、まだ子供でしょうから。甘い言葉に引き寄せられた。…姐さんはそうも思っているのかもしれません」


あくまで「しれません」だ。明言したとは言っていない。


「中也君」

「はい」

「君、ポートマフィアに入ったの、いくつのときだっけ?」

「十五、でした」

「鏡花君は、十四歳だったね」


そう変わらないだろう?とでも言いたいのか…

首領は一つ息をついてから、両の手の指を絡め、テーブルに肘をつく。

憂うような目つきで、蠟燭の火を眺めながら、指示を出した。


「まぁ、話は分かったよ。鏡花君の件については、私が紅葉君と直接話そう。間違っても、勝手に武装探偵社に乗り込むようなことだけは、慎んでくれたまえ」

「承知いたしました」


回答は予想通りだった。うやうやしく首を垂れ、部屋を去る態勢を取る。


「それからさぁ。中也君」


…首領の「それから」の後に続く話。いい予感が全くしない。

観念して、顔を上げる。


「はい」

「芥川君の件だけど」

「…はい?」

「後始末。しておいてくれる?」


「…は?」

なんで芥川のしりぬぐいを???


「うん。やっといてくれるよねぇ?」

「え。…まぁ。はい。命令とあらば、やりますが」

「ねぇ。太宰君には、会ったの?」


唐突な質問に、意図が見えなくなる。


「芥川が捕らえたと聞いて、間抜け面を拝みにはいきましたが…」

「中也君」

首領の眼光がこちらを射抜く。


「君と太宰君を、最初に組ませたのはこの私だよ?見くびってもらっては困る。芥川君の暴走の一端は、太宰君の存在であり、中也君、君の行動にもある。

言っている意味は、分かるね?」


…お見通し。ってか?


「しかし、証拠はない。」

こちらが答えるより先に、首領が続ける。


「だからね。中也君。よろしく頼んだよ~」


最後は、満面の笑みとひらひらと舞う手つきで。その部屋から送り出された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る