第2話 紅葉の想い
姐さんが少し落ち着いたのを見計らって、提案をする。
「とにかく、鏡花は武装探偵社で元気にしている。今すぐ、身に危険が迫っているような状況じゃない。気持ちはわかりますが、少し時を待ちましょう。首領への報告も、俺からのほうが話が通りやすい。悪いようにはしませんから、少し俺に任せてください」
「信じよう。中也はわっちが育てた男じゃ。間違いはない」
姐さんの視線は、どこか遠くにある。
「でも、納得はしてない。でしょう?」
「お前の正解と、わっちの考えは、別のところにあるでな」
「別?」
そこでやっと、姐さんはこちらに視線を向けてくれた。
「のう、中也。…暗がりばかり歩いてきた者が、急にまぶしい光に照らされたとき。そこに見るのは希望じゃ。闇の中では見ることすら考えもつかなかったものを、そこで急に、見てしまう。そして、それを忘れられなくなる。」
「…」
「最初は、それが心地いいのじゃ。自分はこれから、日の当たる場所を歩こうと。闇の中にわざわざ戻る必要はないと。己だけの力で、日なたに出られたのだと過信して、そんな風に思い上がる。」
その言葉はきっと、俺に向けているわけじゃ、ない。
「己の本性を突き付けられたときになって、やっと気づくのじゃ。好んで闇にいたのではない。闇の中でしか生きられないから、そこにいたのだと。日の光は、自分一人では強すぎる。そこで生きていくことこそが、苦痛になってしまう。と」
そして、さみしそうに笑った。
「中也。われらはそうじゃろ?…日なたでは、生きていけないから、ここに来た」
そうですね。…と、言ってしまえれば、よかったんだろうか?
「俺は、ここが気に入ってるから、ここにいるんですよ」
その答えに、姐さんは微笑んで答えた。
「そうじゃろうな。」
一つため息をついてから、姐さんはつづけた。
「鏡花は、今、光の中にいる。きっと、今が一番楽しかろう。じゃが、それは夢物語じゃ。夢は、短ければ短いほど、ただの思い出に変えられる。それが長くなれば、己の首を絞める楔となってしまう。そうなる前に、…連れて帰ってやりたい」
うなだれる姐さんのうなじを見つめているのに、かける言葉は、何も見つからなかった。
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