第11話 インセット・ゴーラ・マジョリーノVSドラゴニュート
どれくらい時間が経過しただろうか。俺はド深夜に目を覚ました。
夕方に寝てしまったのだから無理もない。一瞬そう思いかけた。だが、違う原因が理由で目を覚ましたのだと悟る。
部屋の中からカサカサ、カサカサ……という音が聞こえるのだ。消灯していて、音の正体は分からない。
俺はベッドからゆっくりと起き上がると、忍び足で部屋の入り口に向かい、電気を点けた。そうして目に入ったのは、黒光りする衛生害虫……そう、アイツだ。窓や扉の隙間から家屋に浸入し、人々の生活を脅かす。ジーだ。
「居んねんなぁ……」
出てしまったという衝撃と、戦わなければならないという恐怖。それから、異世界にも出るのだという失望が三位一体となって、俺の心を支配していく。
ババ様に貰った剣を咄嗟に掴む。そして一気に引き抜き攻撃態勢に入った。すると、小さな侵略者は何を思ったのかこちらに突進を仕掛けてきたのだった。
「うわぁぁああッ!! こっちに来たッ!?」
剣を振り下ろす俺。大きな音を立てて剣身がフローリングへと突き刺さった。
……速い! 俺が知っているゴキブリよりも速いし、ちょっと大きい。アロファーガ産は勇敢な性格をしているのかもしれない。俺の向けた殺意を敏感に感じ取ったのか?
再度攻撃を仕掛ける俺。今度は峰打ちするように、刃を横にして叩きつける。
「やったか!!」
「ふあ~、どうしたですか~……?」
そこへ、大きな
見ればパジャマ姿で、目がトロンとしている。部屋の入り口で立ち止まり、うつらうつらとしている。半分夢の世界に居るのかもしれない。
ところでコイツ、パジャマなんか持っていたっけ。
「ヤツだ、ジー! ゴキブリ、ゴキブリが出た!」
剣を持ち上げつつ叫んだ。
「ゴキブリ……?」
ヴィータは眠気眼を擦ると、聞き返した。俺はと言うと、漆黒の侵略者と尚も戦闘中だ。
彼女は床で高速移動するゴキブリを発見すると、ようやく合点したようである。
「ああ、ゴーラ。〈インセット・ゴーラ・マジョリーノ〉ですねー。頭が良くて、窓とか勝手に開けて入って来ちゃうんですよー」
「そうなん!?」
そう答えるヴィータ。
窓を開ける? やべーだろ、そんな虫。……ていうか、名前がなげーよ!!
どうやらこの世界のゴキブリは知能が高いらしい。只でさえ機動力が高くて、始末に負えないというのに。唯一のウィークポイントであった知性すらも克服しているというのか。
俺は出鱈目に剣を振り回した。だが、それをあざ笑うかのようにゴキブリは避け続ける。ついには飛び上がると、部屋から逃げようと考えたようだ。
ヴィータの方向に飛び去るゴキ。対して、口を大きく開けるヴィータ。……食べるのか、と嫌な想像が頭を過ぎる。
だがしかし、彼女の口がメラメラと燃えたかと思うと、ゴウ!! という音が響いた。真っ赤に燃える炎が口から噴き出したのだ。熱気がこちらまで伝わり、俺は顔を
「おおー、すげー……」
今のはドラゴンブレスって奴だろうか。控えめではあったけど、灼熱の炎と形容するに相応しいインパクトだった。まるでショーを見ているかのような気分である。
俺自身は呆気に取られちゃって立ち尽くしていたんだけど、テンションが上がるよね。
「ゴーラは食べてもおいしくないです。窓をしっかり施錠しておけば、入って来ないですよー」
嘆息するヴィータ。ぎゅるるる、と腹の虫を鳴らした。「うう、おなかすいた……寝て紛らわすですー……」と言い残すと、彼女は部屋を後にするのだった。
そういえば夕飯を食べていなかったような……。俺は剣を鞘にしまうと、開けていた窓を慌てて施錠する。
それと、この炭化したゴーラを捨てたいんだけど、ゴミ箱がないな。買っておかねば……まだまだ足りない物があるな、この家には。他にも、何かを忘れているような気がする。
「あ、そうだ。明日の飯……!」
時計を確認してみれば、深夜十一時過ぎ。
食事……今までは親が作ってくれていたけど、これからは毎日自炊しなければならないのか。死んで初めて親のありがたさに気付くとは、何とも哀れだな……。
別に毎食買って食べてもいいんだけど、それは今後の為にならないと思うし、好奇心からこの世界の食というものを知ってみたい。
……コンビニってあるのだろうか。いや、あるのだろう。ここアロファーガにも。
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