第4話 街角エンカウント

 俺はカレーパンと他、幾つかを購入すると店を出た。

 最早もはや、転生先の世界でカレーがあっても驚かない。〈バジルソースをふんだんに効かせたピザトースト〉という、至極モダンテイストな商品があっても、だ。

 うつむきながら道を歩き、何となく路地裏に入っていく。


「はぁ~……ないわ。これはない!」


 夢のケモ耳美少女との邂逅かいこう、それは想像の斜め上だった。

 もしかして、全部あんな感じなのだろうか。人を小馬鹿にしたようなガブリエルが脳裏に浮かぶ。

 顔は可愛かったな、ガブリエル。


 やってられへんわ……。


 人生にそもそも期待なんかしてなくて、適当に進学して、バイトテロを目論もくろんだらまさかの凍死して……。

 転生して第二の人生がスタートだと思ったら、この始末か。そりゃねぇよ!

 クソ、何でこうなっちまうかな。……いや、むくいか。

 何でバイトテロなんかしちまったかな――って


「キャッ!!」


「痛っ!」


 曲がり角で誰かとぶつかった。

 その拍子で手に持っていたパン袋が吹っ飛び、俺はコンクリートの壁に背中から突っ込んだ。

 宙を舞ったパンがごろごろと地面へ落下していく。


「いってーな、コラ! てめー、どこ見て歩いとんじゃボケカスゥ!!」


 咄嗟とっさの事で思わず汚い罵声ばせいを浴びせる俺。


 ……イカンイカン、機嫌が悪いからって人に当たったら駄目だよな。

 前を見て歩いていなかった俺にも非はある。

 それに、相手はまだ子供のようだ。……しかも、年端としはも行かない人間の少女ではないか!

 緩くウェーブの掛かった白髪で、歳は十代ぐらいか。

 ぶつかった衝撃で仰向けに転がっているが、愛嬌あいきょうのある顔をしている。中々の美少女だ。

 それに何より、頭部からは二本の黒い角が生えている。爬虫類のような尻尾も付いている。……人外娘だ。


 ……来た来た、キタァーーッ!

 こういうのを待ってたんだよ。異世界、美少女、人外、最高だね!!

 慌てて俺はその娘に手を差し伸べた。


「スマン、俺も前見てなかったわ! 怪我してない?」


「…………」


 人外娘はピクリとも動かない。天をあおいだまま、目をつむっていた。


「だ、大丈夫か? おーい……」


 ま、まさか、打ち所が悪かったんじゃ。

 確かに、華奢きゃしゃなボディだ。躍動感やくどうかんあふれる俺のダイナミックなタックルに耐えきれず……え、死んでる?

 異世界転生して、しょぱなが殺人? いやいやいや、不慮の事故!

 ちょっと待て救急車だ。この世界は一一九でいいのか。いや、そもそも電話がない。


 ぐぎゅるるるる……


 と、何か珍妙ちんみょうな音が聞こえてきた。人外娘の方からだ。


「お、お腹がすいて……死にそうですー……」


 倒れたまま、そう答える少女。消え入りそうなか細い声だった。腹が減って行き倒れていたって事?

 俺はとりあえず、その娘を立ち上がらせる。

 いまがた調達してきたパンはあるのだが……地面に何回かドリブルしたあとだからな……。食べさせるのはこくだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る