第2話 前世の最期と現世の最初
東京で暮らしていた俺は、両親の都合で大阪に引っ越した。
そして大阪府堺市にある私立大学に通う
大学の学費を稼ぐ為ではない。小遣い稼ぎの為だ。収入は美少女フィギュアや漫画の購買に
目下、絶賛労働中である。ここはバイト先のバックヤードで、掃除用具やら制服やら、商品の在庫が置かれている。
休憩中の俺の前には業務用の冷凍庫が
中にはアイスや冷凍食品、揚げ物の在庫が保管されている。
「クソ!」
俺は声を荒げた。ストレスが限界を迎えていた。
「やってらんねぇよ、こんなバイト!」
腹いせに冷凍庫を蹴り、吐き捨てるように言った。
理不尽で
店のサービスをちゃんとさせないから客に不満が
つまり、どこかで連鎖を断ち切らなければならない。だが、そうしない。何故なら労力と時間、そして金が掛かるからだ。
今日だって……クソ、クソ!!
人件費削減の為、
そっちがその気なら……よろしい、ならば戦争だ。
「……冷凍庫、入ったろ」
暑いんだから、いいよね?
もう、従業員の事を使い捨ての雑巾みたいに考えている店なんてさ、クソ喰らえだろ。
前に同じ事をしてSNSで炎上しているヤツを見かけた事はあるが、大丈夫だ。こういうのは結局、ネットに画像や動画をアップロードしなければバレないのだ。
俺はやる。やってやる。今日……バイトテロを実行する!
「店長、今は居ないよな……?」
俺は冷凍庫の扉を開けると、内部に右足を入れた。冷気がひんやりとして気持ち良い。
次に左足、胴体。庫内は棚で上下に分かれていたので、寝そべるようにして入った。
おお、ええやん。ちょっと寒いけど。
後は一応、写真撮っておくか。
「あれ?」
ケータイを取り出そうとした矢先、パタンという音と共に視界が真っ暗になった。
扉が閉まったのだ。とりあえず気にせず、一枚写真を撮る。
画像を確認してみるが……うん、写真を見てもこれ、よく分からないね。
やっぱり同僚とかに撮らせないと映えはしない、という事か。だがそうすると流出する可能性が……。
いや、一旦出よう。仕切り直しだな。
「あれ?」
扉が開かない。
鍵なんて付いてないけど。何でだろう。
あれ、もしかして……閉じ込められた?
えっ、あれ、おかしいな。マジで開かないかも。
っていうか寒い。アレ、ちょっと……
……あれ?
「ぐわぁッ!?」
地面に
どうやら生前の記憶が
確かバイト中、冷凍庫の中に入ってみたら扉が開かなくなって……それで、どうしたんだっけか。
ああ、死んだんだ。それで、ガブリエルとか言う天使に会って……そう、転生したんだった。
っていうか着地、雑やねん。ケツ痛いわ!
それにアイツ、「間違えちゃった!」とか言ってたけど大丈夫なのかよ?
誰がどう見ても分かる。あれはスゲェ動揺っぷりだった。目が死んでいたもの。
まるで期末テストの最後、解答用紙を集めている時に解答欄が一個ずつズレている事に気付いた、みたいな。そんな顔をしていたが……。
第二の人生、大丈夫なのか?
「ホンマ、怖いやっちゃで……」
よっこらせ、と立ち上がる。
次第に視界も晴れてきて、自分の体を観察してみた。
転生は成功した様子で、俺の身体はちゃんと存在している。腕も動く。
違和感は一切ない。というか、服装も同じだ。
……いや、待て。バイトの制服やぞ、これ。
後でどこかで服を購入しないとな。
鏡がないから分からないけど、俺の体がそっくりそのまま、この世界に転生したみたいだ。特別な職種やクラスの人間ではなさそう。
この世界の事をまだ一つも理解していないが……。見たところ、近くに人間や動物が居る様子はない。無論、ケモ耳美少女も見当たらない。
そう、俺はケモ耳美少女、否、人外娘が大好きなのだ。はっきり宣言しておくが、断じてケモナーではない。美少女を土台にした、人間要素が多めの人外が好きなのだ。
転生する世界を選択する時に「ケモ耳娘」という言葉をあえて使ったのは、人外娘と告げた結果美少女とは程遠いモンスターが
さて……それで、だ。
俺、死んだんだよな? これ夢じゃないよな?
大学生にもなって、特に将来の夢も無かった。やりたい事もなかった。
でも、まさかあんな事になるとは思わなかった。それに、俺が死んだ事で今頃、家族やバイト先は大変な事になっているだろう。
「やっちまったよなぁ……」
今更だけど、冷凍庫に閉じ込められた理由が分かった。
立て付けが悪くなっていたんだ。俺が散々蹴り飛ばしていたから。自業自得ってわけ。
反省はしているし、後悔もしている。謝罪したい、罪も
でも……死んじゃったからね。今は気持ちを切り替えていこう。
見渡してみれば、草原が広がっていた。何の説明も無しにこの世界に来てしまったが、遠くに町が見えるからまずはそこに行ってみれば良いだろう。
眼下に広がる草原を蹴り上げ、俺は町へと向かった。
素敵な出会いがあると嬉しいな。
道中、脚部に違和感はあったのだが、気にしなかった。
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