再会前夜の準備(はしゃぐお父さん)と奇跡(3)

「明日リーズが来てくれて、やっと全てが終わるでしょ? だから神様がお祝いをくれたみたいで、ちょっとだけ会いに来れちゃった」


 何もない、真っ白な空間。そこには懐かしい、最も愛する人が立っていて、わたしの胸にふわりと飛び込んできた。

 この感触、温かさ、どれも当時と同じ。ここには確かに、レティリアがいる。


「あなたが身につけてくれているあたしの指輪から、いつも見ていたわよ。あたしの分まで、リーズを守ってくれてありがとう」

「……。わたしはあの日、あの子を――いや、君がそう言ってくれているんだ。思うところがあるが、素直に受け取っておこう」

「ええ、そうして頂戴。あたしは、あなたに感謝しているんですもの」


 背が低めのレティリアは顔を上に向け、右目をパチッと瞑り――彼女がよくしていた仕草を行い、一歩だけ下がってくるりと回転してみせる。

 ああ、そうだ。これも彼女が、よくしていた仕草。嬉しくて、幸せな時に必ずしていたものだ。


「それにね、今日はとっても楽しかったわ。リボンやお花、ケーキ作りに精を出すあなたを見られたんですもの」

「ふふっ、見られてしまっていたんだな。君から見て、あれらの出来はどうかな?」

「もちろん、100満点よ。なかでも高評価だったのは、オレンジを――生前あたしが例えた色を、入れてくれたところね」


 ピンクはリーズ、ブルーはディオン、グリーンはわたし、オレンジは自分。病床で聞いた時からソレを忘れた時はなく、あの配色には『家族全員で』という意味を込めていたのだ。


「昔も今もずっと変わらず、あたしを愛してくれてありがとう。こっちの世界で想い続けてくれる人がいるから、あたしは指輪を通してあっちから見ていられるのよ」

「気持ちがあれば、絆が途切れる事はない……か。良い仕組みがあって良かった」

「そうね。だからあなたは心ゆくまで、その人生を楽しんで頂戴。あなたが経験したものは全部、ちゃんとあたしの経験になるのだから」


 レティリアは背伸びをして、わたしのオデコをツンと突っつく。


「あたしの死後あなたは、酷く後悔してくれました。幸せな思い出を沢山作ってあげられなかったと、嘆いてくれました」

「……………………」

「だけどね、ちゃんと貰えるの。これからは――昨日(さくじつ)からはもっともっと大きな幸せを感じられるようになっていて、ちゃんと貰えるの」

「……レティリア……」

「だからあの時に呟いていた、『片がつけば、できるだけ早く君の元へ逝きたい。あの世で一緒に思い出を作ろう』はお断り。だってそんな必要は、ないんだもの」


 彼女は両手を胸に当てて目を瞑り、瞳を開くとちょっぴり照れ臭そうにはにかんだ。



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