再会前夜の準備(はしゃぐお父さん)と奇跡(2)
「………よーしよしよし、スポンジは綺麗に焼けた……! このあとは…………まずは、完全に冷ます」
すぐさま次のステップへと移行したい気持ちを抑え、網の上で生地の熱を取る。
熱を帯びたまま進めてしまうと、大変なことになってしまう。それを避けるために、今は敢えて『静』を貫くのである。
「美味しくなれ……っ。美味しくなれ……っ。美味しくなれ……っ。美味しくなれ……っ」
暫くの間念を送り、しっかりと冷えたので第2工程へと移る。次の作業は、『スポンジケーキを二等分する』、だ。
「……スポンジに楊枝を刺して固定し、側面からナイフを入れてゆく……。ケーキを回しながら慎重に切っていって………………………よし! できた!」
この次は、シロップ作り。
レアルに教わった材料を順番に投入し、小鍋で熱する。いい具合に溶けたら『キルシュ』というものを加え、完成したシロップが熱いうちに『はけ』を用いてスポンジに塗る。
「…………よし、第3工程の完了だ。このあとは、ホイップクリームだったな」
生クリームなどをレアルがお薦めする量で混ぜ合わせ、『八分立て』という状態にする。
「泡立て器でクリームを持ち上げた時、少ししてから落ちるぐらい…………だったな。…………うむ、いい具合だ」
あとはパレットを使ってスポンジにクリームを載せてゆき、一枚目が終わったらその上に二枚目を置き、再びクリームを載せる。それを完璧に済ませたら側面にもクリームを塗り、ここからがわたしが一番不安視している工程。絞り袋を使った、仕上げことデコレーションの作業だ。
「この『うにょん』とした形に絞りだすのが、なかなか難しい。…………上手くいってくれ……っ」
己を信じ、ケーキの表面を飾り付けてゆく。
レアル曰く、素人は心を無にすべし。師の教えを守りつつ、無心で両手を動かし…………………………。
「ふぅ。できた……っ」
何個かはやや崩れてしまったが、初心者にしては上出来だと思う。やや甘い採点になってしまうが、自信を持って提供できるケーキとなった!
「これを更に冷やして、クリームやスポンジを落ち着かせる。師匠が推奨する時間よりは時が空いてしまうが、それは致し方ないな」
今が深夜3時なので、食べるまでに12時間以上ある。叶うなら理想的な時間から始めたかったが、これでも一国の王なのだ。午前中は多忙故にしょうがない。
「……明日は午前8時半から、会談だったな。さて、そろそろ寝るとしよう」
使った器具を洗い、片付け、彼らに感謝をして自室のベッドに入る。そうすれば今夜は瞬く間に瞼が下り、一分もしないうちに夢の世界の住人となって――。
娘との再会の前に、そこでもう一つの再会をする事になるのだった。
「あなた、久しぶりね。今日まで、そして今日一日、お疲れ様」
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