再会前夜の準備(はしゃぐお父さん)と奇跡(1)
「頼む、頼む……。そなたを、信じているぞ……っ」
両手を力強く組み、心の奥底から祈りを送る。
必死かつ懸命に懇願する相手は、ケーキのスポンジ。わたしはかれこれ十分近く、彼? の様子を見守っていた。
「お主は、#明日__あした__#の主役になるのだ……っ。綺麗に焼けてくれ……!」
#明日__あす__#は、ここにリーズがやって来る。わたしにとっては十七年ぶり、あちらにとっては実質初めて顔を合わせる日なのだ。
………………。
そんな特別な日には、特別なものを用意しなければならないだろう!!
そこでわたしは『再会パーティー』の開催を計画し、部屋のセッティングとメニューの監修を行った。
ピンクとオレンジ、ブルーとグリーンの紙でリボンを40個せっせと作って飾り、同色同量でお花も作って貼り付けた。
仕上げは、『リーズおかえりなさい!』の横断幕。こちらは5メートルの長さで作成し、四苦八苦しながら独りで取り付けた。
記念日なのだから、わたし独りで行うのは至当なのである!
『…………ふぅ。6時間もかかってしまったが、どうにかできたぞ。料理もあの子が好きそうなものを考えた事だし、これで準備は――待てよ……。料理は、完全に人任せになってしまうな……』
ここまでやったのなら、全て自分でやってしまいたい。
しかしながらわたしは、一度も調理場に立った経験がない素人だ。こんな男が、コース料理を作れるわけがない。
なので、せめて一品だけでも……っ。参加したい……!
『すまない、料理長。わたしに知恵を貸してくれ……っ』
『一品だけでもリーズ様に提供したい、ですか……? そうですね……』
『刃物を握った経験がない初心者でも作れる、できれば存在感があるものはないだろうか……っ。無茶な要望だと承知しているが、ないだろうか……っっっ!?』
『包丁未経験で、存在感ですか……。それでしたら……』
『んっ? なんだ料理長っ!?』
『ケーキ、苺のショートケーキはどうでしょうか? こちらでしたら刃物はほぼ使いませんし、ある程度簡単かつ存在感もありますよ』
ケーキといえば、デザート。デザートいえば、最後に食べるもの。最後に食べるものといえば、最も印象に残りやすい。
…………流石はこの道45年の大ベテラン。完璧なチョイスだ。
『ケーキは息子の得意分野ですので、これから彼に作らせましょう。実際の工程を目視しておけば、初めてでも充分可能になりますからね』
『料理長、感謝する……っ。同時にメモを取る故、少々待っていてくれ――いえ、待っていてください師匠!』
こうしてケーキ作りの特訓が始まり、目と耳を使ってイロハを頭に叩きこんだ。
真なる玄人は、素人への教授が実に上手い。彼の息子レアルのおかげでわたしは無事調理場に立てるようになり、ここからは独りで。#大事な戦い__ケーキ作り__#に取り掛かったのであった……っ!
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