サーシャの告白(2)

「ユーグ様なぜですか!? どうして、リズではなくトレーを選んだのですか!?」


 ワタシは、リズの従者。即ちライヤル家に雇われている人間で、この振る舞いは無礼の極みにあたるものです。

 けれどその時はもう爆発していて、感情のコントロールができなかったのです。


「どうしてですか!? そっちの方が大事だから、最優先としたのですか!?」

「サーシャ、勘違いをさせてごめん。僕はね、リーズを悲しませたくなかったんだよ」


 え? 悲しませたくない?

 何を、言っているの?

 言葉の意図を掴めず、おもわずキョトンとしてしまいました。


「ここにあるのはリーズが初めて、心をこめて淹れてくれた紅茶。そんなものが台無しになったら、ショックだよね? それにこの子は、物を大事にする子。カップ達が落ちて割れてしまったら、悲しんでしまうよね?」

「それは、そうですけど……っ。それでもっ、リズの体が第一ですっ! そうは思わなかったのですかっ!?」

「ううん、思っているよ。だから真っ先に確認をして、君が抱き留めてくれるのだと分かった。二つある脅威の一つは、防げると確信したんだ」


 ユーグ様は「助けてくれて、ありがとう」と、丁寧に頭を下げてくださり――。こんな振る舞いに不満の色を僅かも見せず、不安げにしているリズの頭を撫でつつ続けます。


「僕がこの世で一番大切な人は、信頼できる人が守ってくれる。なので僕は安心して、もう一つの脅威に集中できたんだよ」

「……。『この世で一番大切な人』なら……。真っ先に、自分で動きたくなるものだと思いますが?」

「そうだね。でも今の僕は、まだ弱い。独りでリーズを守りきる事なんてできない。だから、味方を――信頼できる人を、頼らせてもらったんだよ」


 その時は、見間違いだと思いました。けれどその際に覗いた気がした自虐の色は、今なら見間違いでないと断言できます。

 そして。その時のユーグ様は、どんな想いで言の葉を紡いでいたのかも。

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