番外編 サーシャの告白(1)
幼い頃のワタシは、ユーグ様が嫌いでした。実は世界で一番と感じる程に、あの方を嫌っていました。
なぜならユーグ様は、一か月に一度だけしか戻られないから。しかも毎回、たった一時間で去ってしまわれるのだから。
『サシャ。ねえサシャっ。明日は、何の日かわかる~?』
『もちろんよ。ユーグ兄様の日、よね?』
『うんっ、正解~っ。明日が楽しみっ』
リズはあんなにも心待ちにしているのに、これなのです。
どうしてすぐ帰ってしまうの!? 妹が大切なら、もっと会いに来るでしょ!? 留学といっても隣国なのだから、その気になれば時間を作れるでしょ!?
なんで、こんなにも少ないの!?
本当にリズを愛しているの!?
あの頃すでに今の職に就いていたとはいえ、中身は一桁の女の子。仕事に関してはすでに一人前でしたが、そういう面に関しては半人前以下。
あの時は広い目で物事を見れず、心の中ではいつも怒っていたのです。
――あの時までは――。
あれはワタシ達が9歳の頃の、リズ曰くユーグ兄様の日の事。リズがユーグ様のために、自分で淹れた紅茶を運んでいた時でした。
「お待たせしましたっ。これね、私が作ったアールグレイです――ぁわっ!?」
リズの足が躓き、トレーごと転びそうになりました。
危ないっ! 傍にいたワタシは慌てて抱き留め、ホッと胸を撫で下ろし――。その直後に、唖然となります。
「ふぅ、よかった。リーズ、紅茶達も無事だよ」
なんとユーグ様はトレーを巧みに抱いて、爽やかに――呑気に、微笑んでいたのです。
リズが…………妹が危なかったのに、そっちを優先した? そのカップやソーサーは高価だから、リズよりそっちを選んだの?
日頃から不満が溜まっていたワタシは、そんな思いが起爆剤となって――。気が付くと、大声を上げていました。
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