幕間 3日後の牢屋で(2)
「素直に滞在してくださるとは、思っていませんでしたよ。あちらでも、積極的に動かれていたのですね?」
肩をすくめていたディオンは、呆れと感心混じりの息を吐きました。
「いえいえ、貴方と敵対するような真似はしませんよ。祖国の王家について思案しながら散歩をしていたら、偶然小耳に挟んだだけです」
「ああ、そうでしたか。我が国では散歩をしていると、『共和制への移行』についての情報が手に入るだんなんて。二十五年暮らしていますが、初耳ですよ」
王制から共和制への移行。
ジェナでは醜い王族内の争いが絶えず、多くの無意味な血が流れた。国の発展に、大きな影響が出てしまった。
そこで混乱を治めた国王と王太子が宰相など知識人を集め、今後について忌憚なき意見を出し合う。その結果『王制の廃止』が浮上し、ディオン達は『自分達の死後に過ちを繰り返さないようにしたい』と即決。現在までに膨大な数の会議を重ね、新たな制度や法律が出来上がっていたのです。
「恐らくはジェナという国が、協力のお礼をくださったのでしょうね。こうして知得したのも、何かの縁ですので」
「ええ、僕達が作ったものを開示しましょう。現状維持は民の為にはなりませんし、貴方は信頼に値する人物ですからね」
主観的に見ると、本当に民を愛しているから。客観的に見ると、利口だから――争いを招くような真似はしないから。
ディオンは迷わず、協力を約束しました。
「とはいえ――。続きは、言わずもがなですね?」
「隣国であっても、ナイラとジェナは違う国。教えて頂いた情報は『参考』にし、大勢で会議を重ねて最終的には独自のものとしますよ」
ジェナで適切なものが、ナイラでもそうとは限らない。その逆もしかり。オーギュストの脳内には当然ソレがあって、当たり前のように即答しました。
「オーギュスト殿のような方が居れば、この国も安泰ですね。その様子だと、早速動かれるようですね?」
「なぜか、共和制に関する書類をこの場で頂けるようですしね。善は急げと申しますし、着手しますよ」
曲者は、お互い様ですね――。そんな思いを乗せてディオンの従者を一瞥し、「ところで」と口元を緩めます。
「王太子殿下は、これからどうされるのですかね? 失われていた妹君との時間を、取り戻すのですか?」
「そう、ですね。まずはジェナで父に会ってもらって、そのあとは…………リーズ次第、ですね。あの子がどんな選択をするかによって、未来は変化します」
「ふふ。その変化は、恐らく――おっと。これも無粋ですね」
オーギュストは自身の口に左手を添え、それを切っ掛けにして顔が真面目なものへと変わる。そんな状態となった彼は姿勢を正し、右手を伸ばしました。
「お互いある意味、ここがスタート地点ですね。殿下の未来に幸あらんことを」
「レーフェル卿と貴方が信頼を置く人々ならば、新生するジェナに勝るとも劣らない国を作れると信じています。新たなナイラを絶賛する声が聞こえる日を、楽しみにしていますよ」
ディオンも同様の面持ちで右の手を伸ばし、しっかりと握手を交わす。愚かで間抜けな者の前で両雄は互いの検討を称え合い、二人はそれぞれ一歩を踏み出したのでした。
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