幕間 フィルマンの罠(2)

「リーズ。もしかしてお兄さんって、もうすぐ結婚するんじゃないの?」


 フィルマンが自室で笑った次の日。学舎にある教室内で、リーズの友人2人が――フィルマンが買収した女子生徒が、作戦のその1を開始させました。


「……え? けっこん……?」

「三か月も帰ってこれないって、ヘンだよ~。忙しいのもあるかもだけど、結婚の準備とかもしてるんじゃないの~?」

「お兄さんって、25歳なんでしょ? ウチのお兄ちゃんは24でしてるし、アタシもそう思うな」


 二人は推測と実例を交えて喋り、リーズの中に『兄の結婚』という思いを増やしてゆきます。


「け、けど……。そんな話は、一度もしたことが……」

「男の人って意外と照れ屋で、直前まで黙ってるパターンが多いんだよ。実際お兄ちゃんもそうで、結婚を決めるまで家族全員に黙ってたんだもん」

「そ……。そう、なんだ……」


 話し相手は、去年からのクラスメイト。仲が良い存在からの言葉なため、リーズはあっさりと信用してしまいます。


「その時は、アタシも驚いちゃったんだけどさ。よくよく考えてみたら、お兄ちゃんは大人なんだもん」

「……おとな……」

「アタシ達と違って活動範囲が広くって、色んな出会いがあるんだからさ。恋も当然、するよね」

「……………………。そう、だね……」


 友人が口にした台詞は、いま自分自身の頭を過っていたものと同じ。そんなこともあって、リーズの中ではすっかり結婚が確定事項となってしまった――フィルマンの狙い通りになってしまったのでした。


 そして、その数日後――。

 リーズが大きなショックを受けてから、数日後――。


「君は、とても悲しそうな顔をしているね? どうしたのかな?」


 舞踏会で憔悴するリーズに優しい声をかけ、フィルマンは急激に距離を詰めてゆく。


「俺でよければ、相談に乗るよ。こうして出会ったのも何かの縁だし、いつでも、なんでも言ってね」


「二人きりの時は王太子ではなく、友達として接してよ。その方が、もっと君を励ませるから」


 そうしてフィルマンは弱った部分を利用して頻繁に会うようになり、作戦その2もあっさり大成功。彼はリーズの傷心を巧みに操り、好意を抱かせることに成功したのでした。

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